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源氏物語の翻訳について
- 源氏物語の翻訳について A.Waleyの『 TALE OF GENJI 』(帚木 The Broom-Tree)からのわからないところと訳の間違っているところを教えていただければと思います。
- 質問文章1の要約文:「女性の美徳の一番は、どんなに彼女の分担にふりかかる不正でも、優しさと寛容で受けることです。しかし、その考えを待っていた源氏は寝てしまい、頭中将はがっかりしました。」
- 質問文章2の要約文:「馬頭が羽を整えて立ち、頭中将は彼の意見を聞く気になりました。女性は職人の仕事のようであると馬頭が言いました。」
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今晩は。梅の木にメジロが押し寄せるようになりました。 いつも大変丁寧なお礼をありがとうございます。 1)『 ”But when all is said and done, there can be no greater virtue in woman than this: that she should with gentleness and forbearance meet every wrong whatsoever that falls to her share. ” He thought as he said this of his own sister, Princess Aoi; but was disappointed and piqued to discover that Genji, whose comments he awaited, was fast asleep. 』 ●文法、語法ともに大変難しいものを含んでいます。 when all is said and done:イディオムで「結局のところ、つまるところ」 with gentleness and forbearance:with は、「~とともに」ではなく、手段を表す「~で、~を以て」です。 He thought as he said this of:think of に、as he said this「彼がこれを言った時」が挿入されている形です。 >there can be no greater ~・・・「can」がうまく訳せませんでした。 ●相変わらずの丸暗記ですが、can は、1)できる、2)~であり得る、cannot は、1)できない、2)~であり得ない、~のはずがない、の訳語を覚えておくと役に立つかもしれません。いつもではないですが、 be動詞を伴いますと、どちらも、2)の意味になる確率が高いです。 ここは no があり否定文なので、「あり得ない」でいいと思います。 >~in woman than this・・・「this」は次の「that以下」ですか?? ●その通りです。したがって this は「これ」と訳すより、「次のこと」と訳したりします。 >she should with gentleness~・・・ここの「should」は(期待・可能性)の意味の「きっと・・・だろう」「・・・のはずである」ですか? ●もっとも難しい should の用法で、「仮定法の代用」という範疇に入れられるものです。should を抜かして、that she with gentleness and forbearance meets every wrong whatsoever that falls to her share. と直説法で言い切ってしまいますと、そういう人がいるということが事実として確定してしまいます。しかしここは、そういう女性がいたら、それが最高の女性だ、という想念の世界の話ですので、どうしても仮定法的なshouldが必要になるのです。 >meet every wrong~・・・・「meet」は(同情・敵意・災難などを)「受ける」の意味ですか? ●「直面する」の意味ですから、「~に処す」という意訳がいいと思います。 >whatsoever that falls to her share~・・・・・「falls to」は「~にふりかかる」? ●その通りです。 >whatsoever・・・代名詞ですか? ● whatsoeverは、whatever の強意形で、代名詞と形容詞の2つの品詞として働きます。代名詞として働くときは後ろにSVを伴うなどして、節になりますので、ここは形容詞でwrong(名詞)に掛かっています。意味は of any kind(どんな種類のものであるにせよ、その)です。that falls to her shareも、every wrong に掛かります。 >her share・・・「share」の意味をとるのが難しいです。「分担」? ●おっしゃる通り、「取り分、分担」では分かりにくい場合がよくあります。特に不幸や災厄という文脈では難しいです。この世に生きている限り、誰しも不幸・災厄がゼロというわけにはいきません。当然ある程度の不幸・災厄を覚悟しなければなりません。その分量を one’s share と表現するわけです。 ということで、that she should with gentleness and forbearance meet every wrong whatsoever that falls to her share の訳は、「もし女性が、我が身に降り掛かってくるいかなる不幸にも、1つ1つ、優しさと忍耐を以て処すことができるようであれば、(それ以上に素晴らしいことはございますまい)」となります。 >as he said this of his own sister・・・・「this」は「she should with gentleness~that falls to her share.」ですか? ●そうですね。そこも含めた、”But when … that falls to her share. ”全体でしょう。 >あらゆる不正を優しさと寛容で受け止める女性というのが、女性の美徳の一番である、という趣意ですか? また、この女性は葵上のことである、と頭中将は感じた、ということですか? ●その通りだと思います。 2)『 Uma no Kami was an expert in such discussions and now stood preening his feathers. To no Chujo was disposed to hear what more he had to say and was now at pains to humor and encourage him. ”It is with women” said Uma no Kami, ”as it is with the works of craftsmen. 』 >馬頭はそのような議論の専門家でした。そして今彼の羽を整羽して立ちました。頭中将は、ややもすればもっと彼が言う必要があることを聞きたい気がしました。そして今、彼を満足させ、勇気づけようと骨を折りました。 「女性に関して」と馬頭は言いました。「それは技芸家(職人)の仕事に関してのようです」・・・・・? ●what more he had to say:what one has to say は、「言わなければならないこと」ではなく、「言うために持っていること」→「言いたいこと」です。 humor:「機嫌を取る」です。 >now stood preening his feathers・・・意訳するとどういう感じなのでしょうか?服装をきちんと整えて、というニュアンスでしょうか? ●得意になって話してきて、いよいよ油がのろうとしているイメージだと思います。落語家が羽織を脱ぐような感じ? >It is with women・・・Itは仮主語のItですか? >It is with women as it is with the works of craftsmen. ・・・・「with women」と「with the works of craftsmen」を同格で並べて言っている内容に思えますが、うまく訳せませんでした。 ● it は状況のit とらえるといいと思います。「事情は女性に関して、事情が職人の作品に関してあるのと同様です」→「女性についての事情は、職人の作品についての事情と同じことです」 女性論を、技芸に喩えながら行おうとしているのです。 >「with」・・・・関して? ●その通りです。 >女性は職人の仕事のようだ、という意味ですか? ● その通りです。 >ここでは葵上が女性の美徳を兼ね備えているように書かれていますが、源氏とはうまくいっていませんね。 ●ということはつまり、女性論という一般論は、必ずどこかで破綻するということですね。うまくいくかうまくいかないかは、個々のケースで千差万別で、それを定式化することはできない---紫式部はそれを十分意識しながら、左馬頭に語らせていると思います。 ************************* 《余談》瞬く間に何冊も読まれたようで、何度も驚かされます。 江口渙『わが文学半生記』では、芥川、谷崎、武林無想庵の3人が話していて、芥川と谷崎が自説を譲らず火花を散らすような場面があったかと思いますが、ああいうところに、下町人の「意地」を見るような思いがします。 ただし、谷崎は江戸っ子なるものの短所も父親に見て取っていたようで、あまり下町を理想化してもいけませんが...(谷崎が関東大震災を境として、関西に移住し、関西の女性と結婚したのは有名です。) (自伝は、歴史や社会的なことも書き込んでありますので、面白いですね。菊池寛『半自叙伝』、正宗白鳥 『文壇的自叙伝』などもよく知られた自伝です。) 下町の美学に「粋」がありますが、歌舞伎や落語などにもその片鱗を窺うことができますね。(つづく)
お礼
今晩は。梅の木にメジロだと絵になりますね。 いつも大変丁寧に回答をしてくださってありがとうございます。 1)は雰囲気はなんとなくつかめた感じがあったのですが、文法と語法をちゃんと 教えていただいて大変勉強になりました。 「when all is said and done」・・・なんとなく出だしに「when」がきているのが 不自然に思われたのですが、「結局のところ、つまるところ」というイディオムだったのですね。 「with gentleness and forbearance 」・・・「優しさと寛容で」ですね。 「He thought as he said this of his own sister」・・・「He thought of his own sister」と「as he said this 」に分かれているのですね。ここの「this 」と「of」のつながりについてあれこれ考えたのですが(this is of his own sister?など)、「thought of」とつながっているというのを教えていただいて、そうだったのかと思いました。 (「as he said this 」が挿入されているというのはとてもわかりませんでした) 「there can be no greater virtue in woman than this」・・・「次のことより立派な美徳は女性の中にあり得ません」? 「she should with gentleness and forbearance meet every wrong whatsoever that falls to her share.」・・・・ここの「should」は、「仮定法の代用」という範疇に入ることがわかりました。 「It can be tested by anyone who should choose to try.」という文が辞書(PROGRESSIVE)にありますが、これと同じ用法でしょうか?(お望みの方はどなたでもお試しになれます)「should」を省くと望む人が確実にいることになってしまう? 「whatsoever」は「wrong」にかかる形容詞なんですね。「that falls to her share」も「every wrong 」にかかってくるのですね。難しいところですね。「whatsoever」の捉え方が違っていたので正しく訳せませんでした。 「her share」(one's share)・・・これは「誰しもが被る不幸・災厄の分量」のことを表しているのですね。 言葉に置き換えるとうまく表現できないところでもありますね。 正しい訳を教えていただいてありがとうございました。 2)「what more he had to say」・・・「had」は動詞の「持つ」(過去形)、ですね。(have to do~で訳してしまいました) 「humor」は「機嫌を取る」の意味ですね。 「now stood preening his feathers」・・・ここはどういうことなのか全くわかりませんでした。 stoodが入っていたのでもう立ち去る用意をしているのかな?と思いましたがこれからますます話し込もうとしている様子だったのですね。 「It is with women as it is with the works of craftsmen.」・・・ 「It」は何かを指しているのではない思ったのですが、「状況のIt」だったのですね。 一般論では収めきれないということでしょうか。相手の人の度量や相性もありますね。 この場面で源氏が都合よく(?)寝てしまっていたというところがちょっとおもしろいところでした。 ********************************* 江口渙『わが文学半生記』の中で芥川、谷崎、武林無想庵の3人が源氏物語、枕草子、伊勢物語、竹取物語~ 古今集、新古今集などなど錚錚たる古典について談論した場面ですね。 (みんなそのすべてにおいて談論ができるほど読み込んでいるのだなと思いました) 『谷崎において眼立ったことは、談論におけるその気魄のはげしさだった』とありますね。 芥川もはげしく渡りあったようですが、二人とも「下町人」ですね。 谷崎は『細雪』=関西のイメージが強い作家でした。 谷崎は歌舞伎にも精通していたようですね。 落語もからっとした「粋」があるのが楽しいですね。(あまり詳しくないですが) *********************************** 前回紹介してくださった 『瘋癲老人日記』、『鍵』、『グリーブ家のバーバラの話』を 読みました。 『瘋癲老人日記』はあそこまで極めると滑稽さを感じてしまいました。 (実際義父がああだったらとても困ると思うのですが。。。笑) 『鍵』は「ミステリー」ですね。 両作品ともとても際どい内容でしたがテンポよく読めてしまうのは ユーモアが感じられた所為でしょうか。面白かったです。 『グリーブ家のバーバラの話』はバーバラが彫刻をエドモンドと思って 生涯を送っていくのかな(愛を極める)と思ったのですが アプランドタワース卿の策略に取り込まれてしまいましたね。 谷崎の『春琴抄』は女性の方の姿を変えてしまう話に置き換えて、 「永遠の愛」を描いているのだなと思いました。 菊池寛の『半自叙伝』、正宗白鳥の 『文壇的自叙伝』も読んでみますね。 (金曜日にまた投稿します)