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源氏物語の翻訳について
- 源氏物語の翻訳、A.Waley『TALE OF GENJI』(帚木 The Broom-Tree)について質問です。
- 3つの具体的な箇所について、意味やニュアンスの理解を求めています。
- お願いしたい箇所は、1)「sit」と「apart」の意味、2)「then」と「as I have suggested」の意味、3)「that in the end」と「we may not lack a place of trust.」の意味です。
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今晩は。ぽかぽか陽気でしたが、寒さのぶり返しが来そうです。 1) >何かの政治の行事が彼を大変狼狽させるか、楽しませることもよく起こります。そして彼はそれについて誰かと話すことを切望して、離れてじっとしています。彼は突然何か秘密の回想を笑うか、もしくは聞き取れるほどにため息をつきます。しかし妻は「どうしたの?」とそっと言うだけです。そして何も興味を示しません。・・・・・・? ●完璧です。 ここは、現代の男性の多くに身に覚えがあるかと思われる部分です。ずいぶん端折られていますが、原文と現代語訳は以下の通りです。 朝夕の出で入りにつけても、公私の人のたたずまひ、善き悪しきことの、目にも耳にもとまるありさまを、疎き人に、わざとうちまねばむやは。近くて見む人の聞きわき思ひ知るべからむに語りも合はせばやと、うちも笑まれ、涙もさしぐみ、もしは、あやなきおほやけ腹立たしく、心ひとつに思ひあまることなど多かるを、何にかは聞かせむと思へば、うちそむかれて、人知れぬ思ひ出で笑ひもせられ、『あはれ』とも、うち独りごたるるに、『何ごとぞ』など、あはつかにさし仰ぎゐたらむは、いかがは口惜しからぬ。 谷崎訳:夫は朝夕の出入りにつけても、公私の人の振舞い、良い事悪い事となく見たり聞いたりしたことどもを、どうして気心の知れない者にしゃべりましょうぞ。やはり身近にいて、自分の話が分かってくれる人に聞いてもらおう、と思うにつけて笑いも浮かべば涙も催すのです。あるいはまた、他人事ながら腹が立って心一つに思い余ることがたくさんあったりする時、そんな具合では何を話しても無駄だと思うと、つい横を向いて、こっそり思い出し笑いが出たり。『ああ』と独り言が出たりしますが、ようようそれを聞きつけて『何事でございます』などと、間の抜けた様子で男の顔をのぞきこむ、といった様子では全く情けなくなります。 >he sits~・・・・・「sit」は「座る」?「じっとしている」?どちらのニュアンスでしょうか? >he sits apart~・・・「apart」は「離れて」ですか?誰かと話したいのに、離れてじっとしているという意味がわかりません。 ●(妻から)離れて座るということでいいと思います。孤独な思いを胸に溜めている振る舞いですね。Waley訳は、「うちそむかれて」の部分を訳しているのかと思いました。 英国では上流階級の男は、(妻に対してでも)くだくだ言うことはみっともないこととされていますので、善意で解釈すれば、Waleyは、そうした部分を意図的にカットしたのかもしれません。 2) >これは大変腹立たしくなりがちです。 馬頭はいくつかの他の場合を考察しました。しかし彼は明確な結果に達しませんでした。そして深くため息をつきながら彼は続けました。「私たちはその時、私が提案していたように、生まれと美しさを台無しにさせるでしょう。・・・・・? ●最後の部分以外、完璧です。 >We will then・・・・・「then」はその時? ●then は、私の丸暗記脳には、1)その時、2)それから、3)そうすれば、4)それゆえに、とインプットされており、この場合は、4)がいいのではないでしょうか。 あれも駄目、これも駄目、【だったら】こういうことにしましょう、という文脈ですので、「そうであれば」という訳語が一番いいかもしれません。丸暗記は結局、限定的な力しか持てませんね。 >as I have suggested・・・・「提案していたように」?「ほのめかしていたように」? ●これより前のところで、生まれが高貴でも駄目なのがいる、美しくても駄目なのがいる、と論じているのを承けたものだと思います。「先の議論でも少し触れましたように」くらいの気持ちでしょう。 >let birth and beauty go by the board・・・・ここの意味がよくわかりません。「go by the board」・・・台無しにする?? (妻の夫に対するそっけない対応が、彼女の生まれと美しさを台無しにさせるということですか? でもWeが主語なので、「私たちが~を台無しにさせる」、という文では変な感じですね。) >それともここ「go by the board」は・・・「無視される」、ですか?(let ~ go by the board・・・無視させる?) ●調べてみると、go by the board は、船の舷側を超えて行く、つまり、海へ投げ込まれるというイメージのようですね。(つまりこの場合、by = over なのですね。)そこから「捨てられる、廃される」という意味が派生してきたようです。let A go by the board だと、Aが海へ投げ込まれるがままにする、ということですから、Aを海に投げ込む、Aを捨てる、Aをあきらめるといった意味になります。おっしゃっている「Aを無視する」という訳でも成立すると思います。 http://www.phrases.org.uk/meanings/by-the-board.html 訳は「ですからわれわれは、前にもちょっと触れましたが、生まれや美しさは、良妻の条件としてはカウントしないことにいたしましょう。」くらいです。 3」 >彼女に最もつつましくなるように、彼女が親切でおとなしい気質である限りは創造物の最も偽りのないようにさせなさい。結局は私たちは信頼の場所を欠かな いでしょう。そしてもしある他の美徳が彼女のものになることを偶然発見するなら、私たちは幸運な出来事としてそれを大事にするでしょう。・・・・・? ● of a peaceable dispositionは、「of + 抽象名詞=形容詞」という公式に含めて覚えるといいもので、形容詞で、honest と並列です。that~may は、下に書いたように、目的構文ですので、訳は 最終的に自分が心から信を置ける場を失わないために、理想の妻は、正直で穏やかな気質でありさえすれば、単純かつ無技巧そのものの女性でよしということにしましょう。そしてもし何か他の美徳がたまたま備わっていたとすれば、それを思わぬ賜物としてありがたく思うことといたしましょう。 となります。 >that in the end・・・・「that」がここに入ってるのはなぜですか? >we may not lack a place of trust.・・・・「may not lack~」は不可実な推量の「欠かないでしょう」?それとも禁止の意味の「欠いてはいけません」でしょうか? ●so that~may 構文は」目的構文ですが、いろんなバージョンがあります。 1)may は、can, will, should である場合もある。助動詞がない場合もある。 2)that は口語ではしばしば省略される。 3)so は文語では時おり省略される。 この場合は、3)ですね。that~may で目的構文になっています。 >彼女がつつましく、偽りのない女性であるならば、夫との信頼関係は保たれる、ということでしょうか? ●男としては、それを以て満足すべきだ、ということでしょうね。その余は frillとせよということですね。現代の男性が行う女性談義でも、「気立てがよくて正直者であれば、それが一番だよ」という説は、よく出る、論駁しがたい説になっています。 >夫に妻への言い分があるのと同じぐらい妻にも夫への言い分はあるはずですね。 ●近年になってやっと一部の男性たちはそれに気づき始めたというところでしょうか。とある外国のコイン・ランドリーに、男性が守るべき何か条とかいう女性の主張が張り出されていて、恐る恐る読んで肝を冷やした思い出があります。女性たちの積年の不満は、今後も延々と噴出してくるのでしょうね。 ************************* 《余談》メレディスの『喜劇論』まで読まれているとは...議論は難解ですが、アリストファネスやモリエール等、西洋喜劇のどんなものが優れているか挙げられていて、良い読書案内にもなっていますね。 西洋文学の優れている特質として、humour(ユーモア)、esprit(エスプリ)、wit(機知)、irony(皮肉)、satire(風刺)、などありますが、喜劇的なるものは、これらを含むことはあっても、全体として、何かこれらに還元できない特異なものを有しているように感じられます。ただ単に、笑いやハッピーエンドだけというのではないように思われますね。何か西洋的なものがあるような... 西洋の「喜劇的精神」というものを自家薬籠中のものにして、日本の観客に楽しんでもらいたい---それが、岩田豊男と岸田国士が渡仏した目的の1つだったでしょう。両人とも演劇を研究しましたが、フランスでは会わなかったということです。帰国後に出会ったのですね。演劇の神様が二人を引き合わせたようなものでした。(つづく)
お礼
今晩は。このまま暖かくなって欲しいと思いますが、また水曜日に寒くなりそうです。 いつも大変丁寧に回答をしてくださってありがとうございます。 原文と谷崎訳を紹介してくださってありがとうございます。 (この部分はWaleyは簡潔にまとめている感じですね) 「現代の男性の多くに身に覚えがある」ということですが、一人で考えている時間を大切に していたい、という心情でしょうか?(もしくは妻や彼女に話してもしょうがない、と 思う事がある?) うちそむかれて=つい横を向いて=apart、ですね。 英国の上流階級の男性は日本の武士みたいなところがあるのですね。 「then」は「それから」ではないのはわかったのですが。。 「そうであれば」なのですね。 馬頭が明確な結果に達しなかったというのは、「あれも駄目、これも駄目」という 感じなのですね。 「suggest」の部分は「生まれが高貴でも駄目なのがいる、美しくても駄目なのがいる」という 議論をしていたことを指しているのですね。 「let birth and beauty go by the board」はいろいろ考えてみましたが 語源を考えてみるといい感じですね。(by = over とは気がつきませんでした) (意味と語源が書かれているサイトを紹介してくださってありがとうございます) 「カウントしないことにしましょう」となるのですね。 (なかなかこういう英文《go by the boardを使った文》は作れないですね。) 3)は前半の訳し方がかなり間違っていましたね。 ここは「so that~may 構文」なのですね。(soが省略されてthat~may 構文) 「【that】 in the end we【may】 not lack ~」は「~を失わないために」という 訳になるのですね。 「that」が「in the end 」の前に入っている理由がわかりました。 of a peaceable dispositionは、「of + 抽象名詞=形容詞」という公式に含めると 「穏やかな気質」となるのですね。 frill・・・ぜいたく、ということでしょうか? 「気立てがよくて正直者であれば~」というのは昔から変わらないのかもしれませんね。 コイン・ランドリーに張り出されていたという、男性が守るべき何か条とかいう女性の主張とは どんなものだったのでしょう?!女性たちは今はもう我慢しないですね。 ****************************** 『喜劇論』をもう一度読んでみました。 前回お話してくださったように、 『喜劇のあり得ない所には、文化は無い。喜劇は或る程度まで、男女の社会的平等から 生じる』とありました。 喜劇がどれくらい受け入れられているかということによって、その国の文化の発展が 計り知れるということもわかりました。また『人々の笑う事柄、笑いの響きによって 人々の洗練の程度を知る』というのもなるほど、と思うところでした。 たくさんの西洋喜劇が紹介されていましたが、その中にあったモリエールの『人間ぎらい』と 『タルチュフ』を読んでみました。全部セリフだけで書かれていましたが、違和感なく 物語として読めました。 (『人間ぎらい』はきっと誰もが笑ってしまうと思います。) 女性も男性と同じように言いたいことが言える、という前提がなければ成り立たないということを あらためて感じました。 『察しのいい喜劇性は、(これ等の)笑いの力を呼び起して、それに目的を与える 統制的な精神である。笑いと混同してはならない』 とありましたが、喜劇はもう一つ上の次元の領域を示すものなのかな、と思いました。 (私はまだまだちゃんと理解できていないのですが) 岩田豊男と岸田国士がフランスでは会わずに帰国後に出会ったというのは運命でしょうか? 演劇の神様はちゃんとシナリオを書いていたのですね。 (火曜日にまた投稿します)