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中国語や漢詩が得意な方の意見を

こんばんは。 私には、すごく気に入っている漢詩があります。それは沢木耕太郎さんの『深夜特急』に登場する詩です。 炎炎夏雨●●愁 肺病呻吟幾度秋 昔日書生吟勝地 今宵老残曳街頭 これは香港の物乞い(かつてロンドンに留学していた元エリート)が、路上で記したものです。 意味はおおむね理解できるのですが、●●の欠落した部分が非常に気になります(沢木さんも思い出せないと述べています)。 ●●の部分にどんな漢字が入ると思うのか、みなさんの意見を聞かせてください。 正解なんてありませんから、みなさんの感性で自由に考えてほしいと思います。 よろしくお願いします。 ※ すべての回答にはお礼ができないかもしれませんが、みなさんの意見にはいつも感謝しています。

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回答No.2

わたしは漢詩も広東語もできませんが、おもしろそうだったので手もちのもので解けるか ためしてみました。 1.準備 手もとに用意したのは本と字典だけです。  「深夜特急 1 香港・マカオ」(沢木耕太郎,新潮社)  「新字源」(小川環樹・西田太一郎・赤塚忠編,角川書店) 上の二つでわからないことはGoogleと Wikipediaで調べることにしました。 2.手がかりを探す 今回のお題は「沢木耕太郎さんがわすれてしまった物乞いの詩のなかの二文字」ですが、 漢詩について知識のないわたしにはなかなかとっかかりがつかめませんでした。そこで、 まず原文から手がかりになりそうなものがないか探してみることにしました。 本を読みなおしてみて、問題の整理につながりそうなものが三つほど見つかりました。  ・物乞いは白墨で書いているので文字の視認性は高く、沢木耕太郎さんが文字を誤認識   した可能性は低い。  ・沢木耕太郎さん自身「内容は私にも理解できるようなわかりやすいものだった。その   時は一度読んですぐ頭に入ってしまった」と述べている。  ・通りすがりのガイドの話では、物乞いは海外の大学で学んだ経験があるらしい。 沢木耕太郎さんに覚えまちがいや解釈のあやまりがなかったとは言いきれませんが、内容 自体は漢字の素養があればだれでも十分理解できるものだったのではないかと思います。 (そうでないと通りすがりのひとが読んでも意味がわからず、お金がもらえません ;-)) だとすれば、沢木耕太郎さんほどの方でも思いだせないような記憶に残りにくい字が含ま れていたとも考えられます。 また、真偽のほどはわかりませんが、物乞いはある程度教養をもったひとであったことが わかります。詩の内容からも若いころから漢詩に親しんできたことがうかがえますので、 漢詩を詠むうえで必要な基礎的な決まりごとを知っていたと考えられます。 これらを踏まえたうえで、今度は物乞いの詩から手がかりを探してみます。 物乞いの詩は四句で構成されており、一句が七文字であることから七言絶句に当たります。 「絶句」がなにかを確かめるために Wikipediaで「絶句」の項目を読んだところ、「起承 転結の構成を持つ」ということがわかりました。ためしに物乞いの詩に起・承・転・結を ふると以下のようになります。  起句:炎炎夏雨※※愁  承句:肺病呻吟幾度秋  転句:昔日書生吟勝地  結句:今宵老残曳街頭 起承転結というながれで考えれば、承句は起句の内容をいっそうふくらませたものになる と思われます。起句では物乞いの心情として夏の暑さと雨に相当悩まされているようです が、承句ではそれよりも重い肺病の苦しみが語られています。 この起句については沢木耕太郎さんも「暑さの中で、夕立に打たれながら、ある愁いもて 考える」と解釈していて、「自分のこの苦しい状態を救ってほしい。その思いが七言絶句 で表現されていた」とも述べています。このため、fujic-1990さんの解釈とは異なります が、起句で物乞いは思い悩んでいるととらえることにしました。 すこし話のながれを整理すると以下のようになるかと思います。  起句:いまは苦しい。    (話を説き起こす。)  承句:いままでも苦しかった。(起句よりももう少し苦しい思いを盛る。)  転句:昔はよいときもあった。(予想外のことをもちだして関心を引く。)  結句:でもいまは苦しい。  (結果どうなったかを述べて同情を買う。) 次に文法から手がかりが得られないか考えてみました。 今回文字がわからないのは起句だけなので、起句と承句だけ抜きだして「聯」というまと まりで文法の構造を考えてみます。 漢字が切れめなくならんでいると語と語をどこでわけたらいいか悩みますが、私は起句と 承句を構成している語は以下のようにわけることができると考えました。  起句:炎炎 夏雨 ※※愁  承句:肺病 呻吟 幾度秋 ここで着目したのは句末の三文字のならびです。承句は「数詞+量詞+名詞」とならんで いるので、起句の不明な二文字に対応するのは、承句の「幾」という不定の数を表す数詞 と「度」という量を表す語ということになります。このため「※※」にはなんらかの数詞 と量詞がくるのではないかと類推しました。 また、「起承転結」のところで述べた「承句は起句の内容をいっそうふくらませたものに なる」という点を考慮すれば、起句の「※※」には承句の「幾度」よりもいくぶん程度の 低い語がくることが予想されます。 3.問題の整理 いったんこれまでに考えてきたことを整理します。  ・「※※」には日本人にとって覚えにくい字が入る可能性がある。  ・物乞いは漢詩の決まりごとを理解したうえで漢詩を詠んでいる。  ・物乞いの詩は七言絶句である。  ・七言絶句の構成は起承転結であり、承句は起句の内容を受ける。  ・物乞いは窮状に苦しんでいる。  ・「※※」には数詞と量詞という組み合わせが入る可能性がある。  ・「※※」には「幾度」よりも程度の低い語が入る可能性がある。 4.語を探す ここまできたところで、「数詞+量詞」という組み合わせで、「幾度」よりも程度が低く、 日本人にとって覚えにくい字を含む語を字典で探すことにしました。 ためしに「愁」字で引くと、最後の方に「万斛愁(ばんこくのうれい)」というなじみの ない表現が載っているのを見つけました。なかでも「斛」という字は見なれないものです がこれは「十斗の分量」という意味で、「万斛の愁い」は「(十万斗もの)汲めども尽き ぬ思い」を表す語として使われるようです。(Googleから「万斛の愁」を検索したところ、 夏目漱石の「草枕」に「西洋の詩は無論の事、支那の詩にも、よく万斛の愁などと云う字 がある」という一文があることもわかりました。) この語はさきの三つの条件にマッチしているように感じられたので、これを採用すること にしました。 5.音から探す 最後に、音(正しくは声調)のならびからこの語が適切であるか確認することにしました。 Wikipedia の「絶句」や「近体詩」の項目によれば、漢詩には平仄(ひょうそく,抑揚に 似たもの)という厳密な決まりごとがあるようです。ということは、逆に「※※」の位置 にくる平仄のならびがわかれば、そこに入る語の組み合わせをある程度しぼりこむことが できるのではないかと考えました。 たとえば、字典を引いて物乞いの詩を一字ごとに平仄になおすと以下のようになります。  ○は平声,●は仄声  起句:炎炎夏雨※※愁     ○○●●●○○  承句:肺病呻吟幾度秋     ●●○○●●○  転句:昔日書生吟勝地     ●●○○○●●  結句:今宵老残曳街頭     ○○●○●○○ この詩は各句のはじまりかたから見て「平起式」と呼ぶようです。平仄の決まりに従えば、 不明な二文字の部分には「仄声+平声」というならびがくることが予想されます。 ところが、さきに挙げた「万斛」は「仄声+仄声」という組み合わせなので、「二六対」 という決まり(句の二文字めと六文字めの平仄を合わせること)に反してしまいます。 ただ、結句でも「残」字が「孤平」という決まりごとに従っていないので、故意に平仄の 決まりをやぶることで、詩のリズムになんらかの効果がくわわることをねらったとも考え られます。 とはいえ、このようなならびでも許されるかという点については、漢詩に造詣の深い方の 判断を待ちたいと思います。 6.まとめ このように見てきて、「沢木耕太郎さんがわすれてしまった物乞いの詩のなかの二文字は なにか」という問いに対し、私自身の答えは(平仄の点で問題が残りますが)「万斛」と したいと思います。 ちなみにこの二文字を補うと以下のような詩になります。  炎炎夏雨万斛愁 炎炎タル夏雨、万斛(バンコク)ノ愁(ウレヒ)  肺病呻吟幾度秋 肺病ミテ呻吟スルコト幾度(イクタビ)ノ秋(トキ・アキ)  昔日書生吟勝地 昔日ノ書生、勝地ニ吟ジ  今宵老残曳街頭 今宵ノ老残、街頭ニ曳(ヒ)ク おそらく詩の意味するところは  暑いさなか降りしきる夏の雨は、はかりしれず私を思い悩ませる  肺を病みながら詩を詠み(呻き)、どれほどの歳月を経たことか  昔、学生だったころは景勝地に赴き、よく詩をものしたものだが  今やこの街で老体を引きずるありさま(この窮乏を救ってほしい) ということなのだと思います。 7.おまけ 広東語では添付のファイルのように発音するようです。 物乞いの老人が呻吟していたときも頭のなかでたえずこんな音が鳴っていたのかもしれま せんね。(書きはじめたらおもいのほか長文となってしまい、もうしわけありません。)

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noname#206577
質問者

お礼

お金を払ってでも読む価値のある回答を、ありがとうございます。 正直、これほど高い水準のご意見は予期していなかったので絶句しました。 数日でこれほどのレポートを書けるなんて、すごいスキルをお持ちですね。うらやましいです。 この詩を余計に好きになりました。OKWaveに質問をしてよかったです。 沢木さん本人にも、このページを見てもらいたい。

  • fujic-1990
  • ベストアンサー率55% (4505/8062)
回答No.1

炎炎夏雨●●愁  (A) 肺病呻吟幾度秋  (B) 昔日書生吟勝地  (C) 今宵老残曳街頭  (D)  詩形と詩の内容を考えますと、C-Dは、昔と今という対比・対応になっています。  したがって、A-Bも対比・対応の詩になっていると思われます。  「肺病」の時の情景と「炎炎」の時の情景の違いとして、どんな言葉が●●に入るかと考えました。   呻吟と夏雨が対応する・・・ 両方の共通点は、「音」・・・ という具合です。  Bと極力離れる内容になるような言葉、を選ぶと結局。  炎炎夏雨打砕愁  (A)  肺病呻吟幾度秋  (B)  昔日書生吟勝地  (C)  今宵老残曳街頭  (D)  

noname#206577
質問者

お礼

早速のご意見、ありがとうございます! まさか一週間以内に回答があるとは思いませんでした。丁寧でわかりやすい解説でした。 やはり実際に漢字を書き込んでみると、2文字でも印象が異なりますね。何年も前から気になっていたので感動しました。 fujic-1990さんの意見を参考にして、今後は自分自身でも考えを深めていきたいと思います。

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