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- 森 蔵(@morizou02)
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1 事案 本件は,業務上の災害によって火傷を負い,症状固定後も顔面,胸部,腹部,上下肢等に瘢痕を残すに至ったXが,障害補償給付の支給の請求をしたところ,A労働基準監督署長から,上肢及び下肢の醜状障害と露出面以外の醜状障害につき準用第12級とし,これと外ぼうの著しい醜状障害(第12級の13)とを併合して障害等級表第11級に該当する旨の処分を受けたため,労働者災害補償保険法施行規則の定める障害等級表は,外ぼうの醜状障害について男女間で著しい差を設けている点において,憲法14条1項に違反するなどとして,Y国に対し,上記処分(本件処分)の取消しを求めた事案である。 2 判断枠組み 本判決は,労働者災害補償保険法15条1項により,厚生労働大臣は,障害等級表の策定についての裁量権が与えられているが,差別的取扱いに合理的根拠が認められなかったり,合理的な程度を越えた差別的取扱いがされているなど,当該差別的取扱いが裁量判断の限界を超えている場合には,合理的理由のない差別として,憲法14条1項に違反する,厚生労働大臣が障害等級表において(ほとんど顔面全域にわたる瘢痕で人に嫌悪の感を抱かせる程度に達しない)外ぼうの醜状障害について男女に差を設け差別的取扱いをしていること(本件差別的取扱い)が,その策定理由に合理的根拠があり,かつ,その差別が策定理由との関連で著しく不合理なものではなく,厚生労働大臣に与えられた合理的な裁量判断の限界を超えていないと認められる場合には,憲法14条1項に違反しない,とした。 3 あてはめ まず、裁判所は外貌の障害について男女差に差異がある点について、「Yが外ぼうの醜状障害が第三者に対して与える嫌悪感,障害を負った本人が受ける精神的苦痛,これらによる就労機会の制約の程度について男性に比べ女性の方が大きいという事実的,実質的な差異があることの根拠として挙げている諸点について詳細な検討を加えた上,国勢調査の結果は,外ぼうの醜状障害が第三者に対して与える嫌悪感,障害を負った本人が受ける精神的苦痛,これらによる就労機会の制約,ひいてはそれに基づく損失てん補の必要性について,男性に比べ女性の方が大きいという事実的,実質的な差異につき,顕著ではないものの根拠になり得るといえるものであり,また,外ぼうの醜状障害により受ける影響について男女間に事実的,実質的な差異があるという社会通念があるといえなくはないから,本件差別的取扱いについて,その策定理由に根拠がないとはいえない」と差異を肯定した。 しかし、「障害等級表では,年齢,職種,利き腕,知識,経験等の職業能力的条件は障害の程度を決定する要素となっておらず,また,外ぼうの点以外では性別による差が定められていないのであって,著しい外ぼうの醜状障害についてのみ,男女の性別によって大きな差が設けられていることの不合理さは著しいものというほかなく,また,そもそも,統計的数値に基づく就労実態の差異のみで男女の差別的取扱いの合理性を十分に説明しきれるか自体根拠が弱いところである上,上記社会通念の根拠も必ずしも明確ではないことなどからすれば,本件差別的取扱いの程度については,上記策定理由との関連で著しく不合理なものであるといわざるを得ず,したがって,障害等級表の本件差別的取扱いを定める部分は,合理的理由なく性別による差別的取扱いをするものとして,憲法14条1項に違反するとした。」うえで、違憲である本件障害等級表に基づいてXに適用された障害等級(12級)は違法であり,本件処分も違法であるとして,本件処分を取り消した。 本判決は,労働者災害補償(障害補償給付)の場面における外ぼうの醜状障害についての障害等級上の男女間の取扱いの差異を合理性を欠く差別であるとして無効であると判示したおそらく初めての裁判例であるが,同様の障害等級表の定めは,人事院規則16-0(職員の災害補償),地方公務員災害補償法施行規則のみならず,自動車損害賠償保障法施行令(別表第2)の障害等級表においても採用され,実務上後遺障害に係る損害額の算定基準ともされているところであるだけに,本判決の影響は極めて大きく,今後の議論の推移が注目される