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1 事案
本件は,交通事故によって傷害を受け,その後に後遺障害が残った上告人Xが,加害車両の運転手である被上告人Y1に対しては民法709条に基づき,加害車両の運行供用者である被上告人Y2に対しては自動車損害賠償保障法3条に基づき,損害賠償を求めた事案である。
原審である大阪高裁判平成21年7月29日(平成21年(ネ)第718号)は,(1)労災保険法の休業給付等については,第三者の被害者に対する損害賠償債務のうちの逸失利益に相当する部分のみを補償の対象とするものであり,これを超えて,同部分に対する遅延損害金をも補償の対象とすることがでず,上記休業給付等と同一の事由の関係にあるとみられるのは,逸失利益に係る部分の元本のみに限定されると解するのが相当であるとして,Xが支給を受けた休業給付等につき,本件事故によりXに生じた損害のうち逸失利益の元本との間で損益相殺的な調整をした。他方で,(2)任意保険金及び自賠責保険金については,先ず各支払日までに生じた遅延損害金に充当し,その残額を損害金元本に充当する方法により賠償額を算定した。
これに対して,Xが,(1)の本件休業給付等との間で行う損益相殺的な調整につき,これらが損害金の元本及びこれに対する遅延損害金の全部を消滅させるに足りないときは,これらをまず各補てん日までに生じている遅延損害金に充当し,次いで元本に充当すべきであると主張し,上告した。
2 本判決
本判決は、先に述べた判例を引用し、判断枠組みを維持したうえで、「 本判決は以下の通り判断してXの上告を棄却した。
本判決はまず,被害者が不法行為によって損害を被ると同時に,同一の原因によって利益を受ける場合には,損害と利益との間に同質性がある限り,公平の見地から,その利益の額を被害者が加害者に対して賠償を求める損害額から控除することによって損益相殺的な調整を図る必要があると述べる(最判平成5・3・24民集47・4・3039)。そして,被害者が,不法行為によって傷害を受け,その後に障害が残った場合において,労災保険法に基づく各種保険給付を受けたときは,これらの社会保険給付は,それぞれの趣旨目的に従い,特定の損害について必要額を補てんするために支給されるものであるから,これについては,てん補の対象となる特定の損害と同性質であり,かつ,相互補完性を有する損害の元本との間で,損益相殺的な調整を行うべきものと解するのが相当であるとした(最判平成22・9・13(平成20年(受)494号))。そして,被害者が不法行為によって傷害を受け,その後に後遺障害が残った場合に支給される労災保険法に基づく各種保険給付は,制度の予定するところと異なってその支給が著しく遅滞するなどの特段の事情のない限り,これらが支給され,又は支給されることが確定することにより,そのてん補の対象となる損害は不法行為の時に補てんされたものと法的に評価して損益相殺的な調整をすることが,公平の見地から見て相当であるとした。」
両判決が今後損害賠償請求訴訟の実務において有する意義は大きいものと思われる。