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論点1 付郵便送達の適法性 本件は、Xが、Y1(信販会社)から提起された前訴において、訴状等の付郵便送達が違法無効であったため、訴訟手続に関与する機会が与えられないまま、理由のないX敗訴の判決が確定して損害を被った旨主張し、Y1に対しては、前訴での受訴裁判所からの照会に対しXの就業場所不明との誤った回答をしたことにつき故意又は重過失があるとして(民法709条)、Y2(国)に対しては、裁判所書記官による付郵便送達の要件の認定及びその実施につき過失があり、担当裁判官にもこれを看過した過失があるとして(国家賠償法1条1項)、損害賠償を求めた事案である。 2 付郵便送達は、受送達者の住居所等が判明しているにもかかわらず、右住居所等における交付送達(補充送達・差置送達を含む)が不奏功であり、かつ、就業場所における交付送達(ただし、代人への差置送達を含まない)ができない場合等に認められる送達方法であるところ(民訴法103条2項、107条1項1号、旧民訴法169条2項、172条)、右にいう就業場所における送達ができない場合とは、受送達者の就業場所が判明してそこへの送達を実施したが不奏功となった場合のみならず、就業場所が判明しないためそこへの送達を実施すること自体ができない場合をも含むと解されている。 後者の場合については、送達事務取扱者である担当書記官にとって就業場所が判明しているかどうかが問題であって、就業場所の不存在が要件とされているのではなく、担当書記官が通常の調査方法を講じてもなお判明しないときには、右要件を充足することになるわけである。 本判決は、受送達者の就業場所の認定に必要な資料の収集は担当書記官の裁量にゆだねられており、担当書記官は、相当と認められる方法により収集した認定資料に基づいて、受送達者の就業場所の存否につき判断すれば足りるとし、担当書記官が受送達者の就業場所が不明であると判断して付郵便送達を実施した場合には、受送達者の就業場所の存在が事後に判明したときであっても、その認定資料の収集につき裁量権の範囲を逸脱し、あるいはこれに基づく判断が合理性を欠くなどの事情がない限り、右付郵便送達は適法と解するのが相当である旨の一般論を説示した上で、本件の具体的状況の下では、右のような事情があるとはいえないから、前訴における訴状等の付郵便送達は適法であるとして、Xの上告を棄却したものである。 論点2 実質的に矛盾関係にある場合の既判力 2 前記(1)事件において判示されているように、前訴におけるXに対する訴状等の付郵便送達は適法であるから、前訴の訴訟手続及び判決には瑕疵はなく、前訴確定判決には既判力が生じている(Xとしては、前訴において控訴の追完によって争うほかなかったであろう。)。Y1に対して支払った28万円につき不法行為による損害賠償を求めるXの請求は、確定した前訴判決の既判力ある判断と実質的に矛盾する損害賠償請求であり、いわゆる確定判決の不当取得(騙取)の問題として論じられてきているところである。 右のような損害賠償請求は、原則として許されるべきではないが、当事者の一方が相手方の権利を害する意図のもとに、作為又は不作為によって相手方が訴訟手続に関与することを妨げ、あるいは虚偽の事実を主張して裁判所を欺罔するなどの不正な行為を行い、その結果本来あり得べからざる内容の確定判決を取得し、かつ、これを執行したなど、その行為が著しく正義に反し、確定判決の既判力による法的安定の要請を拷慮してもなお容認し得ないような特別の事情がある場合に限って、許されるものとするのが当審判例の立場である。 本判決は、本件では、Y1が安易にXの就業場所不明との誤った回答をした点で重大な過失があるとされるにとどまり、Xの権利を害する意図のもとにされたものとは認められない以上、前記特別の事情があるとはいえないとして、原判決中Y1敗訴部分を破棄してXの控訴を棄却したものであり、確定判決の既判力ある判断と実質的に矛盾する損害賠償請求の可否に関して、(1)当事者の目的意図の不当性(相手方の権利を害する意図)、(2)手続的な不当性(相手方の訴訟手続に対する関与を妨げ、あるいは虚偽の事実を主張して裁判所を欺罔するなどの不正な行為)、(3)判決結果の不当性(本来あり得べからざる内容の確一定判決)を考慮要素とする当審判例の判断枠組みを踏襲した上で、新たな判断事例を付け加えたものであって、その先例的価値は少なくないと思われる。 XのY1に対する請求のうち、Xが前訴の訴訟手続に関与する機会を奪われたことによる精神的苦痛に対する慰謝料請求については、その性質上、確定した前訴判決の既判力ある判断と実質的に矛盾する損害賠償請求には当たらないと解される。 訴訟手続への関与の機会の喪失を理由とする慰謝料請求の可否については、これまでほとんど論じられておらず、どのような場合に認められる余地があり得るかにつき一般的な定式化を図ることは困難である上、この点に関する原判決の認定事実も十分でない点が考慮されたものであろう。