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1 本件の事実関係は,次のとおりである。すなわち,A(中小企業金融公庫)は,Bに対し,合計5口の債権を有しており,B及びCは,それぞれ自己の所有する不動産に,これら5口の債権を被担保債権とする根抵当権を設定していたところ,Bにつき破産手続開始の決定がされた。その後,債権者Aは,上記の根抵当権の行使として,債務者B及び物上保証人Cから担保目的物の任意売却による弁済を受けたが,その弁済額は,5口の債権の総額を満足させるには足りるものではなかった。この場合に,債務者Bの破産手続における債権者Aの破産債権の額いかんが問題となり,Aは,破産裁判所に対し,破産債権査定申立てをした。 本件は,債務者Bの破産管財人Xが,破産裁判所の査定決定を不服として,破産法126条に基づき,Aを相手に破産債権査定異議の訴えを提起した事案である。なお,本訴の控訴審判決後にAが解散し,Y(日本政策金融公庫)がAの権利義務を承継した。 本件は,物上保証人Cの弁済が,複数債権のうちの一部の債権を満足させるものであったものの,複数債権の総額を満足させるには足りなかったという事案であり,個別にみれば全額弁済されている債権もあるが,複数の債権全体をみれば全額弁済されていないという場合である。このような場合において,被担保債権とされた複数債権の総額が満足されない限り,破産法104条2項所定の「その債権の全額が消滅した場合」に当たらず,全体について開始時現存額主義が適用され,破産手続開始時における債権総額をもって破産債権額とされることになる(債権者A・承継人Yの主張)のか,それとも,開始時現存額主義は個別の債権ごとに適用されるから,全額弁済された個別の債権については,「その債権の全額が消滅した場合」に当たるものとして,その額を減額した額をもって破産債権額とされることになる(破産管財人Xの主張)のかが争われた。 4 本判決は,破産法104条1項,2項所定の開始時現存額主義は,その趣旨に照らせば,飽くまで弁済等に係る当該破産債権について破産債権額と実体法上の債権額とのかい離を認めるものであって,同項にいう「その債権の全額」も,特に「破産債権者の有する総債権」などと規定されていない以上,弁済等に係る当該破産債権の全額を意味すると解するのが相当であると判断した。そして,債権者が複数の全部義務者に対して複数の債権を有し,全部義務者の破産手続開始決定後に,他の全部義務者が上記の複数債権のうちの一部の債権につきその全額を弁済等した場合について,複数債権の全部が消滅していなくても,同項にいう「その債権の全額が消滅した場合」に該当するものとして,債権者は,当該破産債権についてはその権利を行使することはできないと判断した。 7 本判決は,破産手続における開始時現存額主義に関し,高裁レベルで判断が分かれていた,物上保証人が複数の被担保債権のうちの一部の債権につきその全額を弁済した場合における開始時現存額主義の適用という問題について,最高裁として初めての判断を示したものであり,実務的にも極めて重要であるといえよう。