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事案は、不動産所有者のXが、抵当権設定登記を有するYに対し、被担保債権の時効消滅を理由として、抹消登記を請求したというものである。 Xは、消滅時効完成の直前に、Yに対し、被担保債権全額を代位弁済するから抵当権設定登記を抹消してほしい旨の申し入れをし、おそらくYはXの右申し入れによって「Xは抵当権及び被担保債権を認めて支払ってくれるのだな」と期待したであろうが、Xは、その直後に完成した消滅時効を援用したというもので、X主張の消滅時効は、Xのした代位弁済の申し込みという承認によって、中断したといえるか、仮に消滅時効としては完成したといえるとしても、Xのした消滅時効の援用は、右のような経緯からして信義則に違反しないか、という点が争点である。 Yは、物上保証人もまた被担保債権について時効中断としての承認をすることができると解すべきであり、そうでないとしても、Xの消滅時効の援用は信義則に違反して許されないなどと主張した。 物上保証人、保証人、担保物件の第三取得者が消滅時効を援用することができるかについては、時効完成によって直接に利益を受ける者かどうかによって決するとするのが判例であり、主債務者でない右のような者でも、時効を援用することができるとされている。 そして、時効を援用した場合の効果は、相対的であり、保証人(物上保証人等でも同じ)が主債務について完成した消滅時効を援用しても、その効果は債権者と当該保証人との相対的な関係にとどまり、債務者には及ばない。 右のような相対効の法理は、完成した時効利益の放棄ないし時効完成後の主債務の承認についても、同じようにいうことができる。 これに対し、時効完成前については、債権者から保証人ないし物上保証人等に対してする請求・差押、保証人ないし物上保証人等から債権者に対してする承認は、右の保証人、物上保証人等と債権者との相対的な関係においても、時効中断の効果は生じないというのが通説判例である。 よって、本判決は、時効完成前については、主債務者以外の者に対してした又は右の者がした請求・差押・承認は、時効中断効は与えられない。 (なお、単なる保証人でなく連帯保証人に対する請求は、民法434条により絶対効があり、したがって、時効中断事由となるし、また、物上保証人に対する差押は、債権者にその旨の通知がされることにより時効中断事由となる。) ところで、判旨事項にはなっていないが、本判決は、Xの消滅時効の援用が信義則に違反しないとしている。 本件では、Yが主債務者に対する時効中断の措置を講じたのは、提訴後数か月を経過した後のようであり、Xのした弁済の申し入れがあったゆえに、必ずしも時効中断措置を失念したのではないようであり、債権者としては、かなりの怠慢であったのが考慮されたのかもしれない。