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回答No.1

本件は、Xは、平成二年一一月五日、甲土地を競売による売却により取得したが、甲土地上には、乙建物が存していた。 乙建物はYの夫であるAの所有であったが、同人が昭和五八年五月四日死亡したため、Yが相続によりこれを取得してその旨の登記を経由した。 Yは、同年五月一七日、本件建物をBに代金二五〇万円で売り渡したが、登記簿上、本件建物はY所有名義のままとなっている、というのである。  本件訴訟において、Xは、本件建物の所有者はその所有権移転登記を有するYであり、同人が本件建物を所有することにより本件土地を占有していると主張し、所有権に基づき本件建物収去による本件土地明渡しを求めた。一方、Yは、Bへの売却により本件建物の所有権を失ったから本件土地を占有するものではないと主張した。 本判決は、この論点について、「他人の土地上の建物の所有権を取得した者が自らの意思に基づいて所有権取得の登記を経由した場合には、たとい建物を他に譲渡したとしても、引き続き右登記名義を保有する限り、土地所有者に対し、右譲渡による建物所有権の喪失を主張して建物収去・土地明渡しの義務を免れることはできないものと解するのが相当である。けだし、建物は土地を離れては存立し得ず、建物の所有は必然的に土地の占有を伴うものであるから、土地所有者としては、地上建物の所有権の帰属につき重大な利害関係を有するのであって、土地所有者が建物譲渡人に対して所有権に基づき建物収去・土地明渡しを請求する場合の両者の関係は、土地所有者が地上建物の譲渡による所有権の喪失を否定してその帰属を争う点で、あたかも建物についての物権変動における対抗関係にも似た関係というべく、建物所有者は、自らの意思に基づいて自己所有の登記を経由し、これを保有する以上、右土地所有者との関係においては、建物所有権の喪失を主張できないというべきであるからである。もし、これを、登記に関わりなく建物の「実質的所有者」をもって建物収去・土地明渡しの義務者を決すべきものとするならば、土地所有者は、その探求の困難を強いられることになり、また、相手方において、たやすく建物の所有権の移転を主張して明渡しの義務を免れることが可能になるという不合理を生ずるおそれがある。他方、建物所有者が真実その所有権を他に譲渡したのであれば、その旨の登記を行うことは通常はさほど困難なこととはいえず、不動産取引に関する社会の慣行にも合致するから、登記を自己名義にしておきながら自らの所有権の喪失を主張し、その建物の収去義務を否定することは、信義にもとり、公平の見地に照らして許されないものといわなければならない。」とした点が重要である。