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回答No.1

 1 XとYらは兄弟であり,本件は,平成16年に死亡した母親の遺言がYらの遺留分を侵害しているとして,YらがXに対して遺留分減殺請求をしたところ,Xが,(1)Y1がXに対して遺留分減殺請求権を有しないことと,(2)Y2がXに対して有する遺留分減殺請求権は2770万3582円を超えて存在しないことの確認を求める旨を訴状に記載して提起した訴えの,確認の利益が問題となった事案である。  本件の訴えは,遺留分減殺請求を受けたXがYらに対して価額弁償をする旨の意思表示をしたものの,Xは価額弁償の履行の提供はしておらず,YらもXに対して現物返還請求も価額弁償請求もしていない段階で提起されたものであり,これまでの当審の判例により示された考え方によれば,この段階では,遺留分権利者は,受遺者等に対し,減殺請求に係る現物返還請求権を行使することも,それに代わる価額弁償請求権を行使することもでき,反面,受遺者等は,遺留分権利者に対し,目的物の現物返還をすることも,それに代わる価額弁償をすることもできる立場にあるということになる。  2(1) 1審は,本件の訴えが適法であることを前提とし,Xの請求につき実体判断をしたが,原審は,Yらが価額弁償請求権を行使する旨の意思表示をしていない現段階では,価額弁償請求権が確定的に発生しているとはいえず,価額弁償請求権の存否又はその金額の確定を求める訴えは,現在の権利関係の確認を求める訴えということはできないなどとして,本件各訴えは確認の利益を欠き不適法であると判断した。  (2) これに対し,本判決は,(1)Y1に対する訴えについては,これを合理的に解釈すれば,Xが母親の遺言による遺産分割の方法の指定により取得した財産につきY1が持分権を有していないことの確認を求める趣旨に出るものであると理解することが可能であるのに,原審は,上記訴えに係る確認請求が上記の趣旨をいうものであるかについて釈明権を行使することなく,上記訴えを確認の利益を欠くものとして却下した点において,釈明権の行使を怠った違法があると判断し,(2)Y2に対する訴えについては,判決要旨のとおり判断して,原判決を破棄し,本件を原審に差し戻した。  3(1) 確認の訴えの利益は,原告の権利又は法律的地位に危険・不安定が現存し,かつ,その危険・不安定を除去する方法として,原告・被告間に当該請求について判決をすることが有効適切である場合に認められる。本件のY2に対する訴えのように価額弁償すべき額の確定を求める訴えは,遺留分権利者が価額弁償請求権を「確定的に取得した」とはいえず,実際に価額弁償がされるまでは目的物の価値の変動に伴い弁償すベき額が変動すると考える余地があるため、(1)価額弁償すべき額という本件の確認請求の対象が確認の対象としての適格を有するか,(2)解決すべき紛争が確認判決によって即時に解決しなければならないほど切迫し,成熟したものかが問題となる。  (2) これ以前の裁判例として、遺留分減殺請求をした遺留分権利者が受遺者に対して減殺請求に係る目的物の現物返還を求め,これに対する抗弁として受遺者が価額弁償の意思を表示して弁償すべき価額の確定を求めた事案について,「遺留分減殺請求を受けた受遺者が,単に価額弁償の意思表示をしたにとどまらず,進んで,裁判所に対し,遺留分権利者に対して弁償をなすべき額が判決によって確定されたときはこれを速やかに支払う意思がある旨を表明して,弁償すべき額の確定を求める旨を申し立てた」という限定を付した上で,受遺者からの価額弁償の申出を適法な抗弁と捉えて価額弁償がされないことを条件とした認容判決をすべき旨の判断をしたものがある。これは,遺留分侵害額等に争いがあると,受遺者が自ら適正な提供額を決定することは非常に困難であり,受遺者に現物返還と価額弁償との選択権を与えた民法1041条を実効性あるものとするためには,弁償すべき価額を裁判所が決定することを求めることを可能にする必要があることが重視された結果であると思われる。  (3) 本件は,受遺者が遺留分権利者からいまだ目的物の現物返還請求も受けていないという点で上記の平成9年判決の事案とは異なるが,価額弁償をする旨の意思表示をしたものの弁償すべき価額に争いがあるためにその履行の提供ができない状況にある受遺者が弁償すべき価額の確定を裁判所に求める必要性という点については平成9年判決の事案と大きな違いはなく,本判決は,平成9年判決を1歩進めて本件のような訴えの確認の利益を肯定することができる旨の判断をしたものと思われる。  本判決は,価額弁償すべき額の確定を求める訴えの確認の利益を認める理論的根拠として,(1)確認の対象については,遺留分減殺請求を受けた受遺者が,価額弁償又はその履行の提供を解除条件とする目的物の現物返還義務を負っていると解した上で,このような解除条件付きの義務の内容は,条件の内容を含めて現在の法律関係ということができ,確認の対象としての適格に欠けるものではないと判示し,(2)即時確定の利益については,平成9年判決と類似の限定を付した上でこれを肯定すべき旨を判示した。  (4) なお,本件のような弁償すべき額の確定を求める訴えの確認の利益を認める場合の請求の趣旨としては,例えば,(1)受遺者において遺留分の侵害が全くないと主張する場合には,被告(遺留分権利者)が遺留分減殺請求により取得したと主張している特定の不動産等について,被告がその持分権等を有しないことの確認を求め,(2)受遺者において遺留分の侵害が一定程度あることを認めている場合には,「被告(遺留分権利者)が被相続人の相続について原告(受遺者)に対してした遺留分減殺請求に係る目的物につき,原告が民法1041条の規定によりその返還義務を免れるために支払うべき額が××円(原告主張の額)であることの確認」を求めることが考えられる。  (5) 本件は,これまで明示的に確認の利益を認められていなかった受遺者の遺留分権利者に対する価額弁償すべき額の確認請求訴訟について確認の利益を肯定し得る旨の判断を最高裁として初めて明らかにしたものであり,理論的にも実務的にも重要な意義を有するものであると思われる。(調査官解説抜粋)

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