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マスターキー遺伝子の仕組み
マスターキー遺伝子は生き物の形や生理機能を決めることができるのですが、ではそれ自身はどんな仕組みで特定の組織や細胞だけで働くようになるのでしょうか? 教えてください。宜しくお願いします。
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情報が過剰でますます混乱するかもしれませんが、 ホメオティック遺伝子は、位置情報の遺伝子というより、体節のアイデンティティーを決めるマスターキー遺伝子というとらえ方が適当だと思います。その下位には、たとえば平均棍の原基を平均棍に決定するマスターキー遺伝子や、眼の原基を眼にするマスターキー遺伝子があります。それが狂うと平均棍の原基が翅になったり、脚の原基に眼ができたりするわけです。 どんな場面でも万能なマスターキー遺伝子があるというのではなく、「体節のアイデンティティーを決めるマスターキー遺伝子」とか、「原基を特定の器官に分化させるマスターキー遺伝子」のように、特定の機能に対してそれぞれマスターキー遺伝子があるととらえるべきものでしょう。マスターキー遺伝子というのはただのレトリックで、それほど市民権を得ている用語ではないと思いますが、文献に出てくるときは「~~のマスターキー遺伝子」というように表現されていることように思います。 ホメオティック遺伝子群(Homeotic genes)は、ショウジョウバエで初めて見つけられました。当初の定義は、これらの遺伝子に変異が起こるとホメオティック変異形質があらわれるということでした。すなわち「体節のアイデンティティーを決定する遺伝子」です。たとえば、ショウジョウバエの胸部は前胸部、中胸部、後胸部の3体節からなります。それぞれの体節には一対の脚、中胸部には一対の翅、後胸部には一対の平均棍が生じます。ところがホメオティック遺伝子のひとつ、bithorax遺伝子の変異のあるものは、後胸部が中胸部に形質転換して、平均棍の代わりに翅が生じます。ある体節が別の体節に形質転換して、翅と平均棍のような体節間の相同器官が、別の体節の相同器官に形質転換するのがホメオティック変異です。 ホメオティック遺伝子群を調べていくと、ホメオボックスと呼ばれる保存されたアミノ酸配列を含むタンパク質をコードしていることがわかりました。さらに調べていくと、ホメオボックスをもつ遺伝子には、必ずしも体節のアイデンティティーを決める遺伝子ばかりではないものも多くあることがわかりました。今ではホメオティック遺伝子は体節のアイデンティティーを決める遺伝子というより、ホメオボックスを持っている遺伝子一般をさすというのがコンセンサスだと思います。
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- suiran2
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高校生か大学生か分からないので,geneticist12さんも少しはしょった感がありますので,度素人が専門家の補足を… マスターキー遺伝子は,その働きを調節するさらに上位の遺伝子群があります。体の位置によってどのマスターキー遺伝子を発現させるか決める必要がありますよね。その体の位置情報が刻まれた遺伝子をHOX遺伝子(ホメオチック遺伝子)と言います。 HOX遺伝子はショウジョウバエで8個発見されましたが,ヒトの場合には13個あります。しかも、ABCDの4組みがあり,HOX遺伝子の組み合わせはHOXコードと呼ばれ,その組み合わせでマスターキー遺伝子を含む多くの遺伝子が次々と転写されていきます。このような仕組みを転写因子遺伝子カスケードといいますが,各体節における四肢の形成をはじめ,形態形成に必要なカスケードの最上流の遺伝子がHOX遺伝子です。 HOX遺伝子は,さらに自分の位置をどのようにして知るかですが,geneticist12さんのご説明のように,最終的には卵の極性,例えば母性m-RNA等の濃度勾配や偏在によって活性化されるようです。 もし私の説明で間違いがありましたら,geneticist12さん訂正をお願いします。<(_ _)>
- geneticist12
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「位置情報」によって部位特異的な遺伝子発現が行われるからです。 位置情報の実体は、卵内のタンパク質(特に初期胚で働く転写調節タンパク質)、RNA、細胞内小器官、細胞骨格、細胞表面の膜タンパク質などの分布の偏りです。さらにさかのぼると、卵形成のときに、卵になる細胞とそれを取り囲む細胞が特定の位置関係にあることが関係しています。 あるひとつの形質の発現、たとえば眼を作るとか手を作るでも、多段階からなる反応経路のネットワークに多数の遺伝子が参加して実現されます。そのネットワークの最上位に位置し、いわばドミノ倒しの最初の一枚に当たるのがマスターキー遺伝子と呼ばれているのですね。 反応経路の途中の遺伝子が働くなった場合は、その形質が部分的に形成されたりしますが、マスターキー遺伝子が働かなくなると、全く形成されなくなります。逆に、マスターキー遺伝子を強制的に発現させると、異所的にその形質が現れたりします。 端的な例が、ショウジョウバエのeyeless遺伝子、それの相同遺伝子である、ほ乳類のPax6遺伝子です。どちらの遺伝子も機能を失うと、眼が痕跡もなく全くできなくなります。逆に、ショウジョウバエでeyelessを本来発現しない場所で発現させると、そこで眼の構造ができます。 ↓脚、触覚、翅になる部分でeyelessを発現させるとこうなります http://dept.biol.metro-u.ac.jp/fly/www/images/UAS-eyeless.jpeg