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安倍公房「S.カルマ氏の犯罪」を読み解く

 安倍公房の「S.カルマ氏の犯罪」が大好きで初めて読んで以来、何度も読み返しています。  しかし、その深くまでは読み解くことは私には難しく、いつもその不思議な物語を単純に楽しんでいるにとどまっています。  安倍公房のテーマというか、根底にあるものは「実存主義」ということですが、そのことについて書かれた本を読んでも難しすぎてちんぷんかんぷんです。  易しく、端的に教えていただけたらと思います。

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  • comodesu
  • ベストアンサー率48% (49/102)
回答No.2

まず安倍公房でなく安部公房と訂正させて頂きます。 また彼の作品のテーマを実存主義と規定することは、少し待って下さい。それを超える広がりを持つ作家であり、だからこそ今も読者を引きつけ、世界で読まれているのだと思います。 「S・カルマ氏の犯罪」について言えば、何度も読まれているそうなので、それに値する表現の魅力についてはよくおわかりのことと思います。またその内容の深みの理解については、読む人の人生のそれぞれの段階や場面において異なり、深まっていくものですので、ここで書き尽くすことは不可能ですが、考えるヒントになりそうなことを書いてみます。 主人公は目を覚ましたとき、自分の名前を忘れていましたね。事務所に出て自分の名札を見て「S・カルマ」だと知りますが、なんと自分の席で仕事をしているのは自分の名刺でした。 このことをまず考えて見ますと、私たちは自分自身の能力や中身は自分の力で作り上げたものだ、と何となく思っていますよね。ことに会社で働くという、全能力を奮って行動するような場では。だけど、「名刺で仕事をする」という言葉があるように、会社や肩書きをバックにしてはじめて仕事になっていることが多いものです。(退職した人がそれまでの取引先から相手にされなくなった、という話はよく聞きます。) その名刺が自分から分離、独立し、やがて仕事の道具であったはずの靴やペンや鞄などまでが自分に反抗する。その時、自分に残った内実は一体何なのか。仕事の場においては何も残ってないのです。 安部公房は現実の社会の情況と人間の関係をこのように切り裂き、私たちに示して見せました。これから、会社や社会というものは、このような、個人の実質と内面には無関係な、うわべの能力と関わり方によってなる虚構であると読むことも出来ましょう。(もちろん他の読み方も可能です。) さて主人公は、その空虚を埋め合わせようとする自然な、つまり自分には責任のない、内発的に自然な身体の運動として、砂漠の風景を吸い込んでしまった、そのことが理不尽にも裁判にかけられるわけです。これからのことは書き切れませんが、前半と合わせていろいろ考えてみて下さい。 このように現代的なテーマの作品ですが、安部公房がこの作品を発表したのが昭和26年、つまり50年以上前のことです。いまだにまったく古びていないのは、社会と人間についての深い理解・洞察に基づいているからでしょう。他の作品でも同様です。実存主義は古びましたけど。

ragora
質問者

お礼

丁寧なご説明ありがとうございました。  >会社や社会というものは、このような、個人の実質と内面には無関係な、うわべの能力と関わり方によってなる虚構であると読むことも出来ましょう。    自分から離れた自分の名前、立場のあとに残る自分から、服や靴やペンなども反抗する。そうですね。そう考えるとさらに次のステップへ進める気がしました。 とても参考になりました。ありがとうございました。

その他の回答 (1)

  • tyuuta
  • ベストアンサー率35% (164/458)
回答No.1

まず「実存」ていうのは、哲学の中で、「本質」という言葉に対する言葉で「いま、ここに現実に存在するという個人の存在のあり方」(引用:『日本語大辞典』講談社)という意味になります。 安倍公房の作品は個人に焦点を当てた作品が多いですが、 ほとんどが不条理なものです。 普通「目が覚めたら、名前が分かりませんでした」という事は有り得ないですが、この短編の主人公は自分を表す固有名詞を持たずそして固有名詞は固有名詞として一人歩きしてしまう固有名詞を持たない実体と、実体を持たない固有名詞の奇妙な掛け合いそんな内容で 自分は確かにここに存在してるはずなのに、自分の存在を 表わす名前がないという矛盾が面白いのではないかと思います。

ragora
質問者

お礼

ありがとうございます。 >一人歩きしてしまう固有名詞を持たない実体と、実体を持たない固有名詞の奇妙な掛け合いそんな内容で  そうですね。その奇妙な掛け合いと奇妙すぎる登場人物たちがとても面白いです。  また、自分なりに読み深めてみます。

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