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源氏物語の翻訳について
- 源氏物語の英訳であるA.WaleyのTALE OF GENJI(帚木 The Broom-Tree)について、わからない箇所と誤訳を教えてください。
- 源氏物語の翻訳において、小さな欠点が見逃されることや、寛容で穏やかな態度の持ち主の外見もそれほど厳しくないことが説明されていますが、これはどういう意味でしょうか?
- README: 源氏物語の英訳であるA.WaleyのTALE OF GENJI(帚木 The Broom-Tree)について、わからなかった箇所と誤訳を教えてください。特に、「しんぼうの度が過ぎる人たち」や「誤用された忠誠の模範」の表現が理解できません。
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今晩は。雪がまた降りました。雪が降ると音がよく聞こえますね。 いつも大変丁寧なお礼をありがとうございます。 1) >if we discover in her some small defect, it shall not be too closely scrutinized・・・・小さな欠点があっても気にされず見逃されるということですか? ●if は、1)もし~ならば、2)たとえ~ではあっても、の2つの意味があり、2)は数%の出現率ですが、ここは2)ですね。よく捉えられたと思います。 It shall は、「3人称の主語 + shall」ですので、「話者の意志」ですね。We will not scrutinize it too closely.ないし Let us not scrutinize it too closely. といった感じです。「それをあまりに細かく難じることはいたしますまい」となります。 >if she is strong in・・・・「strong」の訳し方がよくわかりませんでした。(ある点・分野で)有能な、というのが辞書にあったのでそれを使いました。 ●それで正解です。日本語で「長所」「短所」は、strong points, weak points と言います。というか、英語の方が自然な発想で、日本語のイメージが変わっています。原文は、「うしろやすくのどけき所だに強くは」と「強し」を使っていますので、渡りに舟(?)で strong を使ったのだと思います。 全体を訳しますと しかしたとえ彼女にある小さな欠点を見つけたとしても、あまりにうるさく詮議立てするようなことはいたしますまい。寛容と愛嬌———この美質がしっかり備わっていさえすれば、彼女の見た目(外貌)は、堪え難いほどに不快ということはないと考えていいでしょう。 となります。 2) >「しんぼうの度が過ぎる人たちがいます。それでいながら矯正に対して大声で文句を言う不正行為に気付かないふりをすることは、誤用された忠誠(忠義)の模範になるように思われます。・・・・・? ●ここは構造が紛らわしいですね。There are those who carry … and seem … という構造だと思います。 >and・・・《対照的な内容を導いて》の意味で、「それでいながら」? ●ここは順接でいいと思います。「対比の and」の出現率は低いです。 >affecting・・・・動名詞ですか? ●もし動名詞なら、seems となっているはずです。seem である以上、その主語は those となります。そうなりますと、affecting … は分詞構文となります。 >wrongs・・・加算名詞になっていますが、辞書を引くと「不正」という訳は不加算名詞になってしまうので、「不正行為」(加算名詞の訳)にしました。でも「不正」と訳しても間違いではないのでしょうか? ●間違いではないです。日本語の名詞は、たとえば「不正」であれば、抽象名詞(e.g. 不正は許せない)にも、具象名詞(e.g. 多くの不正を働く)にも使います。 >cry out・・・大声で文句を言う? ●おっしゃるように、cry out は、(大声で)叫ぶ、ですが、むしろ cry out for をひとまとまりのイディオム(~を求める、~を強く必要とする)と捉えたほうがいいと思います。「矯正(redress)を強く必要とするような不正行為」ですね。 http://eow.alc.co.jp/search?q=cry+out+for >paragons of misused fidelity・・・「誤用された忠誠の模範」の解釈がよくわかりません。 ●よくあるケースですが、夫が「飲む・打つ・買う」の3拍子揃った上に、妻に殴る・蹴るの暴行を行っても、妻だからということで、耐え忍び、妻としての務めを果たそうとするような女性...そうなると、彼女の fidelity は夫によって悪用されていることになりますので、misused fidelityと表現できます。paragon は「~の鑑(かがみ)」ということです。 全体を訳しますと こういうタイプの女性もおりますね。なんでもかんでも隠忍・堪忍、どうみたって正さずにはおけないような不正行為も見て見ぬふりを通し、ひどい目に遭いながらも妻の道を立派に歩み通そうとする女性が... となります。 3」 >しかしそのような人がもはや彼女自身自制することができない時、突然時は来ます。哀れさをもよおす言葉で述べられ、最も良心の呵責の感情を奮起させることを計算した彼女の詩歌を後に残して、彼女はどこか山岳の遠い村、もしくはどこかの荒れ果てた海岸に逃げます。そして長い間彼女の痕跡は失せます。・・・・・・・? ● ほぼ完璧に捉えられています。 a time comes … when ~はよく出てくる構文で、when は関係副詞で、a time に掛かっています。「~のような時が来ます」と訳します。全訳(意訳)しますと しかしそういう女性はもうこれ以上我慢できなくなって、どこか遠い山奥の村やうらぶれた海浜の村に遁走したりする時が来るのです。後にはあわれな言葉を書き連ねた歌を残したりしてですね、それはこちらにひどい悔いの情を掻き立てようというつもりなのです。 くらいになります。 >such a one・・・しんぼうの度がすぎる人ですか? ●その通りです。 >【her a poem】(which)〈(1)couched in pitiful language〉 and 〈(2)calculated to rouse the most painful sentiments of remorse〉というように(1)と(2)がher a poemにかかるように訳したのですが・・・・・ ●【her a poem】は「彼女の詩」という意味には絶対になりません。her などの所有形容詞は、冠詞とは併用できないのです。a his hat も the my bag も、英語として成立しないのですね。 ということは、her/a poem と分かれているということですね。behind her がひとまとまりです。leave ~ behind 人(後に~を残す)というのはイディオムで、~の部分が長いと、「behind 人」を前に持ってくることがよくあります。ここもその例です。 >いきなりなぜ逃げてしまうのかよくわかりませんが・・・・?? ●堪忍袋の緒が切れたからであり、人に自分のことを可哀想に思ってもらいたいからです。あるいは夫を後悔させようというのでしょう。 >つまるところ、意表をついた行動に出るのも男性の気を引く手の一つなのでしょうか? ●まあ、そういう面もあるでしょうが、芝居気が多いというか、自意識過剰というか、男への面当てというか、男から言わせると、そんなことをするくらいだったら、何が不満なのか黙っていないで前もって言ってくれよと言いたくなるタイプの女性です。 紫式部のこうした女性に対する筆致には、西洋流に言うと comical sarcasm の気味がありますね。しかし両刃の剣で、そういうところに追い込んだのは誰だという批判も感じられます。まさしく「紫式部はわれらの同時代人」ですね。 ************************* 《余談》モリエールは可笑しいですね。私も戯曲は好きです。特にいい喜劇は実際に見てみたいです。 1920年代のパリで活躍していた画家はフジタだけではありません。佐伯祐三という天才もいました。その佐伯の友人に岡田稔という画家がいます。(岡田稔はデンマーク女性と結婚しその息子の1人が俳優の岡田眞澄です。)この岡田が、日本において、岸田と岩田を引き合わせたのです。みんな1920年代のパリという共通項で繋がっています。 詳しい事情はよく知りませんが、友田恭介・田村秋子夫妻(二人とも名優)の結成した築地座に、岸田、岩田、久保田の3人とも少しずつ関っていたようで、そのことと関係があると思います。以下、ネットから引用します。 その築地座が昭和11年に解散、友田・田村夫妻の才能を惜しんだ岩田豊雄は二人を中心とする新劇団の設立を目論みます。 「私は、芸術派の劇団を、もう一度やりたくなった。しかし、岸田と私だけで始めれば、築地座の轍を再び繰り返す惧れがあり、彼の理想家ヒステリーを封じるためにも、もう一人の人物の参加が必要ではないかと思った。その人物は、久保田万太郎以外になかった。(中略)ある日、私は友田にその構想を語った。彼は非常な乗気を示した。私は、岸田は私が説くから、久保田万太郎は君が説けといった。そして、私たちは行動を始めたが、岸田は意外なほど話に乗ってきた。(中略)とにかく話はトントン拍子に進み、ある夕、岸田、久保田、私の三人で、築地の八尾善でこの計画の最初の顔合わせをしたが、この時最も愉快そうだったのは、久保田万太郎だった。———岩田豊雄 “新劇と私” より」http://www.bungakuza.com/about_us/p2k2/2k2-65top.htm 人の縁というものは実に精妙に織りなされているものですね。(つづく)
お礼
今晩は。3週間ほど前に降った以来です。 雪は年の瀬の瀬音ならずとも何か聞こえてきそうなサイレントな世界を作り出しますね。 いつも大変丁寧に回答をしてくださってありがとうございます。 ifは直訳では「もし~ならば」と訳しましたが、意訳を考えると「たとえ~ではあっても」に なるのかなと思いました。(数%の出現率というのは知りませんでした) It shall (「3人称の主語 + shall」)は「話者の意志」を表すというのは 過去何度も教えていただいていましたが、この場合はあまり考えていませんでした。 (Itが三人称というのがすぐに頭に捉えられなくてスルーしてしまった感じです。。) 「strong 」=「強い」という訳のイメージしかなかったのですが、訳としてはあまり はまらない感じでした。英語の「イメージ」としては「強い」でいいのかもしれませんね。 (長所=strong pointsとなるように) 原文でも「強し」を使っているのですね。(迷わずstrongを使ったのかもしれませんね) 意訳だと「しっかり備わっている」となるのですね。 2)が途方もなく考えてしまいました。(主語がそもそもわからない感じでした) seemが三人称単数の動詞になっていないところに注目すればよかったですね。 (,and~となっているので、そこで文が切れると思ってしまいました) 「cry out for 」で捉えるとよかったのですね。 そうなるとここは自分が思っていた内容と全然反対になります。 妻が自分に対する「矯正」に対して夫に文句を言うのかと思っていましたが 夫が「矯正を強く必要とする」不正行為を行っているのですね。 (サイトのご紹介ありがとうございます) ここの「矯正を必要とする」の主語は社会の道徳観念に照らし合わせて捉えると よかったのですね。 そうなると「paragons of misused fidelity」(誤用された忠誠の鑑)の 意味がわかってきます。(そうですね。夫からひどい扱いを受けているのに それを耐え忍んでいるのを美徳としている妻がいるとしたら、それは 間違った忠誠の鑑ですね。 意訳してくださってありがとうございます。 (ここは明らかな女性の欠点を指摘しているというより、一見長所のように 思える点をそれは間違っている、と指摘しているのが興味深いです) 「a time comes … when ~」(~のような時が来ます)はよく出てくる構文なのですね。 覚えておきます。 確かに「her a poem」という単語の並びはないですね。 「leaving behind her a poem」をひとまとまりに考えてしまいました。 ここはleave ~ behind 人(後に~を残す)のイディオムが原型で ~の部分が長いので「behind 人」(behind her)を前に持ってきて ~を後ろに持ってきているのですね。(気付けませんでした) 2)の解釈がよくできていなかったので、妻が突然逃げてしまった理由が よくわかりませんでしたが、気を引く手ではなくて、堪忍袋の緒が切れたというのが 真意なのですね。 あまり賢明な行動ではありませんね。 comical sarcasm=こっけいな皮肉ですか? この行動に対しては男性も女性も相手への言い分があるところですね。 いずれにしても、現代でも考えさせられる状況ですね。 ******************************* 戯曲は今まで読んだことがほとんどなかったように思いますが、 セリフだけでも話に引き込まれておもしろかったのが新たな発見でした。 (実際の舞台を見て笑いたいですね) 佐伯祐三はちょっと聞いたことがある画家ですが「郵便配達夫」の絵は どこかで目にした感じがします。(もちろん本物ではないですが) 岡田稔という画家(岡田眞澄の父)が岸田と岩田を引き合わせたのですね。 1920年代のパリは華やかでしたね。 「文学座」についてのサイトを紹介してくださってありがとうございます。 (岩田豊雄については『文学座の第一の恩人であると言えるでしょう』と書かれていますね) 紆余曲折があって「文学座」が誕生したのですね。 岩田豊雄・岸田國士・久保田万太郎の三人はお互いを刺激し合いながら、 補い合いながら演劇の情熱を高めていったのでしょうね。 人の縁というのは一つのきっかけがあって、 それからは自分自身の心がけでつくられていくような気がします。 (金曜日にまた投稿します)