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デカルト 方法序説
[方法序説]を読みました。よく理解ができなかったので、デカルトが到達した思考の原理や規則について教えてください。また、その過程についても教えていただけると嬉しいです。
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自分も原文を読んだわけではありません。 例えば[方法序説]の思考の規則。 ・現象を、出来るだけ単純なものに分解せよ。 ・分解は、直感的に明らかだと思える要素に達するまで、行え。 などを知ると、某予備校の出してる「受験の心得」の方が、よっぽど役に立つんじゃないの?と思えてきますし、実際にそういう評価もあります。ただこの評価は、余りにも現代目線です。 デカルトがリアルに生きていた当時、アリストテレス自然学による「隠れた性質」なる理論が横行(?)していました。それはこんな感じです。 ・塩はなぜ溶けるのか?。それは可溶性を持つから(可溶性元素で出来てるから)。 上記のような論法を認めてしまうと、結果から辻褄合わせをすれば良いので、何でも説明できる事になります。上記のような論法を認めてしまうと、やる事は、物の性質の分類だけになり、性質の実体視という方向につながります(~元素で出来ているなど)。 デカルトの時代には、すでに時計もあり、ある程度技術も発展していたので、こんな説明はあんまりではないかと、少なくとも誰もが思っていたようです。例えばガリレオ・ガリレイはそうです。 デカルトはあくまで、日常経験に依拠します。そして彼の目標は、「隠れた性質を使わずに」宇宙を説明する事でした。しかしアリストテレス自然学が、何でも説明できる事実は、途轍もなく重い事です。アリストテレス自然学は基本的に何でも説明できるので、反証実験が不可能な体系です(それは違うという反例が無意味になる)。何故なら、既存理論と合わない結果が出たとしても、「我々の知らない、そういう元素があったのだね」と、いくらでも修正可能だからです。アリストテレス自然学には当時、対抗理論がありませんでした。 対抗理論に成り得るとすれば、別の原理に基づいた、アリストテレス自然学に対抗し得るくらいの、完璧な包括理論(万物理論)をぶつける事くらいしかありません。デカルトは、全宇宙を説明できるくらいの理論をつくる必要がありました。 まず彼が選んだのは数学でした。数学は、 ・定理に反例を突き付ければ、理論の成否がわかる. ・正しければ、我々の認識を曇らせる、有象無象の実験誤差に関わらない(変則的例による屁理屈を論破できる). ・観測に曇らされない、ア・プリアオリな明証が得られる. と考えたからです。さらに彼は日常経験を重視しました。 ・力は、物体や物質の押し合いへし合いによってしか、伝わらない. この考えは、機械論的自然観を導きます。じっさい彼は、 ・宇宙は、機械仕掛けの時計のようなものだ. と言います。そこで彼は、2つの仮定をおきます。 ・宇宙開闢時に、神は全ての物質を動かす、神の一撃を与えられた. ・神の一撃によって与えられた運動量は、永遠に保存する(運動量保存則). 神の一撃と運動量保存則により、宇宙開闢時以来、一度も周囲と相互作用しなかった物体は、永遠に等速直線運動する事になり、慣性法則が導かれます。夜空の星々の永遠の回転運動しか見た事のなかった当時の人々にとって、永遠の等速直線運動という慣性法則は、非常なインパクトをもって迎えられます。上記の2つの仮定と機械論的自然観さえあれば、宇宙の全ての現象は、 ・数学的なア・プリオリな証明で、説明できる. とデカルトは考えました。そしてデカルトは、それが出来るくらいの天才でした。彼は上記の線に沿った「宇宙論」を展開し、それは当時のヨーロッパのベストセラーになります。重力の渦動理論と惑星運行の説明です。重力の渦動理論は、もちろん現実には間違いですが、ケプラーやニュートンの重力、「訳もなく星々は引き合う」という話に比べて、遥かに力の伝達機構の説明責任を果たすものでした。渦動理論は定性的でしたが、流量保存則を満たす位相数学的には正しい気がします。重力を、押し合いへし合いにより伝える、天の透明物質があるとすればですが。 結果は間違っていましたが、日常経験に依拠した数学理論という意味において、デカルトの宇宙論は、誰もが納得できるものでした。その下地があったので、イギリスからニュートン力学がヨーロッパ大陸で受容されるには、約1世紀の遅れがあります。イギリスは当時のヨーロッパの、辺境だったのです。 デカルトは歴史的偶然かも知れませんが、ヨーロッパに無視し得ない、一つの思想を根づかせます。 ・世界は(宇宙は)、数理原理によって説明できる. という物理思想です。この思想もあったおかげで、結局はニュートン力学も、ヨーロッパ大陸で受容されます。これがデカルトの歴史的価値です。 ・物理学は、数学の主人であり僕である. ・世界は(宇宙は)、数理原理によって説明できる. という事を公言し、史上初めて説得力のある形で提示してみせたのは、デカルトなんですよ。
お礼
回答ありがとうございます。