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均一核生成について

結晶核の生成には均一核生成と不均一核生成がありますが、これらと温度との関係がいまいち分かりません。 溶媒の濃度と体積が等しいなら、温度が低い方が溶解度が低いので(過飽和になって)均一核生成しやすいと思ったのですが、この考えであってますでしょうか?

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  • Umada
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回答No.1

溶媒の濃度を一定とすれば温度を下げるほど過飽和度が高くなるのはおっしゃる通りです。 その場合、確かに均一核発生の頻度は上がりますが、同時に不均一核発生もしやすくなっていることにご注意下さい。不均一核発生との比較であれば「過飽和度が高くなるから均一核発生しやすい」と単純には結論できないわけです。 温度を下げても、そのことによって均一核発生が不均一核発生より優勢になることはできません。 以下ざっと検討してみます。もしoragaharuさんが既にご存じの内容と重なっていました場合は失礼をお許し下さい。 いま溶液中にnモルの溶質が析出し半径rの結晶相(固相)が発生したとします。その場合の自由エネルギー変化ΔG(n)は ΔG(n)=4πr^2 γ-nΔμ  (1) と表されます。γは液相-固相の界面エネルギー、Δμは1 molあたりの自由エネルギー変化です。Δμは過飽和度の関数であり過飽和度が大きくなればΔμも大きくなります。 析出する結晶相を球形とすれば、結晶相のモル体積をνとして ΔG(r)=4πr^2 γ-(4πr^3 Δμ)/3ν  (3) と表されます。 (3)をrで微分して0に等しいとおくと、ΔG(r)が極大をとるrの値が r=2γν/Δμ  (4) と求まります。 このrの値を臨界半径(臨界曲率半径)などといいr*で表します。これ以上大きいサイズの原子クラスター・分子クラスターであれば、大きくなればなるほど自由エネルギーが下がりますから安定して成長することができます*1。過飽和度が上がってΔμが大きくなれば、確かにr*は小さくなります。 次に下の図のように、容器壁面などの平面上に溶質が析出する(不均一核発生)場合を考えます。なお固相の実際の形状は球体の一部を平面で切り離した形ですから、断面は本当は台形でなく円の一部を切り出したもの(弓形)です。  液相    / ̄ ̄\←固相 ━━━━━━━━━━━━ ←壁面など 溶質と平面の濡れ角をθ、曲率半径をrとすれば、析出に伴うエネルギー変化ΔG'(r)は ΔG'(r)={4πr^2 γ-(4πr^3 Δμ)/3ν}×f(θ)  (5) と表されます。ここにf(θ)は f(θ)={(1-cosθ)(2-cosθ-cos^2 θ)}/4  (6) で、0と1の間の値をとります。 また臨界曲率半径r*は、均一核発生(式(3))・不均一核発生(式(5))とも同じです。これらの式の導出および臨界曲率半径が同じであることの説明は参考ページ[1,2]をご覧ください。 さて臨界曲率半径がr*であるならば、その時の析出核の体積は 均一核発生 (4π/3)×r*^3   (7) 不均一核発生 (4π/3)×r*^3×f(θ)   (8) となります。この導出も参考ページ[1,2]をご覧下さい。 0≦f(θ)≦1ですから(8)は(7)より常に小さいことになります。 これは「不均一核発生は均一核発生に比べ、体積が小さなクラスターでも生き残りやすい」ことを意味します。温度を変化させた場合r*の値は変化しますが(7)と(8)の関係は変わりません*2。冒頭に述べたように「不均一核発生も起こりやすくなる」ということです。 さて参考ページ[2]に従いますと、均一核発生の場合の核発生速度Iと不均一核発生の場合の核発生速度I_hetは I ∝NA exp(-ΔG(r*)/RT)   (9) ←参考ページ[2]の2.18式より I_het∝NC exp(-ΔG'(r*)/RT)   (10) ←参考ページ[2]の2.31式より と与えられています。参考ページ[2]ではボルツマン定数kBを使っていますが(9)(10)ではガス定数Rを使いました。(ΔGをモル当たりで考えているので) 参考ページ[2]ではNAはアボガドロ数、NCは壁面(あるいは異物)に面している原子の数と説明されていますが、母数のとり方としてちょっと公平でないように思いますので、I_hetについても「表面に接している原子をアボガドロ数個集めてきた時の核発生速度」に直して考えます。すると I_het∝NA exp(-ΔG'(r*)/RT)   (11) となります。(9)と(11)の比を考えると I/I_het∝exp[-{ΔG(r*)-ΔG'(r*)}/RT] =exp[-ΔG(r*){1-f(θ)}/RT]   (12) となります。ΔG(r*)は温度Tを下げるとすなわちΔμを大きくすると、Tの変化よりは速く小さくなりますから*3、相対的に均一核発生の割合も多少増すとは言えそうです。ただしその場合であっても(7)(8)の比較から分かるように、均一核発生が不均一核発生に対し優勢となることはありません。(そのために[2]の資料(1)で取り上げられているように「無容器プロセシング」なるものが研究されているわけです) 式(8)辺りまでは自信がありますが、式(9)以降は自信なしにさせてください。参考ページも含め、oragaharuさんご自身でも確認しながら読んでいただけると幸いです。 【参考ページ】 [1] 機能材料プロセス工学 http://www.mpd.ams.eng.osaka-u.ac.jp/lecture/FunctionalMaterialsProcess/ 「凝固現象1 核生成」のpdfファイルをダウンロードしてお読み下さい。 [2] 核生成 http://www.jsup.or.jp/shiryo/tenbo.html#h13 「第3章 無容器浮遊溶融プロセシング 資料(2)」のpdfファイルをダウンロードしてお読み下さい。また同じく資料(1)では、不均一核発生の影響を回避する方法についての総論を読むことができます。 *1 これ以上小さなクラスターは本来は消滅する運命にあります。ところが原子は確率的にクラスターにくっついたり離れたりしており、そのゆらぎでたまたまr*より大きな半径に至ると生き残ることができるということです。 *2 温度を変化させると濡れ角が変化する、すなわちf(θ)の値が変わることはあり得ます。しかしその場合であっても、(8)が(7)より大きくなることはありません。 *3 ΔG(r*)の表式は(3)の通りです。γやνも温度が変わればわずかに変化しますが、Δμの変化の方が大きいのでほとんどΔμの変化で支配されるということになります。

参考URL:
http://www.mpd.ams.eng.osaka-u.ac.jp/lecture/FunctionalMaterialsProcess, http://www.jsup.or.jp/shiryo/tenbo.html#h13
oragaharu
質問者

お礼

お返事遅れてすいません。こんなにも詳しく書いていただきありがとうございました。とてもよく理解できました。

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