>今の時期にぴったりな恋の和歌が知りたいです
⇒楽しい、興味あるご質問をありがとうございます。以下のとおり、万葉集などから数首を引用して、9首の和歌をお答えします。(○は「お勧め」の意。)
①「ほととぎす鳴くや五月のあやめ草 あやめも知らぬ恋もするかな」○
作者:読人知らず・万葉集。「あやめ」は植物としての菖蒲を指すほか、「物の筋、条理」という意味があります。
意味:ホトトギスが鳴く五月に咲く菖蒲草のように、条理・理屈では割り切れないような恋をしています。
②「さつきまつ花橘の香をかげば 昔の人の袖の香ぞする」
作者・注:読人知らず・万葉集。
意味:五月の橘の花の香りを嗅ぐと、昔の恋人の衣の香を思い出します。
③「夏の野の茂みに咲ける姫百合の 知らえぬ恋は苦しきものぞ」
作者・注:大伴坂上郎女・万葉集。
意味:夏の野の繁みにひっそりと咲いている姫百合のように、人に知られず恋をするのは苦しいものです。
④「あかねさす紫草野(むらさきの)行き標野(しめの)行き 野守は見ずや君が袖振る」○
作者・注:額田王・万葉集。「標野」は、皇室の所有する原野で、一般人の立ち入りは禁じられていた。「野守」は、野を管理する人。
意味:紫草の咲く野を行き、標野を行きながら、あなたが私に袖を振る。野守に見られているのではないかと気になります。
⑤「色見えでうつろふものは世の中の 人の心の花にぞありける」
作者:小野小町。
意味:目に見えず色あせて忘れ去られていくものは、世の中の人(あるいは、恋する人)の心という花なのです。
⑥「わが恋にくらぶの山の桜花 まなく散るとも数はまさらじ」○
作者・注:坂上是則・古今集。「くらぶの山」=暗部山(鞍馬山の呼古名)、「比べる」に掛けている。「まなく」=くまなく。
意味:鞍馬山に散る桜の花は多いですが、私の恋(の深さ)に比べればものの数ではありません。
⑦「小百合さく小草(おぐさ)がなかに君まてば 野末にほひて虹あらはれぬ」
作者・注:与謝野晶子。「小草」は、草の美称。
意味:小百合の花が咲いている草原であなたを待っていたら、野のはてが美しく輝いて、虹が出てきました。
➇「それとなく紅き花みな友にゆづり そむきて泣きて忘れ草つむ」○
作者・注:山川登美子(与謝野晶子の恋敵。鉄幹をめぐって三角関係の恋をした。その恋に破れたことを「友にゆづり」と表現している。)
意味:気づかれないように華やかな恋を友に譲って、こらえきれずにひとり泣いています。忘れ草を摘みながら。
⑨「ヒヤシンス薄紫に咲にけり はじめて心ふるひそめし日」
作者:北原白秋。
意味:ヒヤシンスの花が、薄紫に咲きましたので、心ときめきます。はじめて誰かに心がときめいた日のようです。