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論理哲学論考ってそんなに難しいですか?
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ウィトゲンシュタインの「論理哲学論考」の背景にあるのは19世紀末の、それまでの伝統的なアリストテレスの主語・述語論理に対して、述語論理を創始し、記号論理学を開拓したフレーゲの「概念記法」とか「算術の基本法則」とか、それを受け継いだ、ラッセルの「数学の原理」と論理分析哲学です。 だから私はウィトゲンシュタインの「論考」を理解するためにフレーゲやラッセルの理論を学ばなければならないと思って、挑戦したんだけど、これがひじょうに難しくて、ましてや私は数学が大の苦手、お手上げでした。 「論考」にはフレーゲ・ラッセル流のテクニカルな議論があって、私は「論考」を読むときにそのテクニカルな部分を飛ばして読むしかありませんでした。 テクニカルな部分を除外するとウィトゲンシュタインの「論考」の背景にあるのはカント哲学だということが分かります。 ウィトゲンシュタインが若い時に読んだ哲学書はショーペンハウワーと、カントだけです。 そして彼は二人から、論理と現実との「写像理論」を学びました。 ショーペンハウワーに「意志と表象としての世界」という本があります。 ショーペンハウワーにとって意志とはカントのいう物自体のこと、だから表象(論理)が物の世界の「写像」という関係で結ばれている考え方が出てきました。 カントには「純粋理性批判」と「実践理性批判」という本があります。 前者が表象としての世界とすれば、後者は意志の世界です。 二つの世界が並行していて、表象(論理)はその意志の世界を反映している、あるいは「映し出している」と考えていました。 これがウィトゲンシュタインになると言語のもっとも基本的な単位が、要素命題、そして要素命題に対応するものが事態、そして真なる要素命題の組み合わせに対応するのが事実というように並行して進みます。 以後、ユークリッドの原論のように、またスピノザの「エチカ」のように公理・公準から必然的に命題が導き出され、「論考」の全体を為します。 そして最後に至って、それまでのすべてをひっくり返すように「語りえぬものについては沈黙しなければならない」という文句で締めくくられます。 カントは「純粋理性批判」で、理性には限界があり、神だとか、魂の不死だとか自由などという「形而上学」の問題を論じると二律背反に陥り、理性には限界があるといったけど、ウィトゲンシュタインも「論考」で、論理には限界があり、論理は神だとか自由の問題は扱えない、その種の問題には「沈黙せざるを得ない」と言ったことになります。 論理は「AはBである」という形を取ります。 そして論理は主語のAにもともと含まれている述語Bについて語ることは出来るけど、しかしそのBが存在することは語れません。 例えば「ソクラテスは人間である」という命題は主語のソクラテスにもともと「人間である」という述語が含まれていて、それを開いて展開したものです。 つまり論理というのは主語に含まれたもの以上の事柄については論じることができません。 それが存在するかどうかは経験の役割です。 例えば「水は高いところから低いところに流れる」というのは論理学の命題ではなく、主語の「水」にあらかじめ、「高いところから低いところに流れる」という性質が述語として含まれているわけではなく、主語に外から経験によって付け加えられた命題です。 だから論理は経験について語ることは出来ません。 ウィトゲンシュタインの「論考」は論理の限界について書かれたものでした。 ところがそのカントは「純粋理性批判」では、神だとか自由だとか、その種の「形而上学」の問題は語れないと言っておきながら、次の「実践理性批判」ではその語れない神だとか自由について積極的に語っています。 むしろ、神だとか自由なしに道徳とか実践について語ることは出来ないと言ったほどでした。 しかし、ウィトゲンシュタインはカントのように「実践理性批判」を書くことはありませんでした。 「実践理性批判」に関しては「沈黙した」のでした。 「論考」は前期のウイトゲンシユタインの形式言語の意味論にたつ哲学書ですが、後期の「哲学探究」になると形式言語の意味論は放棄され、日常言語の意味論に転向します。 言葉と事態との対応理論は放棄され、代わって、言語をコンテクストにおいて考えるようになります。 形式言語の意味論では言語は一義的な意味しか持ちませんでしたが、日常言語の意味論では逆に言語は多様な意味を持つことになります。 たぶん、私の言っていることも、何がなんだか分からないと思います。 説明が下手で、申し訳ありません。 もし「論考」が理解したかったら、野矢茂樹の「論理哲学論考を読む」という本がありますし、また滝浦静雄の「ウィトゲンシュタイン」という本で、テクニカルな議論をうまく説明しています。 ぜひ、読んで見てください。
お礼
いえ、とても興味深い話をありがとうございます。 とても参考になりました。