> 歴史物語にかっこよさなど求めてはいけないでしょうが
いえいえ、「木曽の最期」の話は武士としての「かっこよさ」を求めた話です。
正確に言えば「『かっこ悪さ』を避けた」話というべきでしょう。
まず、「鬼にも神にも会はうどいふ一人当千のつはもの」であり「五騎が内まで巴はうたざれけり」という「巴」が、
> おのれは、とうとう、女なれば、いづちへもゆけ。我は打死せんと思ふなり。
もし人手にかからば自害をせんずれば、木曾殿の最後のいくさに、女を具せられたりけり
なんど、いはれん事もしかるべからず
と義仲から言われて、最初は納得しませんでしたが、
> あまりにいはれ奉って、
という結果、
「武蔵国にきこえたる大力、御田の八郎師重」の首をねじ切ってから東国へ落ち延びていきます。
現代風に言えば、エレンから「俺が巨人との最後の戦いで、女を連れていたと思われるのはかっこ悪い」と言われたミカサが超大型巨人でも倒してから、去っていくようなものです。
別れに際して巴が言ったのは、「さようなら」ではありません。
「あっぱれ、よからうかたきがな。最後のいくさして見せ奉らん」
です。
いえ、実際には、巴は「さようなら」を言ったのかも知れません。
でも、『平家』の作者はそれを書き留めません。
この方が「かっこいい」から、巴の最後の言葉としてこちらを選んだのです。
その後、今井四郎は義仲に、
> 弓矢とりは年来日来いかなる高名候へども、最期の時不覚しつれば、ながき疵にて候なり。
と言い、さらに,
> いふかひなき人の郎等にくみおとされさせ給ひて、うたれさせ給ひなば、『さばかり日本国にきこえさせ給ひつる木曾殿をば、それがしが郎等のうち奉ったる』なんど申さん事こそ口惜しう候へ。
と言います。
まあ、これもたとえて言えば、「リヴァイ兵長ほどの人が、対応しきれないほど多くの巨人に囲まれて、最後には、たかが3メートル級の巨人に食べられちゃったら、かっこ悪いよね。」みたいなものです。
「つまらない敵にやられるぐらいなら、その前に自害する方がましだ。」
これが当時の、武士の美学です。
おそらく現代人なら、名誉より命を優先して、無様でも生き延びようとするでしょう。
しかし、現代人の感覚のみで、古典を読んではいけません。
上に記したように、原文の内容をしっかりと押さえて読まなくてはいけません。
アニメ「進撃の巨人」第24回、「慈悲 ―ストヘス区急襲 (2)―」
どちらかが女型巨人に殺されるということが確実だという状況で、おとりになってエレンを逃がすために地下道を出て行こうとしたミカサとアルミン。
彼らは、エレンに「さようなら」を言いましたか?
本当に心が通い合っているならば、「さよなら」は必要ですか?
緊急の事態にあたって、言葉よりも(エレンのための)行動、二人はそちらを選んだのではないでしょうか。
新たな五十騎の敵が現れる中で、
> 君はあの松原へいらせ給へ。兼平は此敵ふせぎ候はん
というのは、この時のミカサとアルミンの覚悟と一緒ですよね。
(自害させるためか、逃がすためかの違いはありますが
それは、名誉と命のどちらを優先するかという
古今の価値観の違いです。
たとえば、卑怯な手を使ってでも逃げて、
後々まで卑怯者と蔑まれるか、それとも、潔く死ぬか。)
この後も義仲は、まだ納得はせずに、一緒に戦って死のうと言うことを述べます。
それに対して今井四郎は、名ある武士である義仲になんとか恥をかかせまいとして上記の「弓矢取り」云々の反論をします。
その反論の最後の言葉は「ただあの松原へいらせ給へ」です。
それに対する義仲の返事が「さらば」です。
「(私と一緒に死にたいという)私情にとらわれてはいけません。立派な武士としての対面・面目をお保ちにな(って自害す)るべきです」という今井四郎の説得に対して、
「一緒に死にたいという気持ちは今も変わらない。でも、お前の言うのが正しい。お前の意見に従おう」というのが、義仲の「さらば」です。
この場面で、義仲が「分かった、お前の言うとおりだった」
という意味のことを言わずに、いきなり「さよなら」というのは
突然過ぎはしませんか。
以上が今まで多くの『平家物語』の研究者が、
「さらば」を「さようなら」という別れの挨拶と解釈せずに、
「お前の言うことは分かった。それならば、私は自害しよう」
と解釈してきた理由だと思います。
このあたりを「感覚」の一言で片付けてしまう、
担当の先生も、どうかな、とは思いますが、
たしかに論理的には説明しづらいことだと思います。
長くなってしまいましたが、「感覚」の中身を
解説すれば、こういうことになるのではないでしょうか。
お礼
おそくなってすみません、ありがとうございますm(__)m 琵琶法師がするってのはしっていましたが、こんなに種類があるなんてぜんぜん思っていませんでしたし、琵琶法師がかってに個人でその場で考えてる…みたいなことだと思っていました… これで中間でさらばの意味を答えよ、と言われてもさようならなんていいません! ありがとうございます!