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ああ、これは有名な菊田医師事件であるな。 本判決は、いわゆる赤ちゃんあっせんで知られた医師のXが、右あっせん行為に関連して罰金刑に処せられたこと等を理由にY医師会から優生保護法14条1項による人工妊娠中絶を行うことのできる医師(以下「指定医師」という。)の指定の取消処分を受け、また、新たな指定申請を却下されたので、右取消処分等の取消しと国に対する国家賠償を求めている事案についての最高裁判決である。 ここでの論点は、法律の明文の規定なくして行政庁が授益的行政処分を撤回することができるかどうかである。 判決は、授益的行政処分を撤回も、行政目的の合目的回復であるとし、「(1)行政処分の取消しの場合と撤回の場合とで、さほど異った考え方をしていないようにみえる、(2)取消しないし撤回することができるためには、行政上の必要があるというだけでは足りず、撤回によって相手方が被る不利益を上回る公益上の必要があることを要する、(3)右の公益に適合するかどうかは、取消しないし撤回の必要性の程度、当該行政処分の性質・内容、取消しないし撤回によって相手方の被る不利益の程度等を総合的に考慮して判断する。」とした(調査官解説抜粋)。 なお、これ以降は蛇足である。 菊田医師の行為は赤ちゃんの生命を救うものであって緊急避難的であり、取消処分について行政裁量違反の主張もした。 最高裁は「実子あっせん行為は、医師の作成する出生証明書の信用を損ない、戸籍制度の秩序を乱し、不実の親子関係の形成により、子の法的地位を不安定にし、未成年の子を養子とするには家庭裁判所の許可を得なければならない旨定めた民法七九八条の規定の趣旨を潜脱するばかりでなく、近親婚のおそれ等の弊害をもたらすものであり、また、将来子にとって親子関係の真否が問題となる場合についての考慮がされておらず、子の福祉に対する配慮を欠くものといわなければならない。したがって、実子あっせん行為を行うことは、中絶施術を求める女性にそれを断念させる目的でなされるものであっても、法律上許されないのみならず、医師の職業倫理にも反するものというべきであり、本件取消処分の直接の理由となった当該実子あっせん行為についても、それが緊急避難ないしこれに準ずる行為に当たるとすべき事情は窺うことができない。しかも、上告人は、右のような実子あっせん行為に伴う犯罪性、それによる弊害、その社会的影響を不当に軽視し、これを反復継続したものであって、その動機、目的が嬰児等の生命を守ろうとするにあったこと等を考慮しても、上告人の行った実子あっせん行為に対する少なからぬ非難は免れないものといわなければならない。」とし、この原告の主張を退けている。