尊い血統を受け継ぐ者が異郷をさすらい、様々な試練に遭いながら自らの資質を顕現していくという話型のこと、です。
ここで言う「異郷」は、自らが本来あるべき場を離れていることを言いますので、たとえば都を離れて東国や西国へ向かうことも言います。源氏物語における光源氏の須磨・明石への蟄居は、貴種流離の最も完成されたものだと言われます。他にも、伊勢物語の東下り、宇津保物語の俊蔭の流離(こちらは日本内ではなく、異国への流離であり、さらには神仙の世界にも触れます。)などが挙げられます。もともとこの話型は好まれていたらしく、神話の中でも大国主命の妻問いや倭建命の東国への旅、軽太子とその妹の軽大郎女の悲恋物語などが描かれています。
また、それらの流離によって、何らかの成果を収めて帰ってくるというものもあります。光源氏は明石の君との間に後の明石中宮をもうけますし、俊蔭は流離の中で琴の秘曲を習得、大国主命も得難い二人の妻との出会いを果たします。その一方で、流離の果てに異郷で命を落とすというものもあり、これは倭建命が当たります。
主人公の特異さや事態の異常さを表現する話型として上代から描かれてきたのが貴種流離なのです。