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エチジウムブロマイドと多剤排出系
- エチジウムブロマイドの変異原性についてのデータが不足しており、扱いに慎重さが必要。
- エチジウムブロマイドの生きた細胞への浸透性は「多剤排出系」によるものと考えられる。
- 多剤排出系は広く存在しているが、ネズミチフス菌に変異が現れる理由などはわかっていない。
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質問の趣旨とはちょっと離れるかもしれませんが、「気になる記述」をした本人だと思われますので、 Ethidium bromideの危険性がどれほどのものかについては、bionet.molbio.methds-reagntsでは、繰り返し論議され、そのたびに非現実的なEthidium bromide恐怖が戒められています。Archiveから過去記事を検索してみてください。 http://www.bio.net/bionet/mm/methods/ Ethidium bromideの変異原性をAmes test示した唯一の文献は(少なくとも数年前までは)これです(PDFのダウンロード)。 http://www.pnas.org/cgi/reprint/72/12/5135 ここでは、1 dishのサルモネラ菌に、5 microgramsのEtBr(ラット肝抽出物で処理済み)を加えたら、1012コロニー、nmolあたりに換算して80コロニーのrevertant (変異)が生じたとあります。 ここで、いくつか考えに入れておかねばならないことがあります。 1. いかに細胞が薬剤を能動的に排出すると言っても100%ではあり得ない。要はdoseの問題で、効きにくい、あるいは吸収されにくい毒物でも量を増やせば効果が現れる。 2. 上記の論文では濃度が与えられていないので比較がしにくいが、5 microgramsのEtBrというと、一般的な染色液10 mL分であり、特定の範囲の細胞が集中的にそれに暴露される事態は考えにくい(ストック溶液なら数microLで達してしまいますが)。 3. 実験室の一般的心得である手洗いや実験着の着用をしていれば、たとえ汚染があっても、上記の条件をはるかに下回る。 4. 上記のAmes test は肝抽出物の解毒系で処理したEtBrを用いているので、修飾されて細胞に吸収されやすくなっていると考えられる。未処理のEtBrの変異原性はそれよりはるかに低い(論文中では多少の(somewhat)効果が認められると注釈)。 5. 各種試験で用いられる細菌、培養細胞と違って、皮膚は角質層を持っているので、よっぽどの浸透性の薬剤でない限りそもそも薬剤が浸透しにくい。また分化を完了し分裂が終了している細胞では変異原を与えても癌化などを起こす可能性は低い。 これだけ考えると、実験室で試薬を取り扱うときの常識を守っているかぎり、それほど危険はないと考えてよいでしょう。原液をなめたりしたら危険でしょうけれど、実験室にはなめたら危ない薬品はほかにも数限りなくありますから。 蛇足ですが、上記の論文の中でたばこ一本分の煙成分を投与した結果が出ています。 18200 コロニーで、上記のEtBrの結果の18 倍です。たばこはアクシデントによる汚染ではなく、好きこのんで口にするものですから(副流煙というのもありますが)そのリスクはいかほどのものでしょう。EtBrに脅威を感じている方、EtBrの扱いに神経を使うのは大賛成ですが、もし喫煙者でしたらたばこもやめた方がいいですよ。
お礼
geneticist2さま 返信が大変遅れてしまい失礼いたしました。 大変参考になりました。 実際、私が質問したのは、生物学的な興味というより、安全面への心配だったので、geneticist2さんの回答は大変たすかりました。 実際、wakoの製品などをみても「強力な突然変異原」としるしてあるだけで、原液や、染色に使うような10000倍希釈のエチブロがどれだけ危険か分かりかねていましたが、PNASの論文はいい指標になりました。 ちなみに私は非喫煙者ですが、まわりに煙草を吸う人はごまんといるので、むしろそちらのほうが危険かもしれませんね。 本当にありがとうございました。