刑法・間接正犯における実行の着手について
実行の着手時期について、結果発生の具体的危険性(法益侵害の現実的危険性よりもより切迫した具体的危険)が発生した時に実行の着手があったとする見解があります(具体的危険説)。
間接正犯で、被利用者の行為が実行行為であると評価される場合を念頭においたとき、この見解に立った場合の、実行行為者は利用者であるが、実行の着手時期は被利用者の行為の時になる、という理解でよろしいでしょうか。
この見解によると、実行の着手概念は、実行行為の開始を意味するのではなく、未遂の可罰性の開始時点を定めることになり、被利用者の行為に実行の着手時期を認めることができるとされています(山中敬一『刑法概説』p163~)。
ですから、法益侵害の具体的危険性が認められる時点が、被利用者の行為時点であると認められれば、実行の着手時期が被利用者の行為時だと解することは可能だと思います。
他方、間接正犯は正犯であり、山中敬一教授によると正犯とは「自らの手によって直接構成要件を実現する者」を指しています(山中敬一『刑法概説』p184~)。すなわち実行行為(と評価される行為の少なくとも一部)を行った者を正犯としているのだと思います。
間接正犯において正犯として処罰されるべき者は利用者であり、だとすれば、利用者が実行行為者でありその者の行為が実行行為と解されなければならないと思うのですが、実行行為者が利用者であるにも関わらず、実行の着手時期については被利用者の行為時である、と理解することのできるロジックが私には理解ができませんでした。どなかか教えていただけないでしょうか。
間接正犯は正犯であること、正犯とは実行行為(の少なくとも一部)を行った者であること、という命題を前提として間接正犯の実行の着手時期について、被利用者の行為時点を実行行為時点と解することのできる論理的な根拠が私には理解できませんでした。