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パスカル著 パンセについて教えてください。
教会に通ううちに、ある方よりパンセの話を少し聞く機会があって、本を読みたいと思いました。 ルイ・ラフュマ版がよい、と聞いたものの、アマゾンで現在扱っていないとのこと。 その翻訳者によって、内容も少しずつ違うものらしく・・・パンセはおろか、パスカル自体も「人間は考える葦である」いう言葉以外知らず、また最近はまともな読書もしていない私が、 とっつきやすく、また購入可能な「パンセ」をご教示くださるとうれしいです。 読書時間はそこそこ持てます。 また、パンセの感想なども併せて教えてください。
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『パンセ』は、完成された書物ではなく、覚え書きの段階で遺された断片にすぎません。それが、死後さまざまな人の手によって編纂されたために、いくつもの版があるし、今後も研究が進むにつれて、新たな版が出てくるかもしれません。 > ルイ・ラフュマ版がよい というのは、おそらくどなたかがそうおっしゃられたか、書かれたかなのでしょうが、一番普及しているのはブランシュヴィック版であろうと思います。ブランシュヴィック版というのは、十九世紀末に刊行されたもので、パスカルの手による、もしくは口述されたものと確認しうるあらゆる断章を、内容の連関にしたがって、十四の主題のもとに整理し、論理的順序に従って配列したものです。その編纂方法ゆえに読みたい場所を探すのに好都合で、現在でも『パンセ』の章句を引用する際に、第何章、と書く場合、一般にこの版に従っていることが多いのではないでしょうか。 ラフュマ版というのは、わたしも未見なのですが、第一巻を原典編、第二巻を注釈編、第三巻を資料編としたもので、『第一写本』をパスカルの草稿の状態であるとして、『第一写本』の順序にしたがって配列、草稿に見られる書き直しや抹消の箇所についても、忠実に再現されたもののようです(筑摩世界文学大系19 巻末解説による)。 カッチリとした思想体系ではないだけに、編纂のやり方によって、また翻訳者によってもずいぶん印象が変わるという側面は否めないでしょうが、哲学科の学生の方、今後パスカルの研究を志そうとする方でないのなら、まずはどれでも良い、手に入りやすいものを一冊手元に置き、折に触れて開き、あちこち拾い読みしながら、少しずつパスカルの世界に入っていく、というやり方で良いのではないでしょうか。もちろん、ある程度、全体を理解しなければ、どの部分すら完全に理解することはできないのも確かなのですが、完全には理解できないまでも、キリスト教の信仰をお持ちの方であれば、パスカルの洞察を通して得るものも多いのではないかと思います。 手元にあるのはブランシュヴィック版松浪信三郎訳のものなので、そこから質問者さんも書いておられる有名な第347を見てみましょう。 「人間は自然のうちで最も弱い一茎の葦にすぎない。しかしそれは考える葦である。これをおしつぶすのに、宇宙全体はなにも武装する必要はない。風のひと吹き、水のひとしずくも、これを殺すに十分である。しかし、宇宙がこれをおしつぶすときにも、人間は、人間を殺すものよりもいっそう高貴であるであろう。なぜなら、人間は、自分が死ぬことを知っており、宇宙が人間のうえに優越することを知っているからである。宇宙はそれについては何も知らない。 それゆえ、われわれのあらゆる尊厳は思考のうちに存する。われわれが立ち上がらなければならないのはそこからであって、われわれの満たすことのできない空間や時間からではない。それゆえ、われわれはよく考えるようにつとめよう。そこに道徳の根原がある。」 宇宙にくらべれば人間は「葦」ほどに弱くちっぽけなものであるけれども、宇宙について考え、その大きさの一端でも知っているがゆえに、偉大なのである。考える、ということにこそ人間の尊厳があり、同時にすべての道徳の源がある、と。 けれども、続く第365ではこんなことも言っています。 「思考――人間のすべての尊厳は思考のうちに存する。 しかし、この思考とは何であるか? それはなんと愚かなものであることか! それゆえ思考は、その本性からいえば、賛嘆すべきものであり、比類なきものである。それが軽蔑されるとすれば、そこに奇妙な欠陥があるに相違ない。事実、それは、これ以上おかしなものはないほどの欠陥をもっている。思考は、本性からいえば、いかに偉大であることか! それはその欠陥からいえば、いかに低劣なものであることか!」 パスカルの思想というのは、このようにつねに両義性が含まれていて、読み返すたびにおもしろいなあと思います。ほかにもまだ書きたいことはいくつもあるのですが、とりあえずはご自身で読まれてみてはいかがでしょうか。 以上、少しでも参考になれば。
お礼
とてもご丁寧な回答をありがとうございます。 私がパンセを読みたい、と思ったのは、やはり信仰ゆえなのですが。 それもまだクリスチャンとして成熟していないので、 パスカルのような学者がいかにキリスト教にひかれていったか、 それをすこしでも垣間見ることが出来れば また私の信仰もいっそう深まるのではないか、など思ったのです。 回答がしばらくつかなかったので、中公文庫の「パンセ」を買い求めました。 パンセを始めて読む者にとって、もっともとっつきやすいそうなので・・・ また配列も、回答者様の書かれていたブランシュヴィック版によっているそうです。 聖書にふだん接しているので、キリスト教について書かれた部分は とっつきやすいような気がしますが、 意味が分からない部分もあります。 もしかして、パンセの解説書みたいなのもあるのかしら・・・など 思ったほどでした。 ひとつ生きていくなかで大きな楽しみを持った、そんな気がします。 本当にありがとうございました。