少々長くなりますが堪忍してください。
1、まず、「明細書」と「特許請求の範囲」の書面の役割の違いを理解してください。
課題を解決するための手段は、明細書の詳細な説明の中の一部です。「明細書」は、発明の内容を、発明した背景や課題、どのように世の中に役に立つのかといったものを含め社会に開示するのが役割です。
一方「特許請求の範囲」は、発明を公開した代償として、公開した内容の範囲内で、出願人が「自分はこの範囲について特許が欲しい(特許権が欲しい)と主張する(意思表示して請求する)ものです。権利範囲を確定する役割をもっています。
役割がちがうのですから、明細書で公開したからといって特許請求の範囲の書類を提出しないでよいということにはなりません。特許請求の範囲という書類を提出しなければ権利の主張がないということになります。あらためて、権利範囲として請求しなければなりません。特許権は、明細書に記載した内容に付与されるものではなく、「特許請求の範囲」に記載した出願人が主体的に請求した範囲に付与されるものです。請求していないものには権利は与えられません。
2、「課題を解決するための手段に記載した発明」と「特許請求の範囲に記載した発明」との関係
課題を解決するための手段には、発明(特許法で定義された自然法則を利用した高度に創作された技術的思想)を記載する必要があります。課題を解決する創作された手段(技術的思想)こそが発明です。「技術的思想(アイデア)」ですから形がありません。この形のない発明(技術的思想)を、既存の技術とともに、どのように実施するか使用するかも開示しなければなりません。これが、「発明の実施の形態」といわれるものです。
一方「特許請求の範囲」(請求項に係わる発明)は、権利範囲を主張・確定するものですから、次の条件を満たす必要があります。
一つは、発明(課題を解決するための手段で記載した技術的思想)を含んでいなければならない。
二つは、権利範囲を(特に権利範囲の外縁を)明確に認識できるものでなければならない。思想のような形のないものであってはならない。技術的思想を記述するだけでは不十分です。技術的思想が実施された具体的なもの (物であるか方法であるかを含めて)を記載しなければなりません。
例えば、鉛筆の軸が円形をしていた時代に、鉛筆がコロコロ転がらないように「軸の断面形状を多角形にする」という発明があったとします。この「軸の断面形状を多角形にする」というのが技術的思想(発明)です。この技術的思想が鉛筆に適用された(発明が具体的に実施された)ものが「軸の断面形状が多角形であることを特徴とする鉛筆」となります。特許請求の範囲には、「軸の断面形状を多角形にする」と技術的思想だけを記載してはいけません。「軸の断面形状が多角形であることを特徴とする鉛筆」と、発明を含んでいるとともに権利範囲が明確に解るように記載しなければなりません。特許請求の範囲に、「軸の断面形状が6角形であることを特徴とする鉛筆」とか「軸の断面形状が多角形であることを特徴とする赤鉛筆」と記載することも出来ますが、自ら権利範囲を狭くした悪い例ですから絶対に避けなければなりません。
「特許請求の範囲」には課題を解決するための手段で記載した技術的思想が含まれている必要がありますから、必然的に、多くは、課題を解決するための手段の記載表現と特許請求の範囲の記載表現が似たようなものになるでしょう。
課題を解決するための手段の記載表現と特許請求の範囲の記載表現が同じものになる必要は必ずしもありません。記載されているものが異なっているとの見方をされないよう、同じような表現をしておくのが間違いがないという考えが慣例とされているようです。