The Financial Times紙の経済コラムからです。筆者は Willem Buiter氏。12月2日付けの「It is time for the monetary authorities to jump into the liquidity trap」と題するもの。
「金融当局は『流動性の罠』に飛び込むべし」とタイトルにあるように、筆者はこのコラムで、現在の経済的苦境を打開するために名目金利をゼロにすることと量的緩和を実施することを金融当局に勧めています。
念のため質問箇所のひとつ前の段落から引用します。
This process of quantitative easing can, effectively, go on forever. It only stops when the central bank has monetised all private and public securities. Even if the risk-free nominal interest rates at all maturities are reduced to zero (the deep liquidity trap), the scope for quantitative easing is not exhausted, because the central bank has the option of acquiring risky private securities of any and all kinds, up to and including ordinary equity.
Cutting nominal rates to zero and quantitative easing will not be inflationary as long as the virtually unbounded liquidity preference of the private sector persists. These measures will become inflationary as soon as normalcy returns and liquidity is, once again, just viewed as food for the faint-hearted. At that point, there has to be a swift reversal of the quantitative easing and an increase in short nominal interest rates, sufficient to reduce the real demand for base money to a level consistent with the remaining outstanding nominal stock at the prevailing price level. That will be a fun exercise.
1. 上記文章中の liquidity is, once again, just viewed as food for the faint-hearted (流動性が再び臆病者の糧とみなされるだけとなる)の意味をご説明ください。
2. 上記文章中の sufficient to reduce the real demand for base money to a level consistent with the remaining outstanding nominal stock at the prevailing price level. の訳をご教示ください。
なお、参考までに質問箇所以外の部分の訳を以下に示します。
この量的緩和のプロセスは実質上永遠に続き得る。それが止まるのは、中央銀行が私募、公募を問わずすべての証券を貨幣化したときである。たとえリスクのないすべての償還期間の名目金利がゼロに設定されたとしても(「深刻な流動性の罠」)、量的緩和の余地はなくなるわけではない。なぜなら、中央銀行はどんな種類の証券であろうと、普通株を含むいかなるリスクのある私募の証券でも、自分が購入するという選択肢が残っているからだ。
名目金利をゼロにすることと量的緩和は、民間部門がほぼ無制限の流動性を好む限り、インフレを招来しない。これらの方策がインフレを招くのは、事態が正常に復し、流動性が再び臆病者の糧とみなされるだけとなった途端である。その刹那、量的緩和はすみやかに方向転換され、短期名目金利は引き上げられねばならない。ベースマネーに対する実需が~と同じ水準になるまで。それはなかなか面白い作業となるだろう。
>1. 上記文章中の liquidity is, once again, just viewed as food for the faint-hearted (流動性が再び臆病者の糧とみなされるだけとなる)の意味をご説明ください。
「貨幣需要が投機的需要だけになったとみなされる」つまり「金利」によって「貨幣需要」が決定される状態であるということです。
この場合、量的緩和は金利を引き下げますので、投資が誘発されIS曲線が右に移動し、需要が拡大しインフレを起こすことになります。
>2. 上記文章中の sufficient to reduce the real demand for base money to a level consistent with the remaining outstanding nominal stock at the prevailing price level. の訳をご教示ください。
「金利を引き上げることによって通貨の有効需要を、市中債券の時価総額に一致する水準まで下げる。」
参考程度にしてください。
質問者
補足
レスありがとうございます。
1. について。
No.1 の方とうってかわって逆に専門的になりすぎで、私にはちょっと理解しにくいです。^^;
私の質問のし方がわかりにくかったようです。
「流動性が再び臆病者の糧とみなされるだけとなる」と書いてあるからには、元々流動性というものが市場関係者の間では臆病者、気の弱い人間が好むものであるとの感覚が一般的であるということだと思います。
私の疑問は、この感覚が本当なのか、それが金融業界での常識的感覚なのかということです。
私には流動性というものは市場に不可欠のものと感じられます。流動性がなければ取引が成り立たないという感覚で市場を捉えていました。それが臆病者、気の弱い者の好むものであるとは、ちょっと納得のいかない表現と感じました。それでこの文章の意味をどこか勘違いしているのではないかと不安になって質問した次第なのです。
liquidity is viewed as food for the faint-hearted
「(一般に)流動性は臆病者・気の弱い人間の糧であるとみなされる」という文章で、流動性はなぜ臆病者・気の弱い人間の糧であるとされるのか、もう少しわかりやすいご説明は可能でしょうか。
2. について。
こちらの訳と意味は自分には納得できるものと感じられます。
ありがとうございました。
私は理系なので経済用語はよくわかりませんが、下記のようなことではありませんか。
1. faint-hearted を下記にあるように、心臓の悪い人という意味で使っているのではないでしょうか。
http://www.abc.net.au/ra/innovations/stories/s1518109.htm
"While chilli isn't a food for the faint-hearted, medical researchers at the University of Tasmania's School of Life Sciences, over the past 18 months, have found people sleep and feel better if they eat a small amount of chilli each day."
2. outstanding stock の意味は
http://eng.alc.co.jp/newsbiz/hinata/2005/10/shares_issuedsh.html
に議論されています。
「ある価格レベルにある発行済株式と整合するレベルまでお金の需要を減らすのに十分な」といったところでしょうか
"outstanding nominal stock" の使用例は "devaluation of the outstanding nominal stock of government debt" "Inflation reduces the real value of the outstanding (nominal) stock of public debt" のようなのがインターネットで見つかります。
お礼
再度のレスありがとうございます。 なるほど。やはり自分はとんでもない見当違いをしていたわけですね。^^; faint-hearted は流動性を恐れる人ではなくて「債券の利回りに敏感な人」を意味していたというわけですか。 (ご説明の中の「金利」はこの場合「利回り」といってもよろしいですよね) 自分自身で、流動性は「臆病者、気の弱い者の好むもの」と表現しておきながら、「流動性選好」liquidity preferrence という単語はまったく自分の頭には浮かびませんでした。この言葉自体とその教科書的説明は一応知ってはいたのですが。 結局、自分にはまだ経済の常識が感覚として身についていないようです。 流動性 liquidity 、faint-hearted、流動性選好 liquidity preferrence の三つは自分の中ではバラバラのままでした。 非常に勉強になりました。 ありがとうございました。