- ベストアンサー
旋光性の原因
乳酸やアミノ酸などの生体物質には,光学異性体をもつものがたくさんありますが,これらの物質の水溶液が光学活性をもつ場合,偏光が回転するのなぜですか。わかりやすい解説をお願いします。
- みんなの回答 (3)
- 専門家の回答
質問者が選んだベストアンサー
もし分からない部分があれば,補足しますよ。レスは遅いですが。 > 溶質分子はバラバラの方向を向いていて規則的に配列しているわけではない そうなのですが,光学活性体の水溶液は,反転対称,任意角の回転対称,鏡映対称の全てを有する「完全な等方体」ではなく,鏡映対称がない「不完全な等方体」なのです。これが最も肝心な点です。幾ら個々の分子が自由に並進運動をしても,鏡映対称だけは決して成立しないのです。 右円偏光と左円偏光も,いわゆる「鏡像の関係」にありますからね。l型の基質にはl型の酵素しか反応しない,という様な関係がある様に,l型の物質には左右どちらかの円偏光しか吸収を持たなかったりするわけです。つまり,光学活性体というのは,円偏光に対する特異性を持っているのです。 もし,とある波長でl型の物質に右円偏光が強く吸収したとすれば,透過光は左円偏光の成分が多くなるため,円二色性の値は負の値になります。また,旋光は二色性の微分形となる(=クラマースクローニッヒの関係)ことが分かっているため,その波長より低波長側では右旋光,高波長側では左旋光とります。
その他の回答 (2)
- 38endoh
- ベストアンサー率53% (264/494)
> 結晶構造中にファラデー効果の磁場に相当するものが存在する いえ,残念ながら違います。 ファラデー効果は,磁気構造が鏡映対称性を欠くときに生じます。結晶構造が鏡映対称を欠けば「自然光学活性」,磁気構造が鏡映対称を欠けば「磁気光学活性」です。なお,実際に磁気構造の対称性を考察する場合は,「スピンが軸性ベクトルである」ということを考える必要があります(結晶構造を示す位置ベクトルは「極性ベクトル」です)。詳しくは,磁気光学や磁気点群などに関する成書をお読みください。 自然光学活性も磁気光学活性も,どちらも鏡映対称を欠くことが原因で,左右円偏光に対する光学定数に差が生じます。これが旋光や楕円率が生じるメカニズムです。 > 溶質分子はバラバラの方向を向いていて規則的に配列しているわけではない 全ての物質は,一つ波長に対して9個の屈折率を持ちます。具体的には, x入射におけるx出射の屈折率(nxx),y出射の屈折率(nyx),z出射の屈折率(nzx), y入射におけるx出射の屈折率(nxy),y出射の屈折率(nyy),z出射の屈折率(nzy), z入射におけるx出射の屈折率(nxz),y出射の屈折率(nyz),z出射の屈折率(nzz), という9個です。ただ,均一な溶液,多結晶性材料,アモルファス材料,立方晶系の単結晶といった光学的に等方的な材料では, nxx = nyy = nzz <> 0,他の要素は全てゼロ が成り立ち,それ以外の成分がすべてゼロになるため,事実上一つの屈折率しか見えてきません(ニューマンの原理)。 光学活性体は,実は,上記の等方体の関係式には当てはまりません。完全な等方体ではないからです。「鏡映対称性のみが失われている等方体」だからです。この対称性低下によって, nxx = nyy <> 0, nzz <> 0, nxy = -nyx <> 0 ←この要素の出現が重要 他の要素は全てゼロ となります。この独立従属関係の変化は,円偏光の基底で考えれば,単なる「左右円偏光の屈折率に差が生じる」ということになります。これが旋光の原因なのです。 > 固体での旋光性のしくみが理解できれば,解決に一歩近づくと思います。 立方晶系以外の単結晶では,鏡映対称性だけでなく,他の多くの対称性が失われています。この結果,上で示した屈折率の要素間の独立従属関係は,より一層複雑になります。場合によっては nxy も非常に大きな値を持ったりするので,非常に大きな旋光なども観察されます。 点群と対称性との関係については,結晶工学などの成書で「結晶点群と二階テンソル」などをキーワードに調べていただければ宜しいかと思います。
- 38endoh
- ベストアンサー率53% (264/494)
ここで「偏光が回る」と言っている偏光とは,直線偏光のことです。で,直線偏光というのは,右円偏光(=右に回りながら伝播する光)と左円偏光の足し合わせと考えることができます。簡単に書けば, x = cos(t) y = sin(t) のとき, 右円偏光 r = x - y = cos(t) - sin(t) 左円偏光 l = x + y = cos(t) + sin(t) とすると, 直線偏光 r + l = 2 x = 2 cos(t) というニュアンスです。両方が足されれば,回転成分が相殺され,単振動の成分だけが残りますね。 自然光学活性体には,右手と左手に相当する異性体(=光学異性体)があるため,右円偏光が見たときと左円偏光が見たときで,異なる物質に見えます。異なる物質に見えるということは,右円偏光と左円偏光とでは異なる光学定数(屈折率と消衰係数)を持つ,という意味です。具体的に書けば, 右手の異性体に対する右円偏光の屈折率 = 左手の異性体に対する左円偏光の屈折率 右手の異性体に対する左円偏光の屈折率 = 左手の異性体に対する右円偏光の屈折率 ですが, 右手の異性体に対する右円偏光の屈折率 <> 右手の異性体に対する左円偏光の屈折率 左手の異性体に対する右円偏光の屈折率 <> 左手の異性体に対する左円偏光の屈折率 となります(<>はノットイコールの意味)。 屈折率とは,その物質中で光がどれだけ遅く進むかという尺度です(例えば,屈折率2の物質中では,真空中の1/2の速度で光が伝播します)。通常,入射光は定常光ですから,この速度の差というのは,出射側では位相の差になって現れます。そして,位相の異なる左右円偏光の足し合わせこそが,旋光された,すなわち偏光面の回転した直線偏光ということになります。式で書けば, 右円偏光 r = x - y = cos(t) - sin(t) 左円偏光 l = x + y = cos(t + a) + sin(t + a) この二つを足し合わせるような状態です。実際に作図して奇跡を辿って頂ければ,その原理が分かるかと思います。 ちなみに,左右円偏光の吸収が異なると,出射光は楕円偏光となり,これは「円二色性」の原理となります。屈折率と消衰係数との間にクラマース=クローニッヒの関係が成り立つように,旋光性と円二色性との間にもクラマース=クローニッヒの関係が成り立ります。旋光度,円二色性,吸光度というのは,全て繋がっているのですね。
お礼
ありがとうございました。勉強になりました。 ところで,結晶構造をもつ鉱物などの固体を通る偏光が回転するのは,分かるような気がしますが,しくみ自体は理解していません。結晶構造中にファラデー効果の磁場に相当するものが存在するのかなとか考えたりはしているのですが,全く自信はありません。 さらに,溶液が光学活性をもつ場合,溶質分子はバラバラの方向を向いていて規則的に配列しているわけではないのに偏光が回転するのはとても不思議です。 疑問は,固体での旋光性のしくみが理解できれば,解決に一歩近づくと思います。
お礼
難しいということが分かりました。理解を深めてからお礼を言おうと思っているうちに時間が経ってしまい申し訳ありませんでした。とても丁寧な回答をいつもありがとうごさいます。