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低カリウム血症とST低下について。

低カリウム血症ではST低下がみられるそうですが、そのメカニズムが分かりません。 低カリウム血症に伴うNa-KポンプやNa-Ca交換体の機能低下が関与している気がしますが、ST低下に至るメカニズムがはっきりしません。 どのようにして、低カリウム血症でST低下がみられるのでしょうか?また、ジギタリス中毒による (盆状) ST低下も、低カリウム血症によるST低下のメカニズムと同じなのでしょうか?

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  • Shoneman
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回答No.1

本当によく勉強していらっしゃいますね。私自身、この心臓電気生理という分野の研究者の端くれなので、心電図について分かっていることも分かっていないこともある、ということを承知してお書きしているつもりですが、不備がありましたら失礼いたします。 まず、別項でお書きしたST変化のメカニズムについてですが、心電図学的にST変化という現象が完全にクリアにされている訳ではなく、いくつかの状況が説明できるそれらしい「説」が受け入れられている、というのが学問的な状況です。そのため、専門書を読まれても、いくつかのポイントでは、なぜそうなる、がモヤッと書かれていると思いますし、お聞きになっている部分はそういったモヤッとした部分をついておられると思います。 古典的な(比較的広く受け入れられている)ST変化のメカニズムは、基本的に心室筋内の活動電位の不均一性のバランス変化によっておこるとしています。カリウムやナトリウムという主要な陽イオンは心筋の活動電位形成に重要な役割を果たしているので、それらが極端に変化すると活動電位も変化し、このバランスにも影響します。 すでにご理解されているかもしれませんが、この現象に関係する2つの前提条件があります。第一は、心筋の内膜側と外膜側の活動電位がもともと異なっていること(非常に単純化して言えば内側は長い持続時間の活動電位、外側は短い持続時間の活動電位)、第二にカリウムの低下によってその差が少なくなる、ということです。もともと心筋や神経などの活動性細胞は、エネルギーを使って細胞内外のナトリウムとカリウムを交換して細胞内外の電位勾配を作り、それで活動電位を形成していますが、低カリウムではカリウムの減少によって細胞内へ運ぶカリウムが減り、細胞内のカリウム貯蔵が減ることで、静止電位や再分極という過程を形成するカリウム電流が弱くなってしまいます。ジギタリスの様なナトリウム-カリウム交換ポンプ抑制によっても細胞内のカリウムが減り、似たような現象が起こります。心電図の中で再分極過程を示すのはT波ですので、カリウムが高くなるとT波も高くなり低くなるとT波も低くなるのですが、STについてはどうでしょう。上述した通り、生理的な状態では内側が長く、外側が短い活動電位、ということは、活動電位の後半部分で、わずかな時間ではありますが「内側はまだ電位が続いているのに外側は終わりかけ」という時相が出来ます。この時「内側は+外側は-」ですからわずかに外向きに電流が流れることになりますが、その様な状態で「STが平坦」になる様に生理的な状態はセットされている、ということになります。もし、この差が強調されれば「外向きへの電流」は増強し、STが上向きにシフトします。ブルガダ症候群などの病気で見られる現象です。一方、差が小さくなれば「外向きへの電流」は小さくなり、STは変わらないかむしろ下にシフトする、ということになります。やや難解な話かと思いますがスミマセン。よろしいでしょうか。

jodie_0830
質問者

補足

丁寧に回答して頂き有り難う御座います。 申し訳ありません、なぜカリウムの低下によって心内膜側と心外膜側の活動電位持続時間の差が小さくなるのでしょうか?心内膜側と心外膜側におけるKチャネル (Ik1、Ito、Ikr、Iks) の発現量の違いが関係していますか? また、STが低下するということは、脱分極後の「心外膜側の電位が心内膜側よりも高い状態」だと考えるのですが、低カリウム血症ではそのような状態を引き起こす何かしらの要因 (心外膜側のIto、Ikr、Iks電流の変化?) がある、ということでしょうか?

その他の回答 (3)

  • Shoneman
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回答No.4

非常にしっかり調べておられるので驚きます。 私の理解が間違っていたら大変失礼いたしますが、本来の傷害電流説はあくまで静止期に生ずる電位差で流れる傷害電流をもとにした相対的ST部分の電位シフトを言った説明であって、「プラトー相では傷害部位と健常部の電位差がほとんどなくなる」と理解されているはずです。ですが、理論上静止膜電位が浅くなると脱分極の主たる成分であるナトリウム電流の一部が不活化しますので確かに脱分極不全が起こり、プラトー相も短くなります。結果的に心内膜側の傷害部位が心外膜側の健常部に比してマイナスとなる時相が若干増加して、外から内への電流、つまりST低下を示す電流が流れると言えますから後者の説明も補足的に合理的ですね。(私も勉強になりました)。しかし、細かく言えば、カリウムチャネルが複数あるのにたいしてナトリウムチャネルは1種類ですから、脱分極の電位自体に差が付くわけではありません。あくまで持続時間の差がつくという理解だと思います。

jodie_0830
質問者

お礼

傷害電流説では、やはり基線の変動を反映したST変化が主体となるのですね。納得致しました。 この度は再三にわたる質問に対して懇切丁寧に回答して頂き、有り難う御座います。 どの御説明も大変分かりやすく、心電図理解を進めるうえで非常に大きな助けとなりました。 深く感謝しております、本当に有り難う御座いました。

  • Shoneman
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回答No.3

もうひとつ補足です。 最初に書き込みました通り、STがなぜ変化するのか、は、心電図学的に分かっていることと分かっていないがゴチャゴチャとしていますので、専門書や専門家の解説でも結構矛盾して見える記載があるだろうと思います。 今回書き込ませていただいたのは、ST部分(活動電位のプラトー部分)の電位差によって心内膜外膜間で弱く電流が流れる、という「説」で、この場合、身体の外(=記録電極が存在する体表面)に向かう電流は陽性波として記録されてST上昇を来すということになります。一方、ST部分、つまりプラトー相の電位差でなく、むしろ静止期(活動電位4相)の電位差でSTが変化するのだという逆説的な説もあります。これは「傷害電流説」と呼ばれる古典的な説明で、虚血時のST変化をうまく解説できます。虚血などで傷害を受けた心筋は、Ik1など、静止膜電位を担うカリウムチャネルに障害が発生するため、静止期の活動電位が浅くなるという現象を起こします。この時、健常部の心筋は正常な深い静止膜電位を持っているので、傷害部と健常部の間に弱い電流(傷害電流)が流れ続けます。例えば心内膜傷害ではこの傷害電流は外膜側に向けて流れる(傷害部位が-60と仮定すると健常部は-90と相対的なマイナスになりますから)ことになります。結果的に、静止期の心電図は少しプラスにシフトした形で電極に記録されることになります。ところが、興奮時、つまりプラトー相ではこの傷害部位と健常部位の差がほぼなくなるため、上記の様な傷害電流によるシフトは消失します。逆説的ですが、「ST部分以外は若干上へシフトして記録され、ST部分はこのシフトがキャンセルされる」という結果で「STが低下する」と考えるのです、心外膜傷害や貫壁性傷害ではこの傷害電流は逆向きになるので、ST部のシフトは逆になりST上昇になるということです。なんだかこんがらがってきますが、この後半の解説は「傷害電流説」という言葉で正書に解説されています。一方、プラトー期の電位差によるST変化は、ブルガダ症候群の実験的研究で解説されています。

jodie_0830
質問者

補足

丁寧に回答して頂き、有り難う御座います。 傷害電流に関連して1つ質問させて下さい。非貫壁性虚血 (心内膜側のみの虚血) のST低下についての解説を幾つか閲覧した際、参考書や文献等によって 「ST部分 (プラトー相) において、虚血による障害を受けた (心内膜側の) 細胞と (心外膜側の) 正常な細胞の間で電位差はほとんどない。」 とするものと、 「虚血による障害を受けた細胞では脱分極不全が生じ、脱分極後のST部分において、(心内膜側の) 障害細胞と (心外膜側の) 正常な細胞の間で (正常細胞が高位となる) 電位差が発生し、心外膜側⇒心内膜側の方向で電流が発生する。つまり、電極側からみて離れる電気であり、ST部分が低下する。」 とするものを見かけます (後述の解説については「真のST低下」と表記されていました) 「傷害電流による基線の上昇を反映したST低下」に加えて、この「ST部分での電位差によるST低下」というのは、正しいのでしょうか? 質問が分かり辛くて済みません、お時間の宜しい時にお答え頂ければ幸いです。

  • Shoneman
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回答No.2

どんどん詳しくなりますね(笑)。 ご指摘の通り、心内膜側と外膜側の活動電位の差は、主としてIto,Ikurなど反応の早いカリウムチャンネルの発現の差によるものです。特定部位の傷害でなく、全体にカリウム低下が起こればすべてのカリウム電流が減少するので、部位間で差が変化することは分かりにくい感じがしますが、電流起電力の低下は反応の早いチャネルの活動に強く現れるので、ItoなどはIkrやIksよりも強い影響を受けて、活動電位がだらりとしてしまうのです。一方心内膜側はこういった早い反応のチャネルの発現が少ないので影響を受けにくいと考えられます。

jodie_0830
質問者

補足

丁寧に回答して頂き、有り難う御座います。 つまり「ItoやIkurなどのKチャネルは細胞外K濃度の影響を受けやすく、低濃度であれば電流が低下する」+「心内膜側よりもItoなどのKチャネルの発現量が多い心外膜側は、細胞外K濃度の低下によるKチャネルの電流減少の影響が出やすい」。 そのため、低K血症では (心内膜側心筋と比べて) 心外膜側心筋では第1相や第2相の電位下降幅が小さく、ときに心内膜側と比べて第1相や第2相の電位下降幅が小さくなる際、(心外膜側の電位が高位となるため) ST低下として現れる、ということでしょうか? 解釈が間違っていたら済みません、お時間の宜しい時にお答え頂ければ幸いです。

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