サンフランシスコ講和会議で日本が講和条約に調印した昭和26年9月に、朝日新聞がこれについて世論調査を行っています。(全国・9月12~14日実施・3000人対象・多回抽出方式・面接法・調査不能18%)
9月20日付けの朝刊1面に掲載されたこの世論調査の最大の特徴は、現在のようにあらかじめ決められた複数の選択肢のなかから選ばせるのではなく、自由に答えてもらい、あとで集約する「自由回答方式」を採用していることです。
アメリカ・イギリス・ソ連について「会議の印象」を尋ねたところ、それぞれの国で(わからない・その他を除く)上位3つは、
アメリカ:日本に友好的でよくやってくれた(69%)、普通だ(6%)、不満だ(2%)
イギリス;友好的で好感がもたれた(41%)、別にない(14%)、普通である(7%)
ソ連:不満を感じ反感を持った(56%)、予期通り(8%)、将来を警戒する(4%)
またアジア諸国について、「こんどの講和条約に調印していない国がある」ことについて「あなたはどう思われますか」と聞いたところ、「残念だ、調印に協力してほしかった」が最多で17%、次が「いろいろな事情で仕方がない」で11%でした。興味深いのは「中国(中共・国府)の不参加は心残り」がわずか1%であることです。
総合すれば、昭和26年9月の講和条約に調印した時点では、国民の大多数はアメリカに対して好意的であり、ソ連には反感を持っていることが分かります。中国(本土・台湾)については、好き嫌いというより、関心が米ソ両国と比較すればかなり低かったということではないかと思います。
「好きな国」「嫌いな国」については、「日本人研究」No.5「日本人の対外国態度」(日本人研究会編:昭和52年至誠堂)によれば、次の通りです。
昭和15年度の「全国壮丁教育調査」によれば、「好きな国」は1.ドイツ、2.イタリア、3.フランス、4.イギリス、5.ロシアの順です。
昭和39年の「中央調査社の調査(全国)」によれば、「好きな国」「嫌いな国」の順位はそれぞれ次の通りです。
「好き」1.アメリカ、2.イギリス、3.スイス、4.フランス、5.西ドイツ、6.インド、7.ソ連・中共、8.韓国
「嫌い」1.ソ連、2.中共、3.韓国、4.アメリカ、5.西ドイツ、6.イギリス、7.インド、8.フランス、・スイス
戦前は同盟を結んだドイツ・イタリアに親近感を持ち、戦後は冷戦構造を反映した結果となっています。また戦後の調査で「好きな国」1位のアメリカが「嫌いな国」でも4位となっていることは、日本人のアメリカに対する感情が両面的で複雑なことを示しているとも言えそうです。
なお戦前の調査は、「昭和15年度全国壮丁教育調査」(これは国立国会図書館の近代デジタルライブラリーで閲覧可能ですが、この調査項目が見られないため)ではなく、同じ文部省の「戦時下壮丁の思想調査」(「週報」第266号昭和16年11月12日発行所収)ではないかと思われます。こちらは国立公文書館のデジタルアーカイブで閲覧できますが、「週報」には次のように書かれていました。
親善国はどこか
最後の第十問では、壮丁の一番好きな国を訊ねたのですが、第一位はドイツ、第二位がイタリアと答へ、独伊両国で全壮丁の約九割の人気をさらつてゐます。米仏英等はいづれも三%にも充たず、最近の国際状勢から言つても蓋し当然の結果でせう。面白いことは、ドイツを選んでゐる壮丁の率は、學歴の高くなるにつれてはつきりと上昇してゐます。これはインテリ層が読書等によつてドイツの優秀さを最もよく知つてをり、また學術的方面で、しばしばドイツの進歩した研究が参考となつてゐる結果でせう。
お礼
ご回答真にありがとうございます。 よく分かりました。 「一般社団法人中央調査社」という世論調査・市場調査の専門機関があるのですね。 昭和39年の調査では中国を「中共」と呼んでいますね。 「南鮮」「北鮮」も思い出しました。 「好きな国」は欧米諸国であり、これは今もあまり変わっていない感じがします。 朝日新聞の26年度の世論調査は「自由回答方式」だったのですね。 >総合すれば、昭和26年9月の講和条約に調印した時点では、国民の大多数はアメリカに対して好意的であり、ソ連には反感を持っていることが分かります。 >中国(本土・台湾)については、好き嫌いというより、関心が米ソ両国と比較すればかなり低かったということではないかと思います。 そうですね。全く同感です。 「昭和15年度全国壮丁教育調査」も大変参考になりました。 「独伊両国で全壮丁の約九割の人気をさらつてゐます。米仏英等はいづれも三%にも充たず、最近の国際状勢から言つても蓋し当然の結果でせう。」のコメントも当然ですね。 疑問は解消しました。感謝申し上げます。