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株主総会決議取消請求控訴事件
東京高等裁判所平成21年(ネ)第5903号
平成22年7月7日第17民事部判決
主 文
1 本件控訴をいずれも棄却する。
2 控訴人らの当審における訴えの追加的変更を許さない。
3 控訴費用は、控訴人らの負担とする。
1 被控訴人の本案前の主張のうち、原告適格の存否について検討する。
(1)株主総会決議により株主の地位を奪われた株主は、当該決議の取消訴訟の原告適格を有する。当該決議が取り消されない限り、その者は株主としての地位を有しないことになるが、これは決議の効力を否定する取消訴訟を形成訴訟として構成したという法技術の結果にすぎないのであって、決議が取り消されれば株主の地位を回復する可能性を有している以上、会社法831条1項の関係では、株主として扱ってよいと考えられるからである。
(2)被控訴人は、株主総会決議により取締役の地位を奪われた者等についての会社法831条1項後段のような明文の規定が、株主総会決議により株主の地位を奪われた者については存在しないことから、(1)のような解釈は許されないと主張する。
商法旧247条は株主総会決議取消訴訟の原告適格について「株主、取締役又ハ監査役」と定めていたが、会社法831条1項後段では決議の取消しにより取締役となる者等も原告適格を有することが新たに明文化された。しかしながら、同項後段の規定を限定列挙の趣旨と解するのは、適当ではない。
すなわち、会社法の条文中には、商法旧規定における明文の規定も最高裁判所の判例もないが、下級審裁判例の大勢を占め、学説及び会社実務において有力な異論のない解釈を明文化したものがあり、会社法831条1項後段も、商法旧規定下における取締役解任決議取消訴訟における解任取締役の原告適格を認める多数の下級審裁判例の蓄積とこれを支持する学説及び会社実務を受けて、明文化されたものである。他方において、商法旧規定の時代には、株主総会決議により株主の地位を強制的に奪われる局面はほとんどなく、下級審裁判例の蓄積も乏しかったため、会社法立案の際には、株主総会決議により株主の地位を強制的に奪われた株主の原告適格の明文化が見送られたにすぎず、このような株主の原告適格を否定する趣旨で立法がされたものとはみられない。株主総会決議により株主が強制的に株主の地位を奪われるという現象は、全部取得条項付種類株式の制度が会社法制定時に新設されたことにより、同法施行後に著しく増加したものであることは、公知の事実である。そうすると、明文化されなかったものについては、その原告適格を否定するという立法者意思があったものとみることはできず、会社法831条1項後段を限定列挙の趣旨の規定と解することには無理がある。
被控訴人は、原告適格を有する者を細かく列挙する会社法828条2項7号等の条文も指摘する。しかしながら、後述するように、合併決議をした株主総会よりも前の株主総会決議により株主の地位を強制的に奪われたが、当該決議の取消訴訟を提起して訴訟係属中の者は、明文の規定はないものの、会社法828条2項7号の「吸収合併をする会社の株主」に該当する(ただし、当該決議取消訴訟の敗訴判決確定を解除条件とする。)ものとして合併無効の訴えの原告適格を有するものと解すべきであり、会社法828条2項7号等の条文も、限定列挙の趣旨と解することはできない。
株主総会決議により株主の地位を奪われた株主が当該決議の取消訴訟の原告適格を有しないという解釈は、当該株主の権利保障にあまりにも乏しく、条理上もあり得ないものである。
(3)被控訴人は、高速物流の郵便逓送への吸収合併(消滅会社である高速物流の株主に郵便逓送の株式交付)及び郵便逓送の被控訴人への吸収合併(消滅会社である郵便逓送の株主に現金交付)があったことから、控訴人らは高速物流の株主の地位を回復することができず、郵便逓送又は被控訴人の株主の地位を認める余地もなく、控訴人らは原告適格を有しないと主張する。
株主総会後に株主が保有株式の全部を任意に譲渡して株主資格を失った場合には、当該株主が原告適格を失うことは、当然である。
しかしながら、総会決議後に会社に組織再編があって、これを原因として会社が消滅したり、株主が組織再編前後の会社の株主資格を失ったりする場合には、当該株主の決議取消訴訟に関する利害関係は、組織再編の効力を適法に争っているかどうかを始めとして、種々の事情により千差万別であるから、一律に原告適格を失うものと扱うのは適当でなく、当該株主は原告適格を有するものと扱った上で、個別の事案に即して当該株主にとっての訴えの利益の有無を検討するのが適当である。
(4)以上によれば、控訴人らは、本件決議取消訴訟の原告適格を有するものというべきである。原告適格の点に関する被控訴人の本案前の抗弁は、採用することができない。
2 被控訴人の本案前の主張のうち、訴えの利益の存否について検討する。
(1)反対株主の株式買取請求権及び価格決定の申立ての要否について
被控訴人は、控訴人らは反対株主の株式買取請求権や価格決定の申立てという制度を利用しなかったが、これら制度を利用しないで決議取消訴訟を提起することは許されないと主張する。
しかしながら、反対株主の株式買取請求権や価格決定の申立てをしない場合に決議取消訴訟が不適法になるという明文の規定は見当たらない。
また、反対株主の株式買取請求権や価格決定の申立ては、決議が有効なことを前提に利用されるものにすぎない。新たに全部取得条項付種類株式を設けたり、会社がこれを全部取得したりする旨の決議に決議取消事由がある場合には、決議そのものを取り消すべきであって、決議が有効なことを前提として反対株主の株式買取請求権や価格決定の申立ての手段を取るべきことを株主に強要することには無理がある。
普通株式を全部取得条項付種類株式に転換する定款変更や全部取得条項付種類株式の会社による強制取得を議案とする株主総会について会社が株主に対する招集の手続を怠った場合などは、その株主は反対する旨を総会に先立って会社に通知することが不可能であり、その結果株式買取請求権を失うこととなり、決議取消訴訟を提起しなければその株主の不利益は救済されない。このような観点からも、反対株主の株式買取請求権を行使しなければ決議取消訴訟を提起することはできないという被控訴人の主張は、採用することができない。
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