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株主総会決議取消請求控訴事件 解説
- この判例は、株主総会決議取消請求控訴事件について解説しています。
- 東京高等裁判所平成21年(ネ)第5903号での判決です。
- 株主の地位を奪われた株主が当該決議の取消訴訟の原告適格を有するかについて検討されています。
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本件は、株主総会決議取消訴訟における訴訟要件(原告適格および訴えの利益)に関する論点である。取消を求められた決議(本件決議)は、普通株式の全部取得条項付種類株式ヘの転換決議および当該全部取得条項付種類株式の会社による取得の決議(取得対価として交付を受ける株式が、1審原告らについては1株未満であるため、1審原告らは株主の地位を失う)であり、決議のねらいは、会社の株主から小規模株主である1審原告らを締め出すことにあるとみられる。 (1)原告適格に関する論点は、具体的には、本件決議により株主の地位を奪われた1審原告ら(取得対価として交付を受ける株式が1株未満であるため、決議が取り消されない限り、株主の地位を有しない)に、原告適格があるかどうかである。 (2)訴えの利益に関する論点は、具体的には、1審原告らに原告適格が認められるとした場合に、本件における後発的な事情の変動(当該決議をした会社の消滅(他の会社への吸収合併)など)により、訴えの利益が消滅するかどうかである。 2 原告適格については、1審判決は原告適格を否定し、本判決は原告適格を肯定した。 1審判決は、口頭弁論終結時に当該会社の株主であることが原告適格の要件であるところ、取消判決確定までは本件決議は有効と扱われること(1審原告らは株主でないと扱われること)などを指摘して、1審原告らの原告適格を否定した。 一方、本判決は、1審原告らの原告適格を肯定した。すなわち、決議取消判決確定前に株主ではないと扱われるのは決議取消訴訟を形成訴訟として構成したという法技術の結果にすぎず、決議取消判決の確定により株主の地位を回復する可能性がある以上は、原告適格の関係では「株主」に含まれると解釈する考え方である。 3 訴えの利益については、本件決議後に他の会社に吸収合併されて会社が消滅したため、決議取消判決が確定しても、消滅した会社の株主の地位が回復され得るのかが議論となり、訴訟や判決をする実益の有無が問題点として浮上した。 1審判決においては、訴えの利益についての判断は示されていない(本件決議後の吸収合併により会社が消滅したことを、原告適格を否定する一事由として指摘しているようである)。 本判決は、決議取消訴訟を提起した1審原告らは、その後の吸収合併について、合併無効の訴えの原告適格を有する(決議取消訴訟を提起していれば、決議取消判決確定前においても、会社法828条2項7号にいう「吸収合併の効力発生日に吸収合併をする会社の株主であった者」に該当する)という解釈を示し、合併無効の訴えを提起している場合には、合併無効判決の確定により元の会社の株主の地位を回復することができるから、訴えの利益を失わないと判断した。合併無効事由としては、合併契約承認総会について1審原告らヘの招集通知がなく、合併承認決議に瑕疵があることなどが考えられる。なお、本判決は、本件のように決議後に吸収合併等が2回以上繰り返された場合においては、吸収合併をする会社(本件では被控訴人と郵便逓送)の前身となる会社(本件では高速物流)の株主も、被控訴人と郵便逓送の合併無効の訴えの原告適格を有することを解釈として示し、その上で、決議後の吸収合併等の組織再編の全部について、組織再編無効の訴えを提起している場合には、決議取消訴訟の訴えの利益を失わないと判断している。 そして、本判決は、本件においては合併無効の訴えの提起がなく、吸収合併自体は有効であることが対世的に確定しているから、会社が消滅(会社法471条4号による解散)したことも対世的に確定しており、これに伴い1審原告らが対世的に確認を求めている株主の地位も消滅していることを理由に、本件決議取消訴訟の訴えの利益は消滅したものと判断したものである。 本判決の考え方によれば、株主総会決議により株主の地位を奪われた株主が決議取消訴訟を提起した場合において、その後に会社の組織再編(合併、株式交換等)があった場合には、当該組織再編の全部について組織再編無効の訴えを法定の期間内に提起しておかないと、決議取消訴訟の訴えの利益が消滅すると判断されることになろう(調査官解説抜粋)。