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エントロピーが最大値をとることは熱力学的な平衡である
エントロピーが最大値をとることは熱力学的な平衡である ということがニュアンス的にはわかるのですが、 (エントロピーが増大する方に物事は進む、それが最大になるまでその反応は進む) それを示す 0≧δS(U,Vは一定) がどのように導かれたのか、 またこの式からエントロピーが最大が平衡 というにはどうすればいいのかがよくわかりません。 教えて頂けると嬉しいです。 宜しくお願いいたします。
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普通学習する熱力学は「平衡状態の熱力学」です。 熱力学な状態はすべて平衡状態であるとして考えています。 温度や圧力、エントロピー、フリーエネルギー、・・・はすべて平衡状態での値です。 ある状態から別の状態に移った時の熱力学的な量の変化は、その変化が「準静的な過程」で実現したとして求めることができます。エントロピーが状態量であるというのはどの本にも載っていて、強調されていることです。状態が決まればエントロピーが決まるのですからどこかから生まれてくるという事はありません。 ある変化によってエントロピーが増えるというのは、移動した先の状態でのエントロピーが初めの状態よりも大きくなるような方向の変化が起こったということ事です。準静的過程を使えばエントロピーが大きくなる方向にでも小さくなる方向にでも移ることができます。 準静的でない変化でも、その変化が起こった結果、平衡状態が実現していれば、その状態によって決まるエントロピーが分かるはずです。初めの状態Aと終わりの状態Bが決まればその途中の変化が準静的であろうと準静的でなかろうとエントロピー変化は同じなのです。 どこが違うのでしょう。 温度の異なる2つの物体を接触させたとします。この2つの物体はこの2つ以外の外部からは孤立しているとします。温度の高い方から低いほうに熱が移動してある温度で平衡が実現します。この時のエントロピー変化は同じ状態に行くための準静的な変化を考えれば知ることができます。移って行った先の状態ではエントロピーが大きくなっているというのがエントロピー増大の法則と言われているものです。 準静的な変化ではどの方向にでも移ることができますが、不可逆変化ではエントロピーの増加する方向にしか移ることができないという事です。 エントロピーが平衡状態を記述する量であるにも関わらず、起こった変化が可逆変化であるか不可逆変化であるかの判定に使う事ができるというのはこの部分によってです。 準静的な変化である状態に移ることができたとします。その時、熱量△Qが系に入ったとします。エントロピーの変化は△Q/Tです。同じ状態に不可逆な変化で移ったとします。その時の熱量qは△Qよりも小さいです。T△S>qです。qが実際に移動した熱量、△Qはその変化を準静的な過程で実現した時に必要とする熱量になります。実際に移動した熱量が第一法則の対象になりますからq=△U-p△Vです。T△S>△U-P△Vが出てきます。2種類の熱が出てきます。△S=△Q/Tと書くことができるのは準静的過程に伴って起こる熱の移動に対してだけです。 平衡状態でしかエントロピーは定義されていません。 「平衡状態ではエントロピーが最大になっている」という表現は誤りです。 非平衡状態の熱力学の解釈が紛れ込んでいます。 「エントロピーが生まれる」とか「エントロピーの流れ」という表現も「非平衡状態での熱力学」の立場での解釈です。 統計熱力学で出てくるボルツマンの S=klogW はWが最大になった時の値が熱力学関数であるエントロピーSになるという意味でした。 平衡状態でしかエントロピーが定義されていないのですからWが最大の時しかこの式は意味を持ちません。でもこれを最大値でない時のWに対してもSが決まると読んでいる人もいるようです。そう解釈すると「平衡状態ではエントロピー最大」という解釈が出てきます。 でも「非平衡状態でのエントロピーが、最大値でない時のWによって定義される」というのは認められていることなんでしょうか。 少なくとも「平衡状態の熱力学」の範囲外の事です。 熱力学を分かりにくくしている理由の一つが「平衡状態の熱力学」の中に「非平衡状態の熱力学」の解釈や表現が混ざってきていることです。普通の学生はこれで沈没します。式だけが使えたらいいという立場に開き直ってしまいます。 その方面の専門家を目指している学生であってもどこまでが「平衡状態の熱力学」であり、どこからが「非平衡状態の熱力学」の解釈であるかということが分からなければ先に進むことができないのではないでしょうか。 よく出てくる熱伝導でのエントロピー変化を表す式 △S=Q(1/T2-1/T1) (T1>T2)も非平衡状態の熱力学の立場が紛れ込んでいる例です。 平衡状態の熱力学である限り、熱が移動した結果の状態が平衡状態になっていなければいけません。 でもこの式は熱が定常的に移動する場合に当てはめようとして使われています。 物理化学の教科書の中には、平衡状態も想定されていない、定常状態でもないという場面でこの式を使ってエントロピー変化を出さそうとしている問題がよくあります。式だけが一人歩きをしています。