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国家の経済発展は,どうして悪いことまで先進国のあとを辿るのでしょうか?
未熟な質問です。 経済発展について後発効果というのを聞きました。 しかし,携帯電話などの普及はともかく,やっぱり北京ではわが国の数十年前と同じように光化学スモッグや高大が発生していると聞きます。どうして,国家の発展は,工業化→脱工業化というようなプロセスを辿るのでしょうか。もっと先進工業国に学ぶことはできないのでしょうか。そのあたりを少し勉強したいのですが,参考になる書物等をご教示ください。
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近年の世界環境問題に関する報告書(UNEPやIPCCなどの刊行物)には 以前のように経済成長に否定的ではなく両立可能とするものもたくさんありますが、 経済成長に否定的なことを書く人もいます。 環境経済学のテキスト等を読めば厳密なことを書いているでしょう。 ただ、発展途上国といっても、中国は資源多消費型の経済発展といわれますが、 中国、東南アジア、インド、アフリカ、中南米の間でも色々と状況が異なります。 何でも中国を基準に一括りにすると誤解を与えるのではないかという気もします。 北京に関してだけいえば、盆地にある1000万人都市で汚染物質が集まりやすく、 砂漠に近く黄砂が降り注ぐため、中国の中でも特に大気汚染が厳しい場所です。 むしろ首都機能も移転した方がいいじゃないかという人までいるくらい。 途上国には盆地や高原、内陸にある巨大都市の深刻な大気汚染問題が数多くあります。 メキシコのメキシコシティ、ブラジルのサンパウロ、 インドのニューデリー/バンガロール、中国の重慶・成都などもその例です。 日本では内陸巨大都市の汚染はあまり経験のない話ですし、 多くの先進国が発展してきた時は今の途上国ほど都市の人口が多くはありませんでした。 そういう意味で、全く同じ線を追いかけているとは言えない面もあります。 北京の主要な大気汚染物質はPM10(浮遊微粒子状物質)ですが、 一応、この濃度は、あまり工業が発展していない発展途上国でも高かったりします(1)。 しかし、所得水準と大気汚染の間には興味深い関係があります。 大気汚染は、所得水準の向上に伴って一時的に悪化するが、 その後所得水準が一定以上に向上すると改善されるという傾向が言われており、 この関係は環境のクズネッツ曲線という仮説で知られます(2)。 石炭発電などから放出される二酸化硫黄濃度はこの関係がよく当てはまるといわれます(3)。 工業化前の途上国は、固体燃料(薪・練炭等)による室内汚染という別の公害が激しかったり、 感染症の被害が激しく、衛生インフラの整備が悪かったりして平均寿命が短いです。 トータルで見ると工業化が進んだ方が健康のレベルが上がるため、 所得水準に先立って環境汚染を優先する意識が高まらないともいわれます。 日本でも高度成長末期には「くたばれGNP」といって 経済成長一辺倒を批判する風潮が広がりましたが、 1940年代後半では栄養不足が激しく、こうした言葉を発する余裕がありませんでした。 電気は通らず水道も使えない、中世のような生活水準と言われる国で、 環境汚染問題は存在しないのかというと、大きい問題が存在することはよくあります。 日本で高度成長期より前の環境汚染という文献はあまり耳にしませんが、 実際には存在していたが関心の対象になっていなかったという可能性もあります。 ある程度以上に所得水準が上がると、市民の環境意識は高まり、 脱硫装置のような環境技術も導入され、規制が徹底するようになります。 一方、1人当りの二酸化炭素の排出量のように、今でも中国や他の途上国よりも 先進国の方がパフォーマンスの悪い環境問題もあります。 こういった問題では、学ぶべき規範もまだ十分には確立できていません。 したがって、経済発展と環境衛生問題の関係は、三通りに分けて捉えられます。 (a)経済発展が進むほど良くなる(衛生・感染症・平均寿命・室内汚染) (b)経済発展がある程度まで進むと悪くなり、その後よくなる(大気汚染(SO2など)、おそらく河川汚染) (c)経済発展が進むほど悪くなる(CO2排出量、資源消費量) bの解決に要するコストは実際には経済成長を脅かすほど大きいものではないため、 今後中国は所得の改善と共に環境汚染対策を加速させていくことが要望されます。 cは最も解決が難しい問題ですが、これをbの形状に転化させるのが今後の課題とされます。 それ以外では、中国の環境汚染を民主主義の不在と結びつける人もいます。 この場合も、生活水準の向上が民主化に結び付けば、汚染は緩和するようになります。 所得水準向上のためと並行する面もありますが、 韓国でソウルオリンピック後の民主化の時期にSO2やPM10の濃度が大きく減少し(4)、 台湾でも同じ1980~90年代に大気汚染問題が改善された点は注目できます。 技術の拡散という問題もあります。 環境対策の技術が先進国と同水準に広がっている位なら、 他の技術も広がって所得水準ももっと向上しているでしょうが、 環境やエネルギーの技術も途上国では時代が遅れています。 途上国を途上国たらしめている原因の1つは先進国の技術や知識が拡散しないことであり、 企業の方もなかなか技術や知識を蓄積しようとしません。 先進国の側でも最先端の技術が拡散するのは嫌がる面があったり、 途上国では特許料が高くて払えないということもあります。 また、ガバナンスの実効性という問題もあります。 多くの途上国ではガバナンスが形骸化し、腐敗が蔓延しているため、 規制を打ち出しても実際に末端で機能しないことがよくあります。 ガバナンスの実効性は強い関係で経済発展の進んだ国と結びついており、 豊かになったらもっと末端まで機能するようになるのかもしれませんが。 (1)NationMaster 大気汚染物質PM10、国別濃度と地図 http://www.nationmaster.com/red/graph/env_pm1_cou_lev_mic_per_cub_met-level-micrograms-per-cubic-meter&b_map=1 (2)クズネッツ曲線は、元々、所得格差は、経済発展に伴って一時的に悪化するが、 ある程度の所得水準にまで達すると次第に減少に転じるという仮説。 環境版のクズネッツ曲線は、世界銀行の"World Development Report 1992 - Development and the Environment"で広がった。 http://www-wds.worldbank.org/external/default/main?pagePK=64193027&piPK=64187937&theSitePK=523679&menuPK=64187510&searchMenuPK=64187283&siteName=WDS&entityID=000178830_9810191106175 これらの理論を唱えた学者は、あくまで経験則としてとらえたもので、 環境規制の必要性や環境運動の努力を否定したわけではなかったが、 後に環境運動に対抗する立場の人物から、 経済発展が勝手に環境問題を解決するだろうと至極単純化した形に変えられ、 政治的に賛否の分かれる問題になった。 (3)NationMaster 大気汚染物質SO2、国別都市部濃度と地図 http://www.nationmaster.com/red/graph/env_urb_so2_con-environment-urban-so2-concentration&b_map=1 及び NationMasterランキング 大気汚染物質SO2濃度と人間開発指数(HDI)の逆相関図 http://www.nationmaster.com/plot/env_urb_so2_con/eco_hum_dev_ind/flag を参照。なお人間開発指数は、所得・平均寿命・識字・就学水準で発展の度合いを表す指数。 (4)東京、ソウル、北京、上海の大気汚染物質濃度を対比したグラフは、 Institute for Global Environmental Strategies, Asia-Pacific Network for Global Change Researchのプロジェクトより、 4.1 Comparative Study of Beijing, Seoul, Tokyo and Shanghaiを参照。 http://www.iges.or.jp/en/ue/activity/mega-city/article/htm/far41.htm http://www.iges.or.jp/en/ue/activity/mega-city/article/pdf/far41.pdf
お礼
詳しいご説明をありがとうございました。 結局は,先進国の側の問題なのでしょうか。 それにしてもすっきりしないのは,人間はみんなでもっと知恵を出し合って幸せになれないのでしょうか。前車の轍を通らなければならない人間の業のようなものを感じてしまいます。 そして,そうすれば「あやまち」を繰り返さない未来がくるのでしょうか。