私人逮捕権に「連行権」は含まれるのでしょうか?
私人逮捕権に「連行権」は含まれるのでしょうか?
原則として現行犯は誰にでも逮捕できます。
現行犯を逮捕した場合、警察へ通報するのは当然ですが、
その身柄を自身で管轄の警察署へ連行しても、
法律上問題はないのでしょうか?
民間警備会社や小売店、鉄道事業者の関係者などは、
被疑者を傷つけたり過度に拘束をしたりしないよう、
実際上はかなり気を配っているようです。
(司法警察権を有していた旧国鉄職員を除く。)
逮捕監禁や監禁致傷事件などにならないようにするため、
どこの会社も神経質になっていると思われます。
私人逮捕権に被疑者の「連行権」が含まれるのか否か、
裁判所も学者も明確な見解を示していません。
これは一体なぜなのでしょうか?
何らかの事情であえて判断を見送っているのでしょうか?
現状では私人が現行犯人を逮捕した場合においても、
自身の手によってその身柄を警察署へ連行することは、
法的リスクが大きいと考えたほうがよいのでしょうか?
【問題の所在】
1.現行日本法において,私人による現行犯逮捕権については,
以下の規定が存在する。
(1)現行犯人は,これを何人でも逮捕できる(刑事訴訟法213条)。
(2)しかし,私人すなわち司法警察員ではない者が,
現行犯人を逮捕した場合,当該被疑者の身柄を,
「直ちに」司法警察員へ引き渡さなければならない(同214条)。
(3)よって,理由なくして司法警察員への引き渡しが遅れると,
被疑者を逮捕した私人が逮捕監禁罪に問われる(刑法220条)。
2.そこで,刑事訴訟法214条に規定される「直ちに」の文言が,
具体的にいかなる義務を,逮捕した私人に課しているのか,
明文の規定を欠くため問題となる。
(1)この点,かかる文言は,逮捕の意味を広義に捉えると,
私人が現行犯逮捕を行った場合につき,被疑者の連行権,
すなわち,被疑者の身体を縛って警察暑などへ連行することを,
被疑者を逮捕した私人に認めたものと解される。
(2)一方,逮捕の意味を狭義ないし限定的に捉えると,
被疑者を逮捕現場から動かすことなしに,
司法警察員が現場に到着するのを待つことを,
逮捕を行った私人に要求したものと解される。
(3)判例・通説は,私人逮捕にかかる連行権の有無に関して,
明確な見解を示していない。
司法警察員ではない者が現行犯逮捕した被疑者の身柄につき,
いかなる程度まで,当該私人による制御権が及ぶとされるのか,
裁判所や学説が具体的に明示した事例は存しない。
3.もっとも,私人に被疑者の連行権が認められないとすれば,
私人逮捕権は逮捕権として実効性に乏しいものと言える。
さらに,日本国内においては,私人が現行犯人を逮捕しても,
管轄の警察暑名義による逮捕として報道発表がなされる。
この点,私人逮捕権が事実上形骸化する恐れはないのか,
懸念されるところである。
以 上