●放射能というのは「放射線を出す能力」という意味です。だから、ゴジラが「放射能」を吐くのはちょっと変ですね。
●放射性同位元素
原子の中心にある原子核は、沢山の陽子と中性子がだんごになっています。「幾つ陽子があるか」でその原子が何という元素の原子なのか、が決まります。たとえば酸素なら8個の陽子。ヘリウムなら2個です。しかし、同じ元素でも中性子の数にはバリエーションがあり、それらを同位元素(isotope)と言います。どの同位元素であっても、化学的な性質は(ほとんど完全に)同じです。
同位元素の中には、いつまでも安定していられなくて、特に原因もなくぽこ、と壊れるやつがあります。壊れるときに放射線を出すので、これを放射性同位元素(radio isotope, RI)という。
これらの原子核が自然に壊れる時に出る放射線はアルファ線、ベータ線、ガンマ線です。(壊れたかけらもまた放射能を持っていることがあります。)
・アルファ線は、陽子2個と中性子2個がくっついたもの(つまりヘリウムの原子核と同じ)が飛んできます。これは紙一枚でも止まる。プラスの電荷を持っているので磁石や電場で曲がります。
・ベータ線は電子が飛んできます。放射性同位元素の種類によっては陽電子(電子の反粒子でプラスの電荷を持っている)の場合もあります。磁石や電場で曲がります。
なお、ベータ線が出るとき、一緒にニュートリノという粒子も飛び出しますが、こいつはめちゃくちゃ透過力が高い。地球など、軽々と透過できます。だったらすごくやばいのかというとその逆で、周囲の物質にほとんど何の影響も与えず、また影響を受けない。だからこそ透過力が高いんです。まったく安全。
・ガンマ線は、非常に波長が短い(エネルギーが高い)光です。X線とガンマ線は発生源が違うだけで、ものは同じです。
・X線は電子を高速で物にぶつけたときに電子が急停止する際に発生する光で、ぶつける電子の速度によってエネルギーが違いますが、医療用に用いるのは40~150keVというエネルギーを持つX線です。エネルギーが大きいほど物を透過する力が強く、1000keV (=1MeV)ぐらいになると、人体も水も変わらない。医療では骨や組織が写真に写って欲しいので適当な透過力のX線を使っています。X線はX線管という真空管を使って発生させます。またテレビのブラウン管も電子をスクリーンにぶつけて光らせるんですが、このときに弱いX線を出しています。
・シンクロトロン放射光というのを最近耳にします。電子を高速で飛ばしておいて、強い磁場で急に軌道をまげると発生する光です。本質的にはX線と同じですが、非常に沢山の光が出てくるようにできるので、特殊な光源として最先端の科学技術研究に使われています。
●自然放射能
地面や壁土、あるいは人体、あらゆる所に微量ながら天然の放射性同位元素が含まれていて、放射線を出しています。原発の周囲で放射線が少し多い、などと言っても、インドなどでは自然放射能が日本の100倍も強い所があり、これに比べれば問題になりません。さらに、宇宙から飛んでくる放射線(宇宙線)もあります。
●核分裂生成物
原子炉で起こる連鎖反応では、中性子線、陽子線、重粒子線などが発生しています。
・中性子線は中性子が飛んでくる。これがウランやプルトニウムの原子核にぶつかると、核分裂を起こし、このときまたいくつかの中性子が飛び出す。これが別のウランやプルトニウムに...と続くから連鎖反応と言うんですね。(原爆も同じ事が非常に急激に起こっているんです。)
・陽子線は陽子が飛んでくる。プラスの電荷を持っているので磁石や電場で曲がります。
・重粒子線というのは、原子核が分裂したときに出来たかけらが飛んでくるんです。プラスの電荷を持っているので磁石や電場で曲がります。
これらの線が物にぶつかると、ぶつかられた原子核が放射性同位元素になってしまうことがあります。これを放射化と言います。
●核融合生成物
あるていどの規模の核融合反応は、地上では、水爆(水素爆弾)という形でしか実現していません。水素の同位元素である重水素、三重水素などの原子核がくっつくことによって、ヘリウムの原子核に変わるという現象です。(水爆は原爆の周囲をこれらの原子で囲んだものにすぎません。)従ってヘリウムの原子核が飛び出します。また余った中性子、陽子が飛び出します。
●人体への影響
一般の人が一生に浴びる放射線のうちの多くは医療による放射線です。
放射線の影響は、主に、活性酸素、つまり酸素イオンを作り出し、これがDNAを壊す、というメカニズムが重要です。少々の壊れ方なら、DNAを自動修復したり、単にその細胞1個が死ぬだけで済みます。しかし、多量の放射線を一度に浴びると、多くの細胞が死んだり、癌が発生したりします。また生殖細胞のDNAが傷つくと、不妊化したり、子孫に突然変異が現れることがあります。どのぐらいの量だとやばいのか、については、人体実験をしないと分からない、ということもあって、あんまり精密なことが分かっていないんです。それで、暫定的に安全サイドで決めた計算方法(科学的合理性はちょっと怪しい。厳しすぎる。)があって、これを使って管理しています。
また、放射性物質(放射能を持つ物質)を食べたり呼吸すると、体の中から放射線が出るわけで、これは危険ですね。特にヨードの放射性同位元素は甲状腺という喉にある組織に集まって、癌をつくります。これを防ぐには、まともなヨードを大急ぎで摂取して、甲状腺にそれ以上ヨードが入らないようにして排泄してしまうんです。
●医療と放射線
ベータ線は皮膚にできた癌の治療に使われることがあります。皮膚の下には透過できないんですね。
中性子線、陽子線、重粒子線、X線やシンクロトロン放射光、ガンマ線は人体深部の癌の放射線治療に使われることもあります。多量の放射性同位元素を体内に入れてガンマ線による放射線治療を行うこともあります。
また、人体に微量の放射性同位元素を含む薬を注射して、体内から出てくるガンマ線を測って画像を作る「核医学診断装置」(SPECT, PET)や、X線をつかったおなじみのレントゲン、X線で人体の断面像を撮影するX線CTなどは、医療には欠かせない手段です。
●産業と放射線
結晶の構造を調べたり、材料の傷を調べたり、機械の内部を調べたり、という検査・研究に放射線は欠かせません。また、プラスチックを硬化させるのに放射線を使ったり、農産物の殺菌や芋の発芽防止にも利用します(X線やガンマ線を使います。何の危険もありません)。
種子に放射線を当ててわざといろいろな突然変異を発生させ、その中で都合の良い性質を持つ物を選択する、という品種改良法があります。(遺伝子操作ばかりが取り沙汰されていますが、こうやって作った突然変異品種でも危険性は同じ事です。でも問題にされていない。物を知らないのは恐ろしいですね。)
補足
こんなにたくさん、詳しく説明していただいて本当にありがとうございます。 僕の今までの所の理解だと、放射線は、電磁波や電子などが高いエネルギーを持って放射されたもので、それが人体に当たると、遺伝子などを破壊するので体に悪いということなんですが、間違いないでしょうか? そして、チェルノブイリの原発事故や核実験などで問題なのは、放射能を帯びた物質(どういうものなのかはよくわからないのですが)があたり一面に散布されたために、それらがその後も放射線を放射しつづけるために、また、放射能を帯びた植物を食べたり、それらを食べた動物を食べたりしていくと放射性物質がどんどん濃縮されて体に溜まり危険であるとのことですよね?間違いがあったら教えてください。 とすると、そのような事故や実験があった場所から、放射性物質が消えてなくなることというのはあるのでしょうか?放射性物質が完全に放射線を出し終えればそれでおしまいのような気もするのですが、いっぺんには全部出ないんですか? また、以前本で読んだのですが、アメリカで最初に原発実験をやった時に、それに関わった人たちが数キロ離れた所から観察していたようなことが書かれていたのですが、その人たちはやっぱりそれなりの影響を受けたのでしょうか?推測でかまわないので、もしわかれば教えてください。