六つの戦争時の音楽が社会情勢にどういう影響をあたえたか、というテーマは大きすぎて全てに回答することはできませんが、まずは、当時の音楽がどういう環境下で演奏されていたか、ということを考えると、まず教会のミサ、世俗では歌劇さらには吟遊楽人、そして軍隊での鼓笛隊だったでしょうか。
そうすると、もし時間の余裕があるなら、書籍から得る知識だけでなく当時の音楽を演奏するCDを探してそれを知ることから始めてはいかがでしょう。
以前でしたら、たとえば『耳による音楽史』(全10巻・20枚組)というレコード全集があって「アルス・ノヴァとルネサンスの音楽」あるいは「ヒューマニズムの時代の音楽」では当時の多声楽・マドリガード・シャンソンなどを聴くことができました。こういう音楽のなかには戦争に関する歌や演奏が結構あって、当時の世相を垣間見ることができます。
宗教戦争の場合には、そのバックに必ず教会の影響があるわけで、当然ミサ曲には「神の加護があるから勇ましく戦え」的なものがあったでしょう。あるいは、吟遊詩人の音楽には戦争時代であっても愛や恋を歌うことでそれがささやかな厭戦(反戦)のメッセージとなっていたかもしれません。それも『中世・ルネサンスの音楽』(全27巻)というレコード全集のなかの「百年戦争時代」(第10巻)とか「ドイツルネサンスのざれ歌」(第26巻)などに伺えます。
軍隊の音楽については、16世紀までは鼓笛隊の演奏が主流だったようで、ラッパ、パイプ、縦笛、横笛そして各種の太鼓が使われていますが、その片鱗は『決定保存盤・ドイツ名行進曲集』(全2巻)というレコードに聴くことができます。これらの効果は軍隊の士気を上げ、秩序を維持し、つらい行軍をリズムを刻むことで癒す効果がありました。
三十年戦争時代を例にとると、ドイツ、デンマーク、フィンランド、スウェーデン、フランスが絡んだ戦争でしたから後年功績を讃えて作曲された「フィンランド騎兵隊行進曲」(スウェーデン王についた騎兵隊が皇帝軍を打ち破ったのを記念)や「パッペンハイム軍ファンファーレ」(パッペンハイム伯は皇帝軍側の騎兵隊長でスウェーデン軍を総攻撃した)という行進曲が作られています。どちらも戦勝を讃えて演奏することで更に士気を鼓舞する目的があったでしょう。ただ長い戦争のため、音楽だけを聴くとどちら側が勝ったのか判断できません。
いずれにせよ重ねて言うと、徹底的に調べるなら歴史に並行して音楽史も実際に耳で聴きながら学ぶことをお勧めします。