2008年の秋、米国第3位の証券会社リーマンブラザーズが倒産し、世界中に金融不安を与えその影響が日本にまで及びました。日本の大企業は次々と非正規社員を解雇し、住むところを失った人々が東京の日比谷公園に集まり日比谷村の住民と呼ばれながらさびしい年の暮を過ごしました。私は、これを見て、当時哲学を研究していたのですが、これを止めて、人間の尊厳と労働という本を書くことにしました。それは2010年に出版されました。この中で、私は人間の尊厳についていろいろと考えました。次に、私の考えたことを説明し、理解していただきたいと思います。
まず、人間の尊厳という意味ですが、これは人間の持っている尊厳という意味だと思います。「これは私の本です」というとき、私がこの本を持っているということになります。同様に、人間の尊厳というとき、人間が尊厳を持っているということになるでしょう。そうすると人間は一つの価値を持っているということになります。したがいまして、この価値の内容を明らかにすることによって尊厳の意味を理解することが出来ると思います。
ところで、尊厳という言葉の起源は日本でもなく、東洋でもなく、ヨーロッパのようです。今から数百年昔のヨーロッパ中世ではキリスト教が最盛期をむかえ、神は人々から尊敬を受け尊厳を持っておられるが、神は人間をご自分に似せて作られたため、人間も神に似て尊厳を有すると考えられてきました。、
つぎに、尊厳の意味について述べたいと思います。
英語で尊厳はdignityという言葉ですが、フランス語も、イタリア語も、スペイン語も、ほぼ似たような言葉で、いずれも、これらの語源はすべてラテン語のdignitasに遡ります。しかし、このラテン語も尊厳の意味を十分に伝えていません。。
ところで、詳しいラテン語の辞書でdignitasをしらべていると、ギリシャ語のデコマイ(δεχομαι)を参照するよう書かれていましたので、ギリシャ語の辞書を調べたところ、そこに答えが書かれていました。
それは「喜んで受け取る」ということです。ある人の、あるいは、人々の、尊敬、敬愛、好意、賞賛などを喜んで受け取るということで、ある辞書によると、デコマイは名誉のある(honarable)という意味であるという説明のついたのもありました。
、従いまして、尊厳という言葉の奥には、まず、名誉があるということになると思います。しかし、尊厳は単なる名誉ではなく名誉の上に恭しさとか、荘厳とか、畏れ多いなど、特別の尊敬のための感情、精神状態あるいは環境が加わっているのではないかと考えられます。
派遣労働者と正規社員とでは、同じ仕事をしていても、給料も、待遇も、将来の保証も異なり、このような差別は、派遣労働者の名誉を傷つけ人間の尊厳に反するということが出来るでしょう。
尊厳死という言葉もありますがこれは死をめぐる難しい問題であるため別の機会に考えてみたいと思います。
人間の尊厳について以上のように考えてみました。