英語の「長母音」「短母音」とはそもそも何でしょう?
日本で英語の発音の話になると、「長母音」「短母音」という言葉が使われますが、
言うまでもなく、少なくとも米英語では、日本語と違って、母音の長短も区別がありません。(音韻上の弁別機能を持たない。)
Akahane-Yamada et al. (2001)は、一般米英語の母音を音声的な長さ別に、長、中、短、の3段階に分けてます。
短 --- /I, e, 逆さv, U/
中 --- /i:, u:/
長 --- /ei, ae:, a:, 逆c:, ou/
ところが、日本の英和辞典では、例えばbeatは/bi:t/、batは/baet/という具合に、音声的にはより短いはずの/i:/に、長音記号:をつけ、より長いはずの/ae/に、:をつけません。事実、辞書の発音の説明の欄にも、「aeは長めに発音される」とわざわざ書いてあるにも関わらずです。
cot、caughtも、発音を区別する地域なら、前者は/a/、後者は/逆c:/、音声的に同じ長さのはずの後者にだけ:があります。(辞書によっては前者も:がある。)
つまりこれは、日本の辞書の:の有無が、「音声的な長さを基準にしてない」と言うことでいいのですよね?
そこでもっと音韻的に考えると、Durand (2005)が、各母音のモーラ数の話をしています。
I, e, ae, U, 逆さv,(方言によってはaも)は1モーラ母音、他は2モーラ。その理由は、「1モーラ母音はコーダを必要とし、語末に来れない。2モーラ母音は、語末に来れる。」
例えば“pit”, “put”, “putt”等は全てコーダがあり、[*pI] [*pU] [*p逆v]というような発音は英語として有り得ない。
つまり、日本の英和辞典の:の有無の基準は、音声的な長さでは決してなく、もっと抽象的な概念で、
★「1モーラ母音を短母音、2モーラ母音を長母音」
という基準で:の有無を決めているのでしょうか?
又、英和辞典とは別に、もっと一般的に「長母音」「短母音」と言う場合は、
★ 英語本来の音声とも音韻とも全く関係なく、「カタカナ英語で伸ばす音を長母音、のばさない音を短母音」
という使い方も便宜上しませんか?
beatやcaughtは、カタカナ発音で「ビート」「コート」と伸ばすから長母音。
batやcotは、カタカナ発音で「バット」「コット」と伸ばさないから短母音。
実際の音声では、beatの方がbatやcotより短くても前者は長、後者は短、
方言によっては(おそらくほとんどの方言では)caughtもcotも両方2モーラ母音だけど、前者は長、後者は短、
という具合に。
人によっては、借用語やカタカナ発音の干渉が強すぎて、カタカナで伸ばす音を実際の英語でも長い、カタカナで伸ばさない音を実際の英語でも短い、と勘違いしてしまっている人も多いでしょう。
これは英語教育の大きな課題でしょうね。
又、ネイティブが子供の頃に習う場合、音声的な長さと関係なく、
ei, i:, ai, ou, ju: のようなアルファベット読みの母音をLong Vowels
ae, e, I, a, v のようなアルファベット読みじゃない方をShort Vowels
と呼びますが、日本人が言う長母音、短母音は、通常これとは関係ないようですね。