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NMRにおいて外部磁場中での核スピンの取り得る状態
NMRにおいて、外部磁場中での核スピンの取り得る状態についてご教授いただきたいです。 エネルギー的なイメージでは、核スピンはスピン量子数I=1/2の場合、外部磁場に対して、平行方向と反平行方向の2つの状態をとると習いました。 しかし、力学的イメージでは、90°パルスのように、その核スピンが“何°倒れる”という話が出てきます。 核スピンは外部磁場に対して、平行方向と反平行方向の2つの状態しかとらないという話と、それ以外の何°倒れているいる話はどのような関係になっていますか? 詳しいお方、宜しくお願いします。
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> >核スピンは外部磁場に対して、平行方向と反平行方向の2つの状態しかとらないという話は、ウソです。 > →確認させていただきたいのですが、この話はパルスがなく、外部磁場のみの時でも成り立つ話でしょうか? はい。外部磁場のみの時でも成り立ちます。 外部磁場のみの時、外部磁場がz軸の正の向きにかかっているとすると、外部磁場に対して垂直な方向の状態にあるスピンは {|↑>+exp(i(α-2πνt))|↓>}/√2 と表され、xy面内をラーモア周波数 ν で歳差運動しています。化学シフトが同じ原子核は同じ周波数 ν で足並みを揃えて歳差運動をしているわけですが、位相 α が原子核ごとに違うので、#2さんの回答にあるように「xy方向のスピンを足したベクトルは、位相がごちゃごちゃで打ち消し合い、xy平面内では磁化ベクトルは0」になります。 数式がもう少し複雑になりますけど、xy面外の方向を向いているスピンも、同じ周波数 ν で歳差運動することを示すことができます。 > "特定のエネルギーで共鳴が起こる"ということは、 > そのエネルギーが、"スピンを倒すことができる"エネルギーに対応するという考えでよろしいでしょうか? はい。その考えでいいです。 NMRでは hνo のエネルギーを、振動数 νo のラジオ波で試料に与えます。ラジオ波の振動数 νo と、原子核のラーモア周波数 ν が一致しているときに共鳴が起こります。ふつうの紫外可視分光や赤外分光とNMRが大きく違うところは、外部磁場に反平行なスピン|↓>がエネルギーを受け取って瞬時に平行なスピン|↑>に遷移するわけではない、というところです。 振動数 ν のラジオ波を試料に照射すると、(UV-VisやIRに比べると)非常にゆっくりとした速さで|↓>が|↑>に、同じ速さで|↑>が|↓>に移り変わっていきます。ふつうのNMR装置では、|↓>が|↑>になってまた|↓>に戻るまで、数十マイクロ秒くらいになるようにラジオ波の電力を設定してあります。ですので、例えば一巡するのに20μsかかるラジオ波を、試料に 5μs, 10μs, 15μs だけパルス照射するなら、磁化ベクトルをそれぞれ90度、180度、270度だけ最初の状態から傾けることができます。しばしば勘違いされていることなのですけど「パルスは強力な電磁場なので、かけた瞬間にその方向にスピンが整列する」というわけではありませんので、ご注意ください。
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- 101325
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> 倒れるイメージとしては、末端が円を描くイメージでよいですか? はい。矢印の先端が、という意味ですよね。それでいいです。 > それは自転という動きでどのようになっているかイメージすることは難しいですか? 核スピンを表す矢印を、核の“自転”による角運動量ベクトルと考えるといいです。そう考えると、ラジオ波照射によって核スピンを表す矢印が倒れていくのは核の自転軸が倒れていくということ、とイメージできます。 核スピンを核の自転と考えるのを毛嫌いする人が少なからずいるんですけど、“自転”という視点がないと、磁場中のスピンの運動をなぜ歳差運動と呼ぶのか理解しがたいんじゃないかなと思います。 > また、一周するとか、270°ということは、照射によって “|↑>” が ” |↓>” になるだけでなく、照射を続けていると、レーザーのように“|↓>” が ” |↑>” になるということでよろしいでしょうか?? はい。そういうことです。
お礼
ありがとうございます! たいぶイメージできるようになってきました。 感謝致します。
- 101325
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個々のスピンの磁化ベクトルが磁場方向に対して順方向と逆方向のベクトルしか取り得ないなら、その全体においても、個々のスピンのベクトルの足し合わせで、順方向と逆方向のベクトルにしかなり得ません。 ですので、90°パルスのように、その核スピンが“何°倒れる”という話が出てくる、ということは、個々のスピンが外部磁場に対して任意の方向を取り得るということを示しています。 z軸の正の向きに外部磁場がかかっているものとします。外部磁場に対して平行方向の状態にあるスピンを|↑>, 反平行方向の状態にあるスピンを|↓>と表すと、外部磁場に対して垂直な方向の状態にあるスピンは {|↑>+exp(iα)|↓>}/√2 と表すことができます。αはx軸とスピンの間の角度です。たとえばx軸の正方向を向いているスピンは、{|↑>+|↓>}/√2, y軸の正方向を向いているスピンは、{|↑>+i|↓>}/√2 と表されます。数式がもう少し複雑になりますけど、xy面外の方向を向いているスピンも、同じように表すことができます。 > 核スピンは外部磁場に対して、平行方向と反平行方向の2つの状態しかとらないという話と、それ以外の何°倒れているいる話はどのような関係になっていますか? 核スピンは外部磁場に対して、平行方向と反平行方向の2つの状態しかとらないという話は、ウソです。ウソなんですけど、2つの状態しかとらないと考えても、巨視的な磁化ベクトル(サンプルの中にあるモル数程度の多数のスピンの和)の運動を考えることで、NMR現象をかなりな程度まで説明することができます。例えば、磁化ベクトルをある角度傾けるにはどのくらいの強さのラジオ波を何マイクロ秒照射すればよいか、とか、NMR信号がFIDとして観測されるのはなぜか、とか、さらには化学シフトによるスピンエコーの原理なども、巨視的なベクトルモデルでうまく説明できます。 ということで、ウソも方便なんですけど、deptを始めとしたいろんな凝ったNMR測定の原理をまじめに理解しようとするなら、個々のスピンが外部磁場に対して任意の方向を取り得る、というところから話を始める必要があります。とは言うものの、それほど厳密に理解したいわけでもないし忙しくて勉強の時間も取れないから、ルーチン測定するのに困らない程度に理解できればそれでいいや、という人は多いです。そんな人向けの教科書では、巨視的なベクトルモデルと「ここで量子力学的な理由により分極が移動します」という“魔法の呪文”を組み合わせた説明がされていることが多いようです。この魔法の呪文を使うと面倒な話を端折ることができるので、ベクトルモデルとエネルギー準位図で非常に多くのNMR測定法の説明が可能になります。 個々のスピンが外部磁場に対して任意の方向を取り得ることと、その磁場中での運動については、J.J.サクライ「現代の量子力学」の上巻に、丁寧な説明があります。また、スリクター「磁気共鳴の原理」の初めの数章に、もう少しNMR寄りの、個々のスピンと巨視的な磁化ベクトルの関係についての説明があります。
お礼
すごい参考になります。 ありがとうございます。 >核スピンは外部磁場に対して、平行方向と反平行方向の2つの状態しかとらないという話は、ウソです。 →確認させていただきたいのですが、この話はパルスがなく、外部磁場のみの時でも成り立つ話でしょうか? 多分文章からはそう捉えさせていただいたのですが、確認させてください。 また、"特定のエネルギーで共鳴が起こる"ということは、 そのエネルギーが、"スピンを倒すことができる"エネルギーに対応するという考えでよろしいでしょうか?
補足
すごい参考になります。 ありがとうございます。 >核スピンは外部磁場に対して、平行方向と反平行方向の2つの状態しかとらないという話は、ウソです。 →確認させていただきたいのですが、この話はパルスがなく、外部磁場のみの時でも成り立つ話でしょうか? 多分文章からはそう捉えさせていただいたのですが、確認させてください。 また、"特定のエネルギーで共鳴が起こる"ということは、 そのエネルギーが、"スピンを倒すことができる"エネルギーに対応するという考えでよろしいでしょうか?
- phosphole
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私も様々なパルスを当てたときのNMR現象については、質問者さまがおかきのように古典論的な勉強しかしておりませんので、磁化ベクトルの歳差運動と、実際の核スピンの集団運動がどのように関連付けられるべきなのか、ということは理解が及びかねるところです。 質問者さんがお書きのように、90度パルスの場合、力学的イメージでは磁化ベクトル(一個の核スピンではなく、多数のスピン磁化の和をとったサンプル全体の正味の磁化)はxy平面に倒れます。z軸方向の磁化は0になります。この状況は、+1/2と-1/2の二状態しかないスピンの言葉でどう考えるか、ということですが、+1/2と-1/2のスピンがちょうど同数あれば、全体ではz軸方向の磁化は0になりますよね。
- phosphole
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z軸方向に超電導磁石の作る磁場がかかっているものと考えます。 このとき、z軸方向のスピン角運動量は、質問者様が書かれているとおり、並行か反平行かの二通りしかありません。いっぽう、x軸方向とy軸方向のスピンの向きは全く確定されておらず、サンプル全体ではてんでバラバラになっています。その結果、NMRの教科書で見たことあるかもしれませんが、xy方向のスピンを足したベクトルは、位相がごちゃごちゃで打ち消し合い、xy平面内では磁化ベクトルは0になってます。z軸方向の磁化は、外部磁場とスピンの回転比で決まる値に落ち着いています。これが、超電導磁石内での安定な状態。 さて、ここでサンプルにコイルを使ってパルス電磁波をかけます。 パルスは強力な電磁場なので、かけた瞬間にその方向にスピンが整列します。 スピンの動き方を、超電導磁石の磁場と並行なz軸方向と、xy平面とで分けて見てみましょう。 まず、z軸から見て90度パルスということは、z軸方向のスピンベクトルをサンプル全体(モルオーダーの巨視的な量)で足しあわせたときにちょうど0になったということです。 (質問者さんは、孤立した一個のスピンと、サンプルの中にあるモル数程度の多数のスピンの和をごっちゃにされているのではと思います) z軸方向に180度パルスなら、z軸方向から見ると、全てのスピンが熱平衡状態とは逆で、同じ向きを向いた状態になります。 したがって、個々のスピンは並行か反平行かの2つの状態ですが、トータルでは打ち消し合って、z軸方向の磁化ベクトルが0になったのが、パルスで励起された直後の状態です。 ここで、パルスの効果のもう一つとして、もともとは不確定でランダムだったxy平面内のスピンの運動を整列させることができます。その結果として、deptを始めとしたいろんな凝ったNMR測定が可能となります。
お礼
すみません、すごく分かりやすい説明をしていただいていると思うのですが、浅学なもので、まだ混乱してしまっています。個々のスピンの磁化ベクトルが磁場方向に対して順方向と逆方向のベクトルしか取り得ないなら、その全体においても、個々のスピンのベクトルの足し合わせで、順方向と逆方向のベクトルにしかなり得ないのではないでしょうか? やはりおっしゃっていただいているように、強力な電磁場を照射しているから、それにより、その磁場方向にスピンは整列しようとすると考えてよろしいでしょうか? そうだとすると、270°パルスなどがイメージできません。。
補足
すみません、すごく分かりやすい説明をしていただいていると思うのですが、浅学なもので、まだ混乱してしまっています。個々のスピンの磁化ベクトルが磁場方向に対して順方向と逆方向のベクトルしか取り得ないなら、その全体においても、個々のスピンのベクトルの足し合わせで、順方向と逆方向のベクトルにしかなり得ないのではないでしょうか? やはりおっしゃっていただいているように、強力な電磁場を照射しているから、それにより、その磁場方向にスピンは整列しようとすると考えてよろしいでしょうか? そうだとすると、270°パルスなどがイメージできません。。
- doc_somday
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それを混同してはならない、NMRで一般に扱われるのは、1H、13C、19F、31P、あと幾らか、 こいつらがNMRの常連なのは「スピン」が二つの状態しか取れないから。 だから非常に簡単だ。緩和も分かり易いし、数学的に扱いやすい、パソコンで充分過ぎる。 あなたが混乱したもう一方の方はスピンでは無い、磁気運動量だ、重い元素にある系列で角運動量に磁場が付いたもので(専門では無いからこれで許して)角運動量の上限から始まりゼロを含み角運動量に負の値が付く処まである、その数に出て来るのが度数だ。水素型原子でごまかすと、順位が上がると角運動量が入って来る。 これは量子力学の本に書いてあるはずで、書いてない本は棄てなさい。 当然磁場があれば遷移を起こす、だが状態は多い、私にはどの遷移が許容か禁制か説明出来ない。 だが、許容遷移が多いから「何が何だか分らない」し磁場の強度もNMRに用いられるものとは異なる。 面白いかも知れないが、私はそこから何が分るか知らない。
お礼
NMR奥が深いですね。。 ご回答ありがとうございます。 もっと勉強してみようと思います。
お礼
すごい参考になります。 しかし、101325さんの域に達するのには、まだまだ時間と努力が必要そうです。 おっしゃっていただいてことから、とりあえず以下のように考えるようにします。 ・磁場中の核のスピンは、色々な状態を取り得るが、 スピン量子数Iから導かれる状態数をとるというモデルを考えることで色々な現象を説明できる ・スピンのラーモア周波数に対応した電磁波で共鳴し、“|↑>” が ” |↓>” になろうとスピンが倒れる 倒れるイメージとしては、末端が円を描くイメージでよいですか?それは自転という動きでどのようになっているかイメージすることは難しいですか? また、一周するとか、270°ということは、照射によって “|↑>” が ” |↓>” になるだけでなく、照射を続けていると、レーザーのように“|↓>” が ” |↑>” になるということでよろしいでしょうか??