(1) A simple definition, and one we like, has been put forward by the US institute of medicine.
アメリカ医学研究所が、分かりやすい定義を提唱している(が、これには、私も賛成です)。
andには「挿入的」用法があり、前には、カンマではなく、ダッシュが入ることもあります。
この用法は、非制限的関係節の用法と同じです。厳密には、関係節の場合には、「連続的」(あるいは「継続的」)用法と「挿入的」用法の2つがありますが、このうちの後者と用法が同じです。この「挿入的」というのは、英語では、parentheticalと表現されますが、これは、「括弧でくくられた」という意味も持ちます(参考までに、appositiveという用語が用いられることもあります)。つまり、,and one we like,というのは、(and one we like)のことであり、「情報上、主節から独立し、話し手のコメントを表す」機能を荷っています(この点に関連して、制限的関係節の用法を指導する際に、誤って、非制限的関係節の説明をあてる傾向が一部に見られるのは、非常に残念なことです)。その点で、(1)は、(2)と意味が似ているのです。
従って、試訳では、,and one we likeを(...)で表現してあります。
(2) A simple definition, which we like, has been put forward by the US institute of medicine.
辞書の定義を参考にすると、simpleは、easy to understandを、likeは、approve ofを、put forwardは、proposeをそれぞれ意味します。また、weは、筆者が自分の意見に客観性を持たせるために選択した表現であって、Iの代わりに使われています。
先に「似ている」と書いたのは、(1)にoneが現れているからです(言い換えると、,and we like it,とは言っていないのです。これなら、(2)とパラフレーズできます)。実は、and one we likeを非制限的関係節で書き直したときには、(3)のようになります。
(3) A simple definition, which is one we like, has been put forward by the US institute of medicine.
whichは、a simple definitionを受ける「代名詞」ですから、意味的には、the definitionに相当します。すると、which we likeとand one we like(あるいは、which is one we like)との違いは、(4a)と(4b)の違いとして説明することができます。
(4) a. We like the definition.
b. The definition is one we like.
ここで、oneについて復習しておきましょう。
学校英語風に言うと、a(n)+単数名詞は、同一の人や物を指すときには、he/she/itを使い、同種のものを指すときには、oneを使うと指導します。
(5) a. Jim wants to marry an American. [She/*One] is very beautiful.
b. Jim wants to marry an American if he can find [*her/one] for him.
(アステリスク(*)は、非文であることを表します)
これを、言語学的に言うと、he/she/itになるのは、token、つまり、ある集団内に存在する具体的な個を表す場合で、oneになるのは、type、つまり、個の背後にある集団に言及する場合です。従って、(6)は、「この定義は、私が賛成するグループ/タイプの定義である」を意味します。
(6) The definition is one we like.[=(4b)]
(確認しておくと、ここのoneは、a definitionの意味です)
oneを使うことで、これまで、いくつかの定義に検討を加え、これは「賛成」、これは「反対」というように、カテゴリー/タイプ分けをしてきたことを筆者は示したかったのでしょう。おそらく、最後に検討を加える定義の導入として(1)の文が現れたものと推察されます(A definitionから分かるように、読者に対する具体的内容の紹介は、これからです)。
その意味では、and one we likeは、この定義に対して、書き手がどのような態度(attitude)を取っているのか、あらかじめ提示することを通じて、読み手に心の準備をさせているわけです。相手の出方が分かると、こちらの方針の選択は楽になりますね。