大きさの有る物体も、質点の集合体と考えて良いですから、結局のところは、2つの質点の衝突を考えよ、ということになってしまいます。
衝突前に、質点Aは、x軸方向に運動エネルギーK1x,y軸方向にK1yを持っていて,
Bは、K2x,K2yを持っていたとしましょう。
衝突に際して、Aはx軸方向にW1x、y軸方向にW1yの仕事をされ、
BはW2x、W2yの仕事をされたとします。
衝突後のA,Bの運動エネルギーは
A:x軸方向 K1’x=K1x+W1x
y軸方向 K1’y=K1y+W1y
B:x軸方向 K2’x=K2x+W2x
y軸方向 K2’y=K2y+W2y
このように、衝突に際して受ける仕事が、精密にわかっている(x,y成分がはっきりしている)ならば、エネルギー保存則だけでも、問題は解けるということです。
しかし、単に仕事がW1、W2ということしかわからない(成分毎の値が不明瞭)だったら、K1’、K2’は決定できないことも明らかです。
では、運動量の保存則の方が優れているかと言えば、そう断定することもできません。なぜなら、運動量自体がベクトルですから、暗黙のうちに角度情報(成分情報)がその中に含まれているからです。これは、エネルギーで解くときに、受けた仕事が成分毎に正確にわかっていることと同じことを意味しているからです。このように、"すべての情報が与えられているならば"、どちらの解法でもかまわないのです。
ご質問に忠実に答えると上に述べたようになります。しかし、言外に込められている疑問は
"エネルギー保存則だけを使って、衝突問題を解くことはできるのか?"
ということでしょうか。
少し回り道をして回答します。
物体の運動は、さかのぼれば、運動の法則に沿って解くことに帰着します※。
運動量とは、運動方程式を、時間に沿って利用した(時間情報を使う)ときに出てくる概念です。もっと詳しく書くと、力積を考えて解くわけです。
作用反作用の法則が成り立つこと、および衝突している(接触している)時間は、2物体に共通であることを考えると、系全体では力積は0です(これが、運動量保存則の真の意味です)。時間に沿って物体の運動を考える(運動量や力積で考える)と、両者はきわめて対照的な運動をしているので、見通しが良くなり、結果的に解きやすいといえます。
一方、運動方程式を、衝突時にどのくらい変位したかという視点から使うのが、仕事(エネルギー)概念です。衝突の場合、2物体が剛体でないならば、各物体の変位(変形度合いと言っても良いでしょう)は対称的ではありません。バットとボールのように、固い物体の変位は小さいでしょうが、柔らかい物体の変位は大きいのです。その変位量は前もってわかるものではありません。各物体が受ける仕事量は、きわめて分かり難い(測定し難いし、非対称です)のです。つまり仕事に関する情報を精確に得ることは極めて困難なので、一般的な衝突では,仕事(エネルギー)から解く方法は、現実的ではないと言えるでしょう。唯一、完全弾性衝突の場合に限って、エネルギー保存則も成立し、運動量保存則と勘案することで、正確な運動解析ができることになります(この場合でも、変位の方向を前もって知ることは難しいので、エネルギー保存則だけでは解けないことが多いことでしょう)。
※すべての事象を運動方程式に還元して解くことは、とても手間がかかって、繁雑を極めるのがほとんどです。そこで、運動方程式から帰結されているいくつかの事項を、原理・法則のような形で導いておいて、それらを解法に利用しているのが実情です。