まず、運動量はベクトル(方向のある量)で、エネルギーはスカラー(方向のない量)です。運動エネルギーがk1の物体とk2の物体があるとき、両者を合わせた運動エネルギーはk1+k2 ですが、これは単純に数値としての和です。運動量P1と運動量P2の物体があるとき、両者を合わせた運動量はP1+P2ですが、ここでP1+P2は「ベクトルの和」として計算します。
以下、ベクトルは大文字、スカラーは小文字で表示することにします。
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1個の質点(質量m)を考えます。この質点は速度V(速さv = |V|)で運動しているとします。このとき、運動量Pは、
P = mV
運動エネルギー k は
k = (mv^2)/2 = (m V^2)/2
※ V^2 は 内積 V・V = |V|^2 を表わします。以下に出てくるベクトルの2乗も同様です。
したがって、
k = (P^2)/(2m)
つまり、運動量の絶対値が増えるときは運動エネルギーが増えます。運動量の絶対値が一定のとき(方向は変わってもよい)は運動エネルギーも一定です。
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つぎに複数の質点(質量m1,m2,…)を考えます(これを質点系といいます)。これらの速度をV1,V2,…とします。質点系では、重心というものが考えられます。重心とは、各質点の位置ベクトルをR1,R2,…とし、質点系全体の質量を m としたとき(m = m1 + m2 + …)に、
R = (m1 R1 + m2 R2 + …)/ m
で表される位置のことです。上の式を時間で微分すると、重心の速度 V は、
V = (m1 V1 + m2 V2 + …) / m
各質点の運動量を P1, P2, …とすると、 P1 = m1V1, P2 = m2V2 などですから、質点系の運動量の和 P は、
P = P1 + P2 + … = m V
つまり、 質点系の運動量の和 P は、重心に全質量が集まっていると考えた場合の運動量に等しくなります。
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続いて、質点系の運動エネルギーを考えます。
各質点の速度から重心の速度を引いた(ベクトルの減算)ものをV'1, V'2 などと表わします。
V1 = V + V'1, V2 = V + V'2, …
V'1, V'2 などは、各質点の重心に対する相対運動を表わします。
ここで、上の重心の速度の式から、つぎの等式が成り立ちます。
m1 V'1 + m2 V'2 + … = 0
質点系の運動エネルギーの和 k は
k = (1/2){ m1 (V + V'1)^2 + m2 (V + V'2)^2 + …}
すなわち、
k = (1/2) m V^2 + V・(m1 V'1 + m2 V'2 + …) + (1/2)(m1 V'1^2 + m2 V'2^2 + …)
V・(m1 V'1 + m2 V'2 + …) = 0、つまり第2項は0なので
k = (1/2) m V^2 + (1/2)(m1 V'1^2 + m2 V'2^2 + …)
ここで、k0 = (1/2) m V^2 とおき、重心の運動エネルギーと呼ぶことにします。
また、k' = (1/2)(m1 V'1^2 + m2 V'2^2 + …)とおき、相対運動のエネルギーと呼ぶことにします。
k = k0 + k'
つまり、質点系の全運動エネルギーは、重心の運動エネルギーと、重心に対する相対運動のエネルギーの和です。
ご質問で、疑問に思われている点は、このk'が鍵をにぎっています。
ここで、
k0 = (P^2)/(2m)
なので、k0 と P は関係します。つまり、質点系の運動量の絶対値が増加すれば重心の運動エネルギーが増加し、質点系の運動量が一定のときは重心の運動エネルギーも一定です。
ところが、相対運動のエネルギー k' は P と全く無関係であることに注意してください。k'は、Pと無関係に増減させることができます。
ご質問の非弾性衝突の例では、Pは一定(すなわち k0 も一定)だが、k' が減少するので、運度エネルギー k 全体も減少するのです。
お礼
ご回答いただきありがとうございます。 早速読まさせていただきました。 大変体系的にかかれており、分かりやすいご説明ありがとうございます。 しかしなんか、不思議な感じですね。 重心の運動エネルギーは保存されるので、運動量は質点で捉えることができるから、当然、運動量も保存されるが、力学的エネルギーには重心に対する相対運動があり、保存されない・・・・。計算してくださったことは良く分かるのですが、まだ感覚的に良く分からないので、この回答を携帯電話のメールに転送して熟読したいと思います。 鋼球のような完全弾性衝突に近いものでも、あるいは完全非弾性衝突でも熱で失われたエネルギーは違うのに、質点の移動速度は変わらない。計算ではそうなのですが、まだ運動量・エネルギーというものの概念を把握できてないかもしれません。不思議です。 昔、落下速度は重量に比例しないのを理解できなかった人たちのような苦しみなのでしょう、恥ずかしながら。 まずはご返事まで。 本当にありがとうございます。熟読いたします。