全く次元が違うというのが正解なのですが。
「権利」というのは一般的定義をするのは少々難解なのですが、「他人に対して法律上何らかの作為不作為を求めることができる地位」と考えればよいでしょう。
「権原」とは、「ある法律行為または事実行為を行うことを法律上正当化する根拠」のことです。
権利はあくまで法的地位(その人の法律関係における一定の立場とか位置づけとか)を表すものであるのに対して、権原は行為を基準にその行為の正当化根拠であるということになります。ですから、法的な地位があるからこそ一定の行為ができる、つまり、行為の正当化根拠である権原が一定の法的地位である権利であるという場合も当然ありうるので、その場合には、権原の実体がある特定の権利であるということになります。しかし、地位と根拠というのは全く別次元の概念であり、即ち、両者は全く切り口が異なる別次元の概念です。ですから、「権原としての権利」つまり、「法律上一定の行為をする正当化根拠となるべき何らかの法的地位」という表現も可能です。
「譲渡の権利」というのは、法律的に考えれば「譲渡を行うことができる法的地位」ということになりますが、そもそも「譲渡」は相手があることであり、相手に受領義務がない限りは法律的には受領を求める地位はありません。ですから、文脈にもよりますが、無限定には「譲渡の権利」というのは意味不明であると言わざるを得ません(漠然としすぎているということです)。例えば、「所有権を有する者は自己の所有物について譲渡の権利を有する」という文脈で考えるのであれば、「所有権という権利には所有物を処分する権能が含まれるので、他人に対してそれを譲渡と言うかたちで処分することもまたできる」という意味になります。つまり、この場合の「権利」は「権能」というのと同じ意味だということになります。あるいは、「譲渡という権能を有する地位そのもの(この例では所有権の一内容)」という意味で「譲渡の権利」と述べているのかもしれません。
一方、「譲渡の権原」というのは、「譲渡という行為を行うことを正当化する法的根拠」という意味です。ですから、これは所有権という権利かも知れませんし、他人から依頼を受けてその他人の所有物を処分する代理権を授与された者であれば、その代理権(これも一種の権利ですがどちらかと言えば権限と言うべき)が権原かも知れません。いずれにしても「法律上正当に譲渡することができる根拠」は理論的には権利である必要はありません。もっとも、法律上何らの権利がないのに譲渡できるということは通常はありませんから、ほとんどの場合には権原は権利であることになりますが。
ですから、「土地の所有者は、所有権という権利が処分という権能を有するのでその所有権という権利を権原として、その土地を他人に譲渡する契約をする権限を有する」なんて言い方ができます。
ちなみに「権限」であれば、「法律上、ある法律関係を成立または消滅させ得る地位」という意味なので、「譲渡の権限」と言えば、「譲渡という行為を行い得る地位」ということになります。権利と何が違うのかと言えば、「譲渡の権利」は漠然としすぎていて意味不明と言ったとおり、「何らかの実体上の権利の一内容を言い表すに過ぎない」表現であるのに対して、「譲渡の権限」と言うのならこれは明確に「譲渡を行い得る法的な地位」を指しています。ただし、「権限が実体的な権利(特に物権)に基づくもの」であるという意味で「譲渡の権限」と同じ意味で「譲渡の権利」という場合もあるかもしれません。
「貸与」の場合も同じです。「権利」というのは例えば著作権法上の貸与権ならば明確に「貸与を行うことができる法的地位」ですが、家を貸すなんて場合には、所有権の一内容に過ぎないかもしれません。「権原」ならば、「貸与を正当化する根拠」であり、例えば著作物の複製物の貸与ならば著作権法上の貸与権かもしれませんし、あるいは、貸与権を有する著作権者からの許諾かもしれません。「権限」ならば、「貸与を行うことができる地位」であり、それは貸与権の行使としての権限かもしれませんし、あるいは許諾による権限かもしれません。
ですから、「著作物の複製物の所有者であってその複製物について貸与権という権利を有する著作権者の許諾を受けた者は、その許諾を権原としてその著作物を貸与する権限を有する」なんて言い方ができます。
まあ後は、「慣れ」でしょうか。学校教育で教わったことが10年経って腑に落ちるなんてこともありますから、物事を理解するのには一定の時間と経験が必要な場合もあります(日本語なら日本人には誰でも理解できるとか言うお馬鹿もいますが)。理解に熟成が必要な場合もありますから、何となく、でさし当たっておいておくというのも時には必要です。
お礼
オオーッ!! ナントーッ!! 素晴らしい!! 疑問点全て氷解です!! 有り難うございました。