伸びか縮みかどちらかを正にとり,他方を負にとるわけは
単に座標の設定にあります。ですから運動方程式を立てて
それを解くなど,振動の変位や速度,力を表すときに正負で
方向の違いを表現できることになるのですね。たとえば弾性力を
-kxと負号をつけて書くことにより変位x(伸びであろうと縮み
であろうと)の逆方向であることがわかります。
一方,エネルギーだけで事がすむ問題では,正負を気にする
必要はありません。もちろん,上の必要から考慮して持ち込んでも
いいのですが,2乗されて正負の違いがなくなってしまいますね。
力学的エネルギー保存の法則は,運動方程式を座標で積分して
得られるのですが,積分の過程でベクトルの方向という情報が
失われてしまうのです。例えばある瞬間の速さを求めることが
できますが,その方向はでてきませんよね。
もう少し数学的に正確にいうと,ベクトルの内積(例えば仕事
は力と変位の内積。保存力がする仕事を考えると位置エネルギー
の変化分に一致しますね)をとって積分するから方向の情報が
ふっとんでしまうのです。
運動方程式はベクトル方程式(最高3つの式をまとめたもの),
力学的エネルギー保存の法則はスカラー方程式であるといえます。
弾性エネルギーと運動エネルギーが交換する場合の関係を参考に
記します。難しかったら読み捨ててください。
運動方程式 m a = -k x (加速度a=dv/dtがxと逆向き)
dxと内積をとって積分すると,
m ∫dv/dt・dx = -k ∫x・dx (x,dx,dv/dtすべてベクトル)
m ∫v・dv = -k ∫x・dx (v=dx/dtを用いた)
積分を実行して移項すると,力学的エネルギー保存
1/2 mv^2 + 1/2 kx^2 = 一定
が出てきます。中段の「・」は内積なのです。