ついでですので,エ列長音についても少し付記しておきましょう。
「現代仮名遣い」では、「エ列の仮名に「え」を添える。」としていますが、実はこのルールが適用される語は非常に少ないのです。
あげられている「ねえさん」「ええ」の他には、「へえ(そうなんだ)」「めえ(山羊の鳴き声)」「あかんべえ」「げえっ」「ちげえねえ(違いない)」など、俗語っぽいものや擬音などが目立ってきます。
それ以外の圧倒的多数が「エ列の仮名+い」となります。たとえば、けいえい(経営)、へいせい(平成、平静)、ていねい(丁寧)など。
オ列長音の場合は、「う」となるものが圧倒的多数なので、そちらを本則とし、「お」となるものを例外としていましたが、エ列長音の場合は、きわめて少数の事例が本則になっています。そして、「う」と書くものは「例外」にすらなっていません。
どういう意味かというと、オ列長音で「お」となる場合の規定は、「表記の慣習を尊重して」云々の項に書かれているのですが、ウ列長音で「ウ」となる規定は、その項が終わったあとに、「付記」として次のように書かれているのです。
次のような語は,エ列の長音として発音されるか,エイ,ケイなどのように発音されるかにかかわらず,エ列の仮名に「い」を添えて書く。
例 かれい せい(背)
かせいで(稼) まねいて(招) 春めいて
へい(塀) めい(銘) れい(例)
えいが(映画) とけい(時計) ていねい(丁寧)
つまり、「最初からこれらは長音とはみなさない」のです。
これらのうち、「かせいで」などはイ音便だなとわかるのですが、「えいが」以降の例はなぞです。これらは漢字の音読みですが、音読みにおいて「○イ」と「○ウ」はどちらも、中国語音の~ngに対応するもので、いわば同じものです(京→ケイ・キョウ,丁→テイ・チョウなど)。ところが,「○イ」は長音とはみなさず,「○ウ」は長音とみなす。不思議です。
きっとこのへんも国語学上の理由とか,歴史的な事情とかがあるのでしょうが,ちょっとよく分かりません。
長々と失礼しました。
お礼
ずいぶんご無沙汰し申し訳ありません。大変参考になりました。 世論と世論「せろんとよろん」と同じように、結局、世間で使われている読み方が、真理になるのだなあと思いました。