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3価Euにおける電気双極子遷移と磁気双極子遷移の遷移確率について
化学工学(応用化学)専門の博士後期三年です。どうぞよろしくお願いします。 博士論文を書く上で、ホウ酸イットリウムを母体とする3価ユーロピウムが、 1.電気双極子遷移を経て赤色(610nm, 624nm)に、磁気双極子遷移を経て橙色(594nm)にそれぞれ蛍光すること、2.それらの遷移確率は結晶場によること、の2点を書籍(下部a参照)により突き止めました。 しかし、それらの著書では、簡潔に「電子双極子によるf- f遷移はパリティ禁制遷移であるため, 磁気双極子遷移や電気4重極遷移による(中略)遷移のみが許容になる.」云々とあるのみで、詳しい説明がなく、パリティ禁制遷移などについて調べても、この時はこういうものである、と言わんばかりの説明があるのみで、さっぱりでした。 私の解釈を以下に示します。 -------- 磁気双極子:軸ベクトルであるため、パリティは偶。つまり、偶関数。 電気双極子:極ベクトルであるため、パリティは奇。つまり、奇関数。 (各双極子がそれぞれのベクトルであるところの理解は(おそらく)完了しています。) f-f遷移はf軌道内でのみ遷移がおこるため遷移の前後でパリティが変化しない(偶パリティ)(?)であるため、空間反転対称を持つ(偶パリティの)結晶場では、パリティが偶の磁気双極子を用いた遷移でなければ全体が偶とならない。 一方、空間反転対称性を持たない(奇パリティの)結晶場では、パリティが奇の電気双極子を用いた遷移でなければ全体が偶とならない。 全体が偶にならなければ、空間全体を考える(関数でいえば全積分?)上でその関数はゼロになってしまうため、その状態ではその遷移を取りえない。よって、上記のような遷移の結晶場選択性が生まれる。 -------- (?)をつけた部分は、私の理解が特にあやふやであるところです。 また、反応の前後でパリティ変化があったとしても、 結晶場の空間反転対称性は反応の前後で変化しないため、影響がないのでは?とも思います。 私の解釈の不足点や誤解点をご指摘いただけたらと思います。 その際、なるべくシュレーディンガー方程式を使用しない方向でお願いしたく思います(私の専門分野が応用化学であり、教授陣もその方面に明るくないため)。 難しい注文と容易に想像でき、非常に申し訳ないのですが、皆さんのお知恵をお借りしたく存じます。 どうぞ、よろしくお願いいたします。 a.)R.S.Becker 著 『蛍光とりん光』 株式会社東京化学同人 1971年 小林洋志 著 『現代人の物理7 発光の物理』 株式会社朝倉書店 2000年 徳丸克己 編 『立化学ライブラリー10 蛍光現象』 共立出版株式会社 1975年
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結晶場とは、注目するイオンに属する電子に対して、周囲に配位するイオンが及ぼす静電場のことです。 ここでは、Eu3+に属するf電子が、注目する電子ということになります。 (1)まず、配位子の存在を無視した場合を考えます。 f電子に働く場としては中心のEuイオンからの静電場だけですので、反転対称性のある場』ということになります。 したがって、f電子の状態は完全な奇のパリティを持つことになります。 よって、f電子間の光学遷移を考えるならば、電気双極子遷移はパリティが奇だから禁制、磁気双極子遷移や電気4重極子遷移はパリティが隅だから許容、となります。 (2)次に、配位子の存在を考え、さらに反転対称性を持つ場合を考えます。 このとき、Euイオンからの場に付加的な結晶場が加わりますが、どちらも反転対称性を持っているためf電子の状態は相変わらず完全な奇のパリティを持ちます。 よって遷移の禁制・許容は(1)の場合と同じになります。 (3)最後に、反転対称性を持たない配位子の存在を考えます。 このとき、結晶場は奇のパリティを持っているため、f電子に働く場には反転対称性を持たない成分が付け加わります。 この成分により、f電子の状態は(1)や(2)で考えていた完全な奇のパリティを持った状態ではなくなり、偶のパリティの状態も混じりこみます。 (Ψf=Φ(odd)+Φ(even)のようになる) よって、電気双極子遷移の場合でも、 【混じり込んだ偶成分(偶)】【電気双極子(奇)】【元々の奇成分(奇)】 のように、遷移が許容になります。 ここらへんの事情は、裳華房の『配位子場理論とその応用』に書いてあります。
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- kk0902
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No.3です。お役に立てたようで何よりです。 >電気双極子が奇パリティを有するため、ということで宜しいでしょうか はい、電気双極子が奇パリティを有するためです。
お礼
ありがとうございました。 あとはご提示くださった本を熟読してみます。
- eatern27
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すいません、投稿してから気付きましたが、化学ではブラケットはあまり見かけないかもしれませんね。一応、波動関数を用いて書き直しておきます。ついでに、違う切り口で説明しなおします。(こっちの方が分かりやすいかもしれません) フェルミの黄金律より、電気双極子による状態ψ_iから状態ψ_fへの遷移確率は|∫ψ_f^*(x) μ_z ψ_i(x) dV|^2に比例します。(*は複素共役の意味で使っています) ψ_i,ψ_fのパリティが偶だとすると、ψ_i(-x)=ψ_i(x)などとなります。 遷移確率を考えるにはI=∫ψ_f^*(x) μcosθ ψ_i(x) dVを考えればいい事になるのですが、x'=-xで変数変換すると、 I=∫ψ_f^*(-x') μcos(π-θ') ψ_i(-x') dV'=-∫ψ_f^*(x') μcosθ' ψ_i(x') dV'=-I となります。故に、I=0、すなわち、電気双極子による偶パリティから偶パリティへの遷移は禁止されるという事になります。
- eatern27
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結晶場(=配位子場?)理論に関する知識は全くありませんので、他の方にお任せしようと思っていたのですが、回答がないようなので。 話としては、フェルミの黄金律(Fermi's Golden rule)と群論的な知識があれば理解できそうな感じですね。 詳しい話はしない方向という事なので結論だけ書くと、フェルミの黄金律から、電気双極子による遷移の遷移確率は、|<f|E・μ|i>|^2に比例する事が分かります。E:電場,μ:電気双極子です。特に,Eがz軸方向を向いているとすると,|<f|μ_z|i>|^2に比例する事になります。 どのくらいの確率で遷移するかという事を知りたかったら比例定数も含めて計算する必要がありますが、遷移するかしないかだけであれば、<f|μ|i>がゼロかどうかを調べるだけで分かります。 <f|μ|i>がゼロかどうかが真面目に積分を計算しないと分からないのであればどうしようもないのですが、奇関数の積分が0になるのが積分を直接計算せずに分かるように対称性(今の場合パリティ)を考慮する事で、<f|μ|i>がゼロかどうかがだいたい分かります。 μは空間反転によって,μ→μ'=-μと変換します。 |i>→|i'>=|i>,|f>→|f'>=-|f>のように変換する場合を考えます。(つまり,状態|i>,|f>が偶のパリティを持つとします) すると,空間反転でμの行列要素は、<f|μ|i>→<f'|μ'|i'>=-<f|μ|i>のように変換する事になります。 系(特にポテンシャル)が空間反転に関して不変な場合を考えているはずですから、この系を鏡から見ても(空間反転してみても)同じ世界になっていなければいけません:<f|μ|i>=<f'|μ'|i'> この2つを同時に満たすのは,<f|μ|i>=0しかありえないので、今の場合,電気双極子による遷移が禁止される事になります。 ※上に書いた遷移確率は最低次の項をとったものなのですが、実際にはより高次の補正項もあります。電気双極子による遷移が禁止されている場合には,高次の項(四重極遷移など)がきいてくる事になります。 >f-f遷移はf軌道内でのみ遷移がおこるため遷移の前後でパリティが変化しない(偶パリティ)(?)であるため、 f-f遷移の部分で結晶場特有の話があったりしたら眉唾になりますが、普通の原子軌道の場合と同じと思いますと、一般に方位量子数lの原子軌道のパリティは(-1)^lとなっています。 f軌道はl=3だったと思いますので,f軌道のパリティは奇です。f-f遷移はパリティが奇から奇への遷移となっていて,上と同じ議論から電気双極子による遷移が禁止される事になりますね. ※念のため。パリティが偶か奇かというのは、空間反転した時に負符号がつかない(偶)か、つく(奇)かという事で、遷移の話とは関係ありません。 >一方、空間反転対称性を持たない(奇パリティの)結晶場では、パリティが奇の電気双極子を用いた遷移でなければ全体が偶とならない。 結晶場って、電子の状態の事と思っていいんですかね? であれば、ある遷移が起こるかどうか、始状態(遷移前の状態)と、終状態(遷移後の状態)で決まる事で、始状態のパリティが奇だから遷移しないとかそういう話にはなりません。 >全体が偶にならなければ、空間全体を考える(関数でいえば全積分?)上でその関数はゼロになってしまうため、 関数がゼロになるのではなく、というより内積(積分.より正確にはμの行列要素)がゼロになるためです。 行列要素がゼロになる事がパリティを考えれば分かるんですね。 >また、反応の前後でパリティ変化があったとしても、 >結晶場の空間反転対称性は反応の前後で変化しないため、影響がないのでは?とも思います。 何に影響がないと思うのでしょうか?
お礼
迅速かつ丁寧なご回答をありがとうございます。 色々間違いを犯している(遷移にパリティは関係ないなど)ことや、勉強すべき用語を知ることが出来、非常に助かりました。 ある程度理解してから・・・と思い、返信が遅れましたことをお詫びします。 いくつかわからない点がありますので、追加質問させてください。 > <f|E・μ|i> 1.確認ですが、『遷移前状態から,遷移後状態に粒子(ここでは電気双極子)が変化するときの確率の振幅』ということで宜しいでしょうか? >遷移するかしないかだけであれば、<f|μ|i>がゼロかどうかを調べるだけで分かります。 2.ブラケットの定義的に『粒子が変化するとき』とあるので、電場Eについては考慮しなくて良いということでしょうか? 電場は電荷が存在することによって引き起こされる電位の勾配ですし、空間反転によって変化してしまうのではないか(奇パリティ)と思うのですが・・・。 >|i>→|i'>=|i>,|f>→|f'>=-|f>のように変換する場合を考えます。(つまり,状態|i>,|f>が偶のパリティを持つとします) 3.最初の状態を空間反転しても変化なし、最後の状態を空間反転すると符号が変わるという意味かと思いますが、括弧の中がわかりません。 最初の状態も最後の状態も偶のパリティを持つなら、『|f>→|f'>=|f>』ではないのでしょうか? >系(特にポテンシャル)が空間反転に関して不変な場合を考えているはずですから・・・ 4.『>結晶場って、電子の状態の事と思っていいんですかね?』とありますが、 結晶場の影響は、遷移する原子が構成する双極子と、その他の周りを取り囲む原子の持つ電荷の相互作用による影響だと理解しています。 なので、双極子を囲む原子に与える相互作用が空間反転に対して変化しない状態ならば、eatern27さんの仰る状況にあるのかな・・・と思いますが、いかがでしょうか? 逆に考えて、双極子を囲む原子に与える相互作用が空間反転に対して変化する状態では、系は空間反転に対して可変となるのかな、とも思います。 (ポテンシャルに対する知識が乏しいので、甚だ怪しいのですが。) >何に影響がないと思うのでしょうか? 反応の前後で、双極子の周りの相互作用自体は変わらないので、乗算する必要がないのではないかという意味でしたが、前提が違っていたので無視ください。失礼いたしました。
お礼
わかりやすい説明をありがとうございます。 特に(3)の部分は、これだけでもだいぶ感じがつかめたと思います。 詳細は裳華房の『配位子場理論とその応用』を図書館で借りてくることにします。 ひとつだけ質問なのですが、 >電気双極子遷移はパリティが奇だから禁制 こちらは、電気双極子が奇パリティを有するため、ということで宜しいでしょうか?