敵に恋をしたときに、モラルが生まれる。
モルが森で出会った青年は、面長で、色白く、彼を倭人といった。
しかし、倭人はモルの一族の敵であった。倭人はモル達原住民を薙ぎ払い、占領地なる概念で、その土地の者たちを支配、意のままにした。縄張りしか知らぬモルたちにとって、破壊的であった倭人の進出は、なんとしても食い止めなければならない民族の一大事だった。
そんな中で生まれた恋だった。
モルは夜中、倭人の青年にたびたび逢いに行った、恐ろしかったが、種族として仲違いの現実が、二人を一層寂しくさせた。
モルは家族や友人に、睨まれた様な気持ちになった。彼らが、不安な声で遅くまで倭人について語り合う様子を見ると、とてもいたたまれなくなった。違うんだと言いたくなった。でも何も違わない。私の恋人は、私の大切な人たちの敵なのだ。まだ誰も知らないはずだ。なのに、皆の視線をやたらと避けるようになった。だが、「裏切り」と言う不実に真に襲われたのは、倭人のほうであった。
モルとの密会を知った青年の父は、倭人の統領だった。彼は、青年を諭すどころか猛り狂い、モルを殺すように息子である青年に命じたのだ。
自分よりも大事な恋人を殺すなど、できはしない。
倭人の次代の統領である立場、現統領の息子である立場、そして立場に関係なく結実ようとする疑いのない恋。
倭人の生き方と、原住民の生き方は違ったのだ。
しかしある夜、モルは、青年とその父の前に現れた。
モルは悩み苦しんだ末に、青年をたてたのだ。それが、モルの選択した道だった。
そしてその夜、緑のない首長の家の庭で、迷い蛍の火に照らされた歴史は、赤く染められる。
モルを斬ろうとした父を、青年が斬り倒し、モルの恋した青年は、倭人の統領となった。
モルは青年の子を宿し、山を谷を越えて、落ち延びた。青年が逃がしたのだ。
青年は倭人たちを率いてモルの一族を殺戮し、女は奴隷とした。そして、原住民の暮らしていた土地を支配した。
裏切りによって繁栄する、倭人の延長に、暮らしている私たちがモラルを求めるのは、それは、落ち延びたモルのジーンを、求めているのだろう。
失った恋は、何時までも胸に、残るのです。
何代も、何代も、絶えることなく。
お礼
興味深い「物語」有難うございます。 熊襲とか長髄彦とか安曇野大王・・一杯想像しますね。 >敵に恋をしたときに、モラルが生まれる。 含蓄のある言い回しですね。 敵を恋する、非モラル的感覚が、反作用的にモラルを生む、 考えすぎ?たまには、恋でもしてみればすぐ判りますかね(笑。