井戸型ポテンシャルなど、あるポテンシャルに対して定常状態を求めるのは、波束とは別の問題です。
普通、量子波はある瞬間で、任意の波形を取ることが許されます。別に定常状態でなくても、何かまとまった波束でなくても(定義があいまいですが)、かまいません。それがなんらかの法則で時間発展するだけです。
しかし時間発展をするといっても、どう発展するか知りたいわけですよね。
ところで、フーリエの関数やエルミート多項式、球面調和関数などの体系のように、関数は様々な「基底」で表現できます。ちょうど n次元のベクトル空間ないでは、n個の基底ベクトルで任意のベクトルが表現できるように、関数空間をベクトル空間とみれば、(ある種の)∞次元のベクトル空間とみなせます。たとえば、フーリエ関数を基底集合にとれば、ベクトルの基底は一連の sin 、cosの関数になります。(任意の関数はフーリエ級数の和で表せますよね。ちょうど1セットの基底ベクトルで任意のベクトルが表現できるのと同じです。)
また、ベクトルの基底集合は無数の可能性があるように、関数の基底集合の取り方も無数の可能性があります。上に挙げたのはメジャーですが、数学的にはごく特殊な一部でしかないわけです。
さて、時間発展の問題に戻りますが、問題の解をなにかある関数の基底集合で表現するとして(シュレーディンガー方程式は線型なので、解を線型な形でわけることができます)、それぞれの基底関数が簡単な時間発展をするような基底集合を見つけられれば、非常に簡単に時間発展の問題が解けます。
たとえば、井戸型ポテンシャルなら、フーリエ級数を基底集合にとし、ある時刻の波動関数をを Φ(x) とすると、
Φ(x) = Σ A_n(t) e^(i nπx/L) n∈整数
と表現できます。
この中の一つの項を取り出して、シュレーディンガー方程式を使って時間発展を求めてみると、
A_n(0) e^(iωt + inπx/L) 、ω = -h/(2π) /2m (nπ/L)^2
となって、上の項一つ一つが非常に簡単な時間発展をします。逆に、このような簡単な時間発展をする基底関数の集合を見つけ、初期状態をその基底で展開できれば、あとは任意の時間での波動関数はおのおのの基底を時間発展させて足し合わせれば答えがもとまることになります。
もう一度上の例で書き直すと、
Φ(0,x) = Σ A_n f(0,x)
がわかり、任意の時刻での f(t,x)がわかっているとすると、
任意の時刻の波動関数 Φ(t,x) は単純に
Φ(t,x) = Σ A_n f(t,x)
となります。この f(t,x) が定常状態の波動関数で、この関数さえわかれば、時間発展の問題は解けたも同然です。
つまり、問題はどんな関数系ならばこのように簡単になるか、ということになります。
これが固有値問題で、その定式化は
Hφ_n = E_n φ_n
を解くことによってなされます。しかも、この関数系は、互いが直行しているという性質が必ずあります。このE_n、φ_n を演算子 H(この場合はハミルトニアン)の固有値、固有関数といい、固有値問題は理論の中で非常に重要な役割を果たします。
なにか少しそれたところで長くなってしまいましたが、定常状態をもとめるのは、波動関数を表現する道具立て(以上の意味があると思いますが、今の場合はこう考えた方が分かりやすいとおもいますので)で、波束はその基底を使って表現するものなわけです。
ただ、井戸型ポテンシャルなら定常状態でもさほど違和感はない気もするし、そもそも井戸型ポテンシャルが理想的な状態を考えているものなので、波束で扱うべきだとかいうものはないはずです。結局、jimihenn さんのおっしゃるとおり、初期状態を考えて話が始まるものだとおもいます。実際では、たとえばビームのインコヒーレンスを考えたりするような時が当てはまるのでしょうか?
お礼
どうもありがとうございました。わかりました。初期条件が与えられて初めて意味をなすものなんですね。 詳しいお答えありがとうございます。