前便、《「こけし」はこの「子消し」に由来か》に関連して心に残った記憶です。
所用でメキシコを訪れたときのことです。メキシコシティにある日本航空の事務所内のショーウィンドーに、ほとんど子どもと等身大の大きなこけし人形が飾ってありました。事務所での用事を済ませて帰ろうとした途端にスコールがやって来たので、雨宿りを兼ねて所内のあたりを見るでもなく見ていて、その存在に気づいたのでした。
スペイン語で「日本の子ども、特に女の子は、このこけし人形とともに楽しく健やかに育ちます」といった感じの説明がついていました。ひまに任せて、カウンターの向かいに座っているメキシコ人女性に話しかけました。「あの説明、楽しそうだけど、実は悲しい裏面史があるんですよ」。すると、そのメキシコ事務員さんは身を乗り出して、「どんな話? 聞かせて」ときました。
「不名誉なことかも知れないけど、貧しい時代の所産でして…」―「はい?」―「生んでも育てられないときに、命の間引きがあったということのようで…」―「それとコケシと、どういう関係がありますか?」―「こけしの起原は、幼くして命を絶たれた者をなぐさめ、供養するために作られた形見らしいんですよ…。」―「あ、そうだったんですね…。」
雨が上がったので帰ろうと思い、別れの挨拶をすると、彼女が立ち上がり、改めて「どうもありがとう」と礼を言いました。ふとお腹周りに気づくと、妊娠7,8か月くらいの感じでした。私は想像しました。《きっと、生まれてくる自分の子どもに思いを馳せながら聴いていたんだろうなあ》、と。
お礼
ありがとうございます