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アトウッドの装置における糸の運動方程式について
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質問文の絵にあるように糸の張力を追跡したい!、という気持ちは自分も山々なんですが(気持ちはすごぉ~くわかる(^^))けっこう厄介なんですよね。というのは計算技術的に言うと糸の挙動はいわゆるケーブル要素という奴でして、現在では構造の力学的状態を計算するのに計算ソフトを使うのは普通なんですが、このケーブル要素を扱えるソフトにはついぞお目にかかった事がありません(^^;)。 そこでここでは、全体系の運動方程式に注目します。そっちの方が役に立つと思えるので(^^)。 まず糸と滑車の間に摩擦はないという条件があるので、理想化すれば滑車は動きません(軸まわりに回転もしない)。次に糸の質量は0です。という事は糸に作用する力が釣り合っていなければ、糸はもの凄い勢いでぶっ飛んで行きます。よって糸の運動方程式は、静止物体の釣り合い方程式と同じになります。つまり運動する糸の各瞬間を取り出せば、その場に静止する静止物体と同じという事になります。 以上より「糸+滑車」の系の力関係は、添付図の支点Aで支えられた静止物体と同等です(図-1)。糸の張力T1+T2に対して支点では、鉛直抗力Vがそれと釣り合います(滑車の質量も0とします)。「糸+滑車」の系に水平方向の力は働かないので、支点の水平抗力HはH=0です。これで鉛直方向と水平方向の力の釣り合いはOKです。 ところで物体の釣り合い条件にはもう一つありましたよね?。回転力の釣り合いです。今の高校で回転力を、偶力,トルク,力のモーメントのどれで呼んでるかは知りませんが、回転力は[載荷点と支点との距離]×[力]でした。ここで支点Aは回転可能とします。支点Aが回転可能ならシーソーと同じなので、支点から等距離にある糸の張力T1,T2が等しくなければ、図-2に示したように「糸+滑車」の系は全体として傾くはずです(T2>T1)。というか糸も滑車も質量0なら、ぶっ飛ぶくらいの高速回転です。しかし現実にはそんな事は起こりません。従って、T2=T1のはずだと・・・(^^)。 つまりここには、「糸+滑車」の系は全体として回転しないという追加条件が隠れているわけです。これは運動方程式だけ見ていても気づけない条件、もしくは、運動方程式から厳密にたどるには余りにも手のかかる事実です。 現実のアトウッドの機械には摩擦がありますので、糸が始動した瞬間で糸は滑車を引きずり滑車も回転するでしょう。しかし滑車が十分軽ければ滑車はすぐに糸と同じ速度で回りだし、けっきょく摩擦は無視できる状態になります。また滑車の質量が十分小さければその慣性モーメントも小さいので、力関係としては、先に述べた釣り合い状態で近似できる、といったところでしょう。糸の質量は現実にも無視可能と思いますが、滑車が重かったり軸回りの摩擦があれば、本当に図-2のように傾いて釣り合う(?)と思いますよ。 隠れた条件はまだあります。図-1に示したように、糸の両端は同じ加速度(速度)で動くと考えますが、これは糸が伸びも縮みもせず長さが一定という幾何学的拘束条件です。これも運動方程式という運動条件からは導けない追加条件で、これを見抜けないと入試なんかで苦労します。 最後に、糸の断面には糸の接線方向の張力しか働かないのか?という問題もあります。常識的には「そうだよね」・・・(^^)となりますが、糸のように自由に曲げられる物体の断面には、糸に垂直な力が働いても(滑車の抗力)接線方向の力しか働かない事が知られています(理論化されている)。 このように滑車系の問題には運動方程式以外の隠れた前提がけっこうありますので、そこを整理しておこないと思わぬところで足をすくわれますよ(^^;)。
お礼
少し変わった質問だったかもしれないですが、丁寧で分かりやすい説明をありがとうございます。