正書法というのは時代とともに変わってきたものなので、句読法も当然時代によって違います。古い時代のものを当時の版で読む場合は、今とは違う句読法も見られると思います。ただ、日本の明治、大正あたりの文学作品が文庫化されるときに現代仮名遣いに直されるのと同様、ドイツでも20世紀以降に新たに編集されたものは新しい正書法で改訂されていることが多いので、今と全く違う句読法に出会う頻度は必ずしも多くはないと思います。
コンマを打つか打たないかは、あくまでもそこで切れるか切れないかで決まります。「新年おめでとう」の定型句である下の表現では、glücklich という形容詞が、そのあとの neues Jahr 全体を修飾するのでコンマは打ちません。
ein glückliches neues Jahr
glückliches → neues Jahr
幸せな →「新しい年」
しかし、下のような例では、コンマで区切られている形容詞がそれぞれ直接名詞にのみかかります。
eine neue, teure Uhr
新しく、また高価な時計
neue → Uhr + teure → Uhr
「新しい時計」+「高価な時計」
Schließlich, kurz vor Silvester という言い回しの場合も、もし schließlich が直接 kurz vor Silvester 全体にかかるのであればコンマは不要です。その場合は、「最終的には大晦日の少し前に」という意味になります。しかし、この文章中ではそういう意味にはなっていません。その前の方からの流れで読むとわかりますが、ゴーン氏が日産を立て直したと評価された段階(Aufstieg)があり、そのあとに資産の私的流用その他の疑惑による「転落(der tiefe Fall)の段階が来ます。そして「ついには(schließlich)」レバノンへの逃亡という騒動に至った、という展開の順を述べているわけで、kurz vor Silvester は、それが起きた時期をあとから付け加えただけです。もしこの文を一つにまとめるなら、kurz vor Silvester の部分は挿入句ということになります。
Schließlich, kurz vor Silvester, floh er nach Libanon.
= Schließlich floh er kurz vor Silvester nach Libanon.
ですので、この場合のコンマは必要で、20世紀の旧正書法の時代でも同じです。
>次に「:」 のあとに文が続くときは大文字で始めて、「;」のあとは小文字なのかと思って見ていたのですが、このように文ではない羅列の場合、話が別という理解でよいのでしょうか。
コロンのあとが大文字で書き始められるのは、直接話法による会話文がそのあとに続く場合や、引用文、格言などの独立した文が続く場合で、常に大文字というわけではありません。「文ではない」という点は一応あっていて、コロンのあとが単語1語、もしくは数語のグループや副文のみのような場合、最初の語が名詞であればもちろん大文字ですが、それ以外の場合は小文字で書き始めます。ただし、コロンで区切られているのは「羅列」の文ではありません。コロンは、「つまり」「すなわち」のような「言い換え」「詳述」「要約」の意味を含むので、コロンの前に書かれていることを具体的に説明する内容が続きます。
直接話法で独立した会話文を導く(大文字)
Sie fragte: „Kommt er heute?“
独立した文を導く(大文字)
Gebrauchsanweisung: Man nehme alle 2 Stunden eine Tablette.
単語や数語のグループのみを挙げる(小文字)
Er hatte alles verspielt: sein Haus, seine Jacht, seine Pferde.
彼はすべてを賭け事で失った、つまり、自分の家、自分のヨット、自分の馬だ。
ただし、コロンのあとが独立した文のようであっても、コロンの前の文からの連続と見るか見ないかで二様の書き方が可能であるという例が Duden の参考書に出ています。下の文の場合、コロンのあとの alles は、大文字で書き始めることもあれば小文字で書き始めることもあります。
Das Haus, die Wirtschaftsgebaude, die Scheune und die Stallungen: Alles/alles war den Flammen zum Opfer gefallen.
お礼
ありがとうございます。 ここにカンマがある理由がはっきりわかりました。 コロンの使い方も、あとが小文字から始まる例を文ではたぶんほぼ見ていないので、たいへん勉強になりました。英語と概念は似ているけれど実用上の細かい点が違う感じがしました。 出してくださった例文のなかにあった今や見慣れた接続法の命令文、 Gebrauchsanweisung: Man nehme alle 2 Stunden eine Tablette. のalleにびっくりです。2時間かけてのむのか? いや、それならinとかつくだろう、というレベルです。jedenもalleもありなんですね。 ほんとうにありがとうございました。